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【Moon】“凛と透き通る歌声”で韓国のジャズブームを醸成中─ 日本の名手たちを迎えMoonが2ndアルバム発表

日本ではあまり知られていない韓国のジャズシーン。今そこで大きな注目を集めているシンガーがMoonだ。子供の頃から歌手になることを夢見ていた彼女は、音楽を学ぶため入学した大学でジャズと出会って恋に落ちた。やがて彼女はジャズクラブで歌いはじめ、ジャジー・ポップ・ユニット、WINTERPLAYのヴォーカルとしてデビュー。WINTERPLAYsは人気を呼び、韓国のジャズ雑誌「Jazz People」でMoonは最優秀ヴォーカリストに選出される。

そして2017年からソロ活動をスタート。プロデューサーに伊藤ゴローを迎えたファースト・アルバム『Kiss Me』は香港で総合アルバムチャート1位に輝き、いまやMoonはアジアの歌姫として注目を集める存在だ。そんな彼女の最新作『Tenderly』は、再び伊藤ゴローがプロデュースを手掛け、日本の気鋭のジャズ・ミュージシャンが集結。前作のアコースティックな路線を受け継ぎながら、よりバラエティ豊かになった新作についてMoonに話を訊いた。

まさかのパンクロック曲カバー

ーー前作『Kiss Me』に続いて、今回も伊藤ゴローさんがプロデュースを手がけていますね。

ゴローさんとは前作でご一緒したときに、音楽に対する考え方やアイデアが、私とすごく似ていると感じました。それに、あのアルバムを作ったことで、私のやりたいことを分かってもらえた。

今回はそれを念頭に置いてアレンジして頂いたり、レコーディング時も、私が望んでいる方向にリードして頂いて、前作以上にゴローさんとの息はぴったりでした。

ーー今回はストリングスが入って、前作より幅の広いサウンドになりました。アルバムの方向性について、何か意識していたことはありましたか?

前作のナチュラルなサウンドを引き継ぎながら、モダンなアルバムにしたいと思っていました。ストリングスが使えるといいな…と思っていたら、ゴローさんのほうから『今回はストリングスを入れませんか』と提案してくれたんです。それを聞いた時は、アルバムに対して考えていることが似ているな、と思って嬉しかったです。

ドラムは福盛進也さんだったのですが、福盛さんのドラムは曲のストーリーを表現してくれるような繊細な演奏で、曲の雰囲気を生み出すサポートをしてくれました。

Moon『Tenderly』(ユニバーサルミュージック)2019年7月10日 発売

ーー福盛さんは初参加ですが、伊藤ゴロー(ギター)、佐藤浩一(ピアノ)、鳥越啓介(ベース)といった主要メンバーは前作と同じです。彼らとの共演はいかがでした?

アルバムを一枚作ったことで、お互いの人間性やミュージシャンとしての持ち味を知ることができたので、リラックスして共演することができました。良い人間関係を築けたからこそ、前作のレコーディングのとき以上に皆さんがいろんなアイデアを出してくださって、それをアルバムに反映させることができました。

例えばグリーン・デイのカヴァー〈ウェイク・ミー・アップ・ホウェン・セプテンバー・エンズ〉は、強烈なロックの原曲をどんな風にアレンジするのか、イントロの段階から頭を悩ませました。アレンジの大まかなアイデアはゴローさんと私で話あって考えているのですが、この曲は実際にみんなで演奏して、アイデアを出し合い、アレンジをどんどん変えて作り上げた曲なんです。

ーー今作の収録曲は、前作に続いて全曲カヴァーです。コアーズ「ホワット・キャン・アイ・ドゥ」、ミニー・リパートン「ラヴィン・ユー」、マイケル・フランクス「レディ・ウォンツ・トゥ・ノウ」など、ジャズ以外のナンバーもいろいろとカヴァーしていますが、グリーン・デイには驚きました。なぜ、この曲をカヴァーしようと思ったのですか?

この曲を歌いたいと言ったときは、ゴローさんも驚いていました(笑)。じつは4~5年前、韓国のラジオ番組で依頼されて歌ったことがあるんです。その後、また別の番組でも依頼されて歌って“良い感じだな”って思いました。韓国では人気がある曲で、夏になるとよくラジオで流れるんです。ラジオで歌った時はアコースティックなアレンジでしたが、今回はバンド編成のアレンジに挑戦しました。

ーー多彩なアレンジも本作の魅力ですが、ストリングスが入ったジャズ・スタンダード「スワンダフル」では、ブラジル音楽のようなリズムを取り入れていますね。

ジョージ・ガーシュウィンは大好きな作曲家なので、何か一曲歌いたかったんです。ガーシュウィンのメロディーはシンプルなので、いろんな解釈ができて、モダンなアレンジで聞かせるにはもってこいだと思いました。

