投稿日 : 2017.09.15 更新日 : 2021.08.24
【上原ひろみ インタビュー】またも驚きの新作発表…モントリオールのステージで何が起きたのか?
取材・文/内本順一 写真/Giovanni Capriotti
『スター・ウォーズ』大好きなんです
──では収録曲についての話を。オープナーはエドマールが書いた曲で「ア・ハープ・イン・ニューヨーク」。スティングに「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」という曲がありますが、エドマールはコロンビアに生まれた自分がニューヨークでハープを弾いて生きている、という想いなんかをこの曲に込めているんですかね?
どうなんでしょうね。私たち、曲の内容については全然話さないので。まあ“フォー・ジャコ”のようにわかりやすいタイトルがついた曲は、ジャコ・パストリアス好きなんだなって、話すまでもなくわかりますけど(笑)。
──その「フォー・ジャコ」は、ハープでジャコ・パストリアスのような演奏を聴かせる曲で。
彼がジャコを聴いてすごく感動して「僕もハープでグルーヴしたい!」と思って書いたらしいです。これはもともと彼がやっていたのを私が聴いて、一緒にやりたいって言って採用した曲なんです。
──途中、何度か観客の笑い声が入ってますよね。あれはプレイの凄さに呆れて笑っているんですかね?
ああ、あれは “ハープで本当にジャコみたいなベースの音が出るんだ”っていう驚きでしょうね。お客さんにとってはテニスのラリーを観ているような感覚になるみたい。エドマールがベースを弾くようにハープを弾いたら、私もベースを弾くようにピアノを弾き返す。そうくるなら、こう返す。その丁々発止が面白くてお客さんは笑っちゃうみたいです。
──3曲目「月と太陽」は矢野顕子さんとのデュオ(アルバム『Get Together ~LIVE IN TOKYO~』)で発表された曲ですが、このプロジェクトでやろうと思ったのは?
このメロディがハープで弾かれるのを私が聴きたかったので。彼が弾いているところをすごくイメージできたんですよ。
──4曲目はジョン・ウィリアムス作曲の「カンティーナ・バンド」。どうしてこれを?
私が小学生の頃から『スター・ウォーズ』がずーっと好きで、いつかステージで弾きたいと思っていた曲なんです。家で弾くことは何度もあったけど、ステージで弾いたことはなかったんです。で、エドマールと始めたときに「あの曲、絶対に合うなぁ」と思って。最初はちょっとジプシー・スウィングっぽい感じで、そこからラテンに展開していく。まさにふたりのためにあるような曲だなと。それで楽譜に起こしてエドマールに渡したんです。
──彼はどんな反応でした?
これ、ジャンゴ(・ラインハルト)の曲? って言われました(笑)。じつは彼『スター・ウォーズ』をまったく知らなかったんですよ。そんなわけで「これはジョン・ウィリアムスという偉大な作曲家の曲で、映画『スター・ウォーズ』の劇中で使われたんだよ」ってことを教えて。それから私は彼にずっと『スター・ウォーズ』のことを熱く語ったんですけど(笑)。
──上原さん、そんなに『スター・ウォーズ』好きだったんですか。
もう大好きなんですよ。初めて観たのは小学生のときで、そのときに “こんなかっこいい曲があるのか?!” って思って。でもエドマールは『スター・ウォーズ』という作品の影響力を知らないので、この曲をライブでやったときのお客さんの反応にビックリしてました。始まった瞬間、お客さんがみんな笑顔になるんですよ。それを見て「こんなにも影響力のある曲なんだ…」って感動してましたね。私も本当によかったって思いました。しかもそんな曲をスター・ウォーズ・イヤーに出せるなんて感無量ですよ、スター・ウォーズ・ファンとしては。
──そこまで愛しているとは、知りませんでした。
2年前にブルーノートで1週間の公演をしたとき、ちょうど『スター・ウォーズ』の公開週だったので、毎日ステージ上で「スター・ウォーズの公開週にも関わらずライブに来てくださってありがとうございます」って言ってたくらい(笑)。そのときのオリジナルカクテルの名前を“ダークサイド”と“ライトサイド”ってつけたくらい、好きなんです。あの作品には夢があるし、やっぱり音楽がいいですからね。ジョン・ウィリアムスも大好きだし。だから映画が公開されたら必ず3回観に行くんですよ。1回目はトレーラーも観ずに前情報もなしで観に行って、2回目はカメオ出演とかも全部調べて観に行って、3回目は音楽に集中しながら観る。そのぐらい好きなので、この曲を演奏できて本望です。
“半音の制約”がもたらす新しい扉
──「エアー」「アース」「ウォーター」「ファイアー」の4章からなる組曲「ジ・エレメンツ」は上原さんの自作曲です。これぞ、まさにエドマールのハープを最大限に活かすべく書かれた曲なんじゃないですか?
はい、そうです。このプロジェクトのために書きました。
──これだけ壮大な曲を書きあげるのに、どのくらい時間がかかるものなんですか?
どのプロジェクトでもそうですけど、普段から作曲帳みたいなものにいろんなモチーフを書いてるんですね。例えばこれは風のイメージとか、これは雨のイメージとか。そうやっていろんなものを書いてて、そこから引き抜いてきたりすることもあるので、具体的にどれくらいの時間を要したのかはわからないですけど……ただ私はハープという楽器のことを何も知らなかったので、今回エドマールから教えてもらって、制約がけっこうあることもわかりましたが、その上でどんな曲が書けるか? というのは、むしろワクワクすることでした。制約のおかげで普段の自分が行きそうになる進行に行かずにいられたというか。ハープという楽器の制約が、私にとっては逆に新しい扉を開くことに繋がったんです。
──その制約というのは?
半音が出ないということ。それはとても大きなことでしたね。私はけっこう曲のなかで不協和音とかを使うことが多いんですけど、そういうものがないわけですから。
──なるほど。エドマールにとっても新しい扉が開いた感覚があったでしょうね。
自分のためにこんな曲が4曲もできてくるなんて!! って喜んでました。デモ音源を聴いたときは「素晴らしいけど、これ、ハープで弾けるのかな…」って思ったらしいんです。けど「やってみたら全部弾けるようになってて感動した!」って言ってて(笑)。
──そしてラストはアストル・ピアソラの「リベルタンゴ」。これはアンコールとして演奏された曲ですよね。
そうです。1年前にニューヨーク・ブルーノートでやったときにエドマールがもってきて、そこからふたりのレパートリーになりました。ラテン圏の国でものすごく愛されている曲なので、メロディが始まったときのお客さんの昂揚ぶりがすごくて。今度アルゼンチンで公演するんですけど、これをやらなかったら帰れないって言われそう(笑)。
──この先、ふたりのプロジェクトはどう発展していくのでしょうか?
エドマールが1978年生まれで、私が79年生まれ。同世代なので、ずっと長くやっていけたらなと。一段落したらまたお互いにいろんなものを吸収して、またここに戻ってくる。そういうふうに息の長いプロジェクトになるといいなと思ってます。
取材・文/内本順一
上原ひろみ × エドマール・カスタネーダ
『ライヴ・イン・モントリオール』
2017年9月20日 発売