投稿日 : 2019.06.27 更新日 : 2021.10.12
【review/シャフィーク・フセイン】スライとファラオとアースを J ディラ風に⁇ 現今“LA勢力”の気風を示すポップでドープな快作
- タイトル
- The Loop/ザ・ループ
- アーティスト
- Shafiq Husayn/シャフィーク・フセイン
- レーベル
- Eglo Records
シャフィーク・フセインが10年ぶりのソロアルバムを発表した。彼はサーラー・クリエイティブ・パートナーズ(注1)の構成員で、ビートメイカー兼プロデューサー。自身のソロアルバムとしてはこれが2作目だ。
注1:The Sa-Ra Creative Partners/ロサンゼルスを拠点に活動するプロデューサー・チーム。メンバーは、オンマス・キース、タズ・アーノルド、シャフィーク・フセインの3名。2000年代初頭、そのビートメイクとプロデュースワークが高く評価され、近年は個々のソロワークでも活躍。
で、今作はどんな内容なのか。安い形容詞でサウンドを説明するよりも「参加者」を列記する方が、全体の雰囲気は伝わるかもしれない。
まずは各曲のコラボレーターたち。主だったところを挙げると、エリカ・バドゥ、ビラル、ハイエイタス・カイヨーテ、ロバート・グラスパー、アンダーソン・パーク。
さらに、楽曲プロデュースや演奏で、フライングロータス、サンダーキャット、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、クリス・デイヴ、カマシ・ワシントンらが参加している。
要するに、ジャズ、ソウル、ヒップホップを自由に往来するプレイヤーたちだ。しかも昨今の“LA勢力”を象徴するような面子。本作と、彼の過去作およびサーラー・クリエイティブ名義の諸作を比較すると、今回はかなり「わかりやすい」内容。万人受けとは言わないまでも、ある程度の大衆性を保持した楽曲が多く並んでいる。
とはいえ、彼の作風とも言える “小節を大きくゆったり使ったビート構築” は存在感を増し、バリエーションも豊か。作中の「崩壊寸前の危ういビート」と「反復するビートの快楽」が相対的な関係にあることに、はたと気づかされる局面がいくつもあった。また、こうした “新種のレイドバック感” を備えたビートが、この20年ほどで精錬され、すっかり馴染んできたことも実感する。
加えて、非常に巧みな“生演奏の処理”や、アルバムに通底する“アフロフューチャリズム”や、ヴィンテージな“ネタ感”など、曲中の細かなギミックの面白さを挙げるとキリがない。なかでも象徴的な例をひとつ挙げておくと、ロバート・グラスパーをフィーチャーした「Optimystical」。
アルバムの最後に配置されたこの曲は、The Ensemble Al Salaam『The Sojourner』(1974年)収録曲のカバー(クレジットには明記されていないようだが明らかに同じ曲)である。原曲はいわゆるブラック・ムスリムのメンバーたちが奏でるスピリチュアル・ジャズで、ストラタ・イースト(レーベル)諸作品のなかでも、かなり特殊な存在。
こんな曲をカバーした前例を筆者は知らない。ただ、曲の(特にアウトロの)造形や、彼の音楽的な信条、さらには「影響を受けたもの:アッラーの創造」という公言を知るにつけ、なるほど…と感嘆するばかり。かように、各収録曲にはさまざまな意匠と物語が張り巡らされているわけだが、その一方で、制作者が発表したライナーノーツでは本作をこう名状している。
「スライ&ザ・ファミリーストーンとファラオ・サンダースとアース・ウィンド&ファイアの曲が、マーリー・マールと J ディラ風のドラムで駆け巡る…」
混沌としているが判りやすい。しかもこの一文は、現今の“LAらしさ”をも見事に形容しているではないか。ちなみに、ここで引き合いに出されるアース・ウィンド&ファイアーも、一種のアフロ・フューチャリズムを顕示したグループ。そのビジュアル面を担っていたのは日本人画家の長岡秀星であったが、本作のアートワークも日本人(TOKIO AOYAMA)が手がけているのは、おもしろい暗合である。