投稿日 : 2015.07.31 更新日 : 2018.02.26
熊谷和徳 × 高木正勝
取材・文/山本将志 写真/大森えりこ
ステージの照明が落ち、BGMが止まる。静寂のなかを全身白でコーディネートした熊谷がステージに登場し、まずはソロでのスタートとなった。中腰にかまえ、上半身でバランスを取りながら、さまざまな種類のタップを高速に踏んでいく姿は、まるでアスリートのようにも映る。2分ほどのソロが終わると拍手がわき起こり、次に高木が登場し、ピアノを奏でていく。優しいピアノの音色の隙間をぬっていくような熊谷のタップ。5分におよぶセッションを終えると、熊谷がダダンッと力強くタップを踏み、少しの無音の時間をおき、ようやく拍手がわき起こる。
熊谷がつま先を使い、円を描くように摩擦音を奏でていくと、それに対して高木も滑らかな指使いで流れるように音を添えていく。ピアノのピッチが速くなると、熊谷のタップもそれに伴い徐々に力強くなっていく。個性と個性のぶつかり合いというわけではなく、お互いの奏でる音を聴き、それに合う音を反射的に演奏しているようであった。熊谷は、エコーなどのエフェクトも巧みに使い、音に幅広さを持たせていたのも印象的だった。
熊谷がステージから下がり、高木のソロへ。彼を斜め下から照らす照明により、ステージ上の背面だけでなく、フロアの側面にも演奏する高木の影が映し出される。本人のそばで斜め下から眺めるような影は、特等席にいるような感覚を体験させてくれた。
高木のソロが終わると今度は熊谷のソロへ。高木とは違い、熊谷の背後から照明が照らされ逆光となり、フロアからは熊谷のシルエットだけが見えるようになる。今回のソロは12分にもおよぶ長いもの。これだけじっくりとタップの音を聴く機会は、なかなかないかもしれない。この時間のなかで、口ずさみたくなるようなリズム、思考が追いつかないほど複雑で高速のリズム、同じリズムでも