この曲をボサノヴァ風にアレンジしたカヴァーはたくさんありますが、今回のアレンジは典型的なブラジル音楽とは少し違ったユニークなサウンドになっています。ブラジル音楽に詳しいゴローさんだからこそ出来たアレンジですね。

ーーゴローさんのギターだけを伴奏にした「ビー・トゥルー・トゥ・ミー」(ドリス・デイのカヴァー)は、ボサノヴァ風のアレンジですね。

この曲は最後にレコーディングしました。それまで、曲ごとにいろんなアイデアを出して、最後にどうしようか? となった時に、私もゴローさんも自然な形で自分を出せるアレンジをやってみたいと思いました。私はここ数年、デュオとか小さい編成でやることにとても魅力を感じていて、今回のアルバムでもそういうかたちのものは必ず入れたかったんです。

ーーその路線でいくと、佐藤さんのピアノとのデュオで聴かせる「私を愛したスパイ」(『007/私を愛したスパイ』の主題歌)も良い雰囲気ですね。

これはゴローさんの選曲です。とてもきれいなメロディーだと思いましたが、いざ歌うとなった時、原曲の感じを活かした方が良いのか、思い切り変えた方が良いのかと、ずいぶん悩みました。そんななかで、『小さな編成で、スウィングで表現してみたらどうだろう?』と思いついたんです。

ドラマの影響でジャズバーが人気に

ーーMoonさんの歌声は、ナチュラルな心地良さが魅力です。ジュリー・ロンドンがお好きだそうですが、どんなところに惹かれますか?

ジャズを聴き始めた当初、いろんなヴォーカリストの歌を聴いてみました。そのなかでもとても聴きやすくて、ナチュラルだな、と感じたのがジュリー・ロンドンでした。彼女がギタリストとデュオで作っている『ロンリー・ガール』というアルバムがあるんですが、とても素敵な作品で、リラックスしていながら心地良い緊張がある。そういう歌い方ができるヴォーカリストは決して多くなくて、そういうところに惹かれました。

ーーMoonさんは大学の授業で初めてジャズを聴いて、ジャズの道に進んだそうですね。ジャズのどんなところに惹かれたのでしょう。

大学の頃、私はジャズという音楽がどんなものなのか、はっきりわかっていませんでした、学科の必須授業にあって、そこで初めてジャズを聴いたんです。でも、歌ってみて “すごく楽に歌えるし、自分に合っているかもしれない”と感じました。韓国では〈結婚すべき人と出会うとわかる〉と言われていますが(笑)、ジャズを聴いた時にピンとくるものがあったんです。

ーーちなみに韓国の音楽シーンにおける「ジャズ」は、どんな存在なのでしょうか?

歴史的なことは詳しくはわかりませんが、私が知る限り、70~80年代にジャズをやっていた人たちが、韓国のジャズ・シーンで〈ファースト・ジェネレーション〉と呼ばれています。もちろん、その前からジャズを演奏していた人はいると思いますが、一般の人には聴かれていませんでした。

その後、90年代にテレビの人気ドラマで、登場人物がサックスを演奏するシーンがあったり、〈ジャズ・バー〉なるものが出て来て、そのドラマを通して一般の人たちにもジャズが認知されたのだと思います。その影響で、ジャズ・バーやジャズ・カフェが流行ったりしましたが、ブームが過ぎたらなくなってしまって。今はジャズが好きなマニアが聴いているという感じですね。

ーーそんななかで、Moonさんは韓国ジャズ・シーンの新世代を代表する存在になりました。これからの韓国のジャズ・シーンについて、何を思いますか?

ジャズは不思議な音楽です。すごく昔に生まれた音楽ですが、消えることはなく変化し続けている。だから、またいつか韓国でもスポットが当たるときが来るんじゃないかと思っています。

私が知る限り、日本は韓国よりもジャズを愛する人たちが多い。韓国もいつかそうなってほしいですね。そのためにも、若い世代の努力がもっと必要です。最近、ジャズ・フェスティバルが韓国で行われると、以前よりも若い人がたくさん来てくれるようになってきました。とても良い傾向だと思うので、私も一生懸命がんばりたいと思っています。

Moon 公式サイト

Moon『Tenderly』(ユニバーサルミュージック)2019年7月10日 発売
『Tenderly』発売記念ライブ
日時:2019年8月16日(金)
場所:モーションブルー横浜
開場:4:30 pm/ 開演:6:00 pm
MEMBER: Moon(vo)、伊藤ゴロー(g)、佐藤浩一(p)、鳥越啓介(b)、福盛進也(ds)
http://www.motionblue.co.jp/artists/moon/
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