投稿日 : 2015.07.10 更新日 : 2018.01.26

Kyoto Jazz Sextet『Mission』 Special Live 2015 Guest 菊地成孔

取材・文/小川充 写真/大森エリコ

Kyoto Jazz Sextet『Mission』 Special Live 2015 Guest 菊地成孔

Kyoto Jazz Massive(以下KJM)などを通じ、長年にわたり日本のクラブ・ジャズを牽引する沖野修也が、KJM結成20周年を機に新たに発足したユニットのKyoto Jazz Sextet(以下KJS)。SLEEP WALKERなどのプロデュースにも関わってきたが、沖野修也自身にとって初めて完全生演奏で挑むジャズ・プロジェクトで、国内の精鋭ミュージシャンを集めた2管クインテット形式の純然たるジャズ・バンドだ。BLUE NOTEから4月15日にデビュー・アルバム『Mission』を発表し、そのお披露目ライブが京都に続いて東京のビルボードでも開催された(京都では「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2015」と連動し、4月26日にハイアット リージェンシー 京都で初ライブを行った)。ラインナップは沖野修也がMCとSEを担当し、quasimode活動休止後すぐにピアノ・ソロ・アルバム『Voyage』を発表した平戸祐介(ピアノ)、松浦俊夫率いるHEXにも参加する小泉P克人(ベース)、菊地成孔のダブ・セクステット/ダブ・セプテットやdCprGで活躍し、自身もリーダー・バンドを率いる類家心平(トランペット)、Mountain Mocha Kilimanjaroの栗原健(テナー・サックス)というアルバムのレコーディング・メンバーに加え、元SLEEP WALKERで現BOOTの藤井伸昭(ドラムス)、そしてゲストとして『Mission』にも参加した菊地成孔(テナー・サックス)という顔ぶれとなった。

全員がダークスーツか黒を基調とした衣裳でステージに上がり(藤井のみTシャツで、栗原は山高帽、小泉はハンチングというお馴染みのスタイル)、幻想的なピアノのイントロに導かれ、サックスとトランペットのブロウがオープニングを告げる。『Mission』でも冒頭を飾ったリー・モーガン(Lee Morgan)のカバー「Search for the New Land」だ。2管による重厚なテーマが印象的で、その後テナー、トランペット、ピアノとソロが続く。栗原のブラックネスとディープさ(彼はカルロス・ガーネットの教えも受けた)、類家のシャープネスとラジカル性、平戸のクールネスと覚醒、それぞれの持味が生かされたソロだ。ちなみに『Mission』はBLUE NOTEのカバー集でもある。「Search for the New Land」を筆頭に1960年代半ばの新主流派をモチーフとし、それを2015年の新たなジャズとして発信するという命題を背負っている。KJSをモーガン版「Search for the New Land」に置き換えると、類家がモーガン、栗原がウェイン・ショーター(Wayne Shorter)、平戸がハービー・ハンコック(Herbie Hancock)の役割を担っている。続く「The Melting Pot」はフレディ・ハバード(Freddie Hubbard)の曲。アフロ・ラテンやサンバを咀嚼したリズミカルなドラミングは、SLEEP WALKERやKJMのライブ・バンドなどで活躍した藤井によって、より強化された印象だ。テナーとトランペットの掛け合いのソロ演奏後、Warの「Flying Machine」にインスパイアされたピアノ・リフが挟まれるところは、スタジオ録音になかったアイデアだ。平戸のピアニストとしての真骨頂は、続くハンコック「Succotash」のカバーで露わになる。ピアノ・トリオでの演奏で、サンバとマーチを合体したようなドラム・ビート、ミニマルなベース・リフレインに乗せて、平戸のダークで神秘的なプレイが光る。途中4ビートでアルバムよりも長いインプロビゼーション演奏を展開し、マイルス・デイビス(Miles Davis)の「Milestones」などジャズの古典フレーズが遊び心一杯で飛び出すところは、平戸の核にあるバップ・イディオムの表れだろう。また、ドラム・ロールにSEが被さる場面は、クラブ・サウンドを知り尽くした沖野修也らしいアイデアだ。

ウェイン・ショーター「Speak No Evil」のカバーには、アルバムと同じく菊地成孔が参加する。同じくショーターの名曲「Footprints」のベース・ランニングを“マッシュ・アップ”した沖野ならではのアレンジに基づき、2管テーマの後に菊地のテナー、類家のトランペット、平戸のピアノ、藤井のドラムとソロ回しが続く。菊地のソロはショーターへのオマージュを感じさせるもので、それに続くのは類家のアブストラクトなムードから切り裂くように咆哮するソロ。彼ら2人の師弟対決も見ものだ。そして、菊地と栗原が入れ替わり、最後の曲はジョー・ヘンダーソン(Joe Henderson)「Jinrikisha」のカバー。アルバムどおりブラック・ルネッサンスをモチーフとした導入だが、今回は平戸のソロが大きくフィーチャーされたイントロとなる。クラシック・ピアノの要素を盛り込んだ演奏で、彼の才能や技術が集約されている。その後、ジャズ・ファンク調のドラムが入り、2管でのテーマ、ピアノ、トランペット、テナーとソロ回しが続き、ドラムとベースによるパワフルなクライマックスを経て、再びテーマへ戻って終わりを迎えた。アンコールはKJMのヒット曲「Eclipse」を4ビートでジャズ・カバー。アルバム同様に菊地も参加し、菊地、栗原のダブル・テナーに、類家のトランペットという3管で聴かせる。残念ながら、アンコール前にかなり時間が押してしまっており、この「Eclipse」はややコンパクトなものとなってしまった。しかし、それを差し引いても、非常に聴きごたえのある東京でのファースト・ステージであったことは間違いない。7月18日(土)には横浜・Bayside YOKOHAMA、9月5日(土)には、「第14回 東京JAZZ」への出演が決まっており、そこでまたどんなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみである。

【セットリスト】

  1. Search for the New Land
  2. The Melting Pot
  3. Succotash
  4. Speak No Evil
  5. Jinrikisha
  6. Eclipse (アンコール)