オープニングの「Rhythm Change」は、ビバップ風の演奏に乗って菊地のMCがフィーチャーされるジャズラップ調のナンバー。ピアノやギターのソロがフィーチャーされる一方、菊地のラップにはJaco Pastorius(ジャコ・パストリアス)やRobert Glasper(ロバート・グラスパー)などの名前が挟まれ、ジャズとヒップホップのルーツは同じであるということが伝わってくる。続く「Save Your Love For Me」はJosé James(ホセ・ジェイムズ)のカヴァー。いわゆるジャジーヒップホップで、菊地のヴォーカルもソウルフルにセクシーに決める。ここから吉田沙良がバックコーラスで参加し、続く「ノールームメイト」ではメインヴォーカルをとる。この「ノールームメイト」はSPANK HAPPYの曲。日本語の歌詞で、菊地の作詞家としての優れた才能を示すナンバーだ。吉田と菊地のデュエットで、USのネオソウル的雰囲気を持ちながら、日本独自のシティポップス的な感覚にも包まれる。坪口のエレピ(エレクトリックピアノ)も印象的だ。吉田は続く「Joyride」でもリードヴォーカルをとり、途中で菊地のラップも飛び出すR&B meets Hip Hopな展開。この曲はオランダのシンガー、ジョヴァンカ(GIOVANKA)の曲で、こうしたカヴァーが聴けるのもライブならではの楽しみだ。
この後MCタイムとなり、次の曲から参加するSIMI LABのOMSBを迎え入れる。2人でコント風の掛け合いがあったり、客席は爆笑の渦。菊地はライブの数日前から発熱し、意識も朦朧としたなかでステージをやっているという話もしていたが、それがMCのぶっ飛び具合に拍車を掛けており、面白さが倍増していた。時事ネタ、芸能ネタなどを盛り込む間口の広さが味わえるのも彼のライブの魅力のひとつだ。MC明けの「Riot in Chocolate Logos」もSPANK HAPPYの曲で、ダブ風の味付けを持つアシッドジャズ的な演奏。OMSBのラップ、エレピやドラムソロに加え、今回のステージで唯一となる菊地のテナーサックスのソロもフィーチャーされて盛り上がる。続くdCprGのナンバー「Catch 22」ではSIMI LABのJUMAも加わり、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)やマイルス・デイビス(Miles Davis)から歌舞伎町、戦争などのワードが飛び出す混沌としたジャズファンク。こうしたアグレッシブで風刺的な世界は菊地の本領発揮ともいうべきものだろう。一方、韓国のK-POPのプライマリー(Primary)をカヴァーした「?(ムルムピョ/疑問符)」は、ハングル語を空耳で日本語化したユニークなパーティーラップ。こうした硬軟併せ持つ菊地ワールド全開のまま、最後はライブの定番曲「Do You Know Honey?」へ。レゲエフレーバーを漂わせるメロウグルーヴで、セクシュアルな余韻を残しつつステージは幕を閉じる。
菊地成孔のなかでは最もわかりやすく、かつエンターテインメント性にも富むステージで、彼のいろいろな名義での曲から意表をつくカヴァーが味わえる盛りだくさんな一夜だった。また、SIMI LABや吉田沙良ら若手にも見せ場を作り、彼らをしっかりと育てていきたいという意欲も感じられるライブだったのではないだろうか。
[セットリスト]
1. Rhythm Change
2. Save Your Love For Me
3. ノールームメイト
4. Joyride
5. Riot in Chocolate Logos
6. Catch 22
7. ?(ムルムピョ/疑問符)
8. Do You Know Honey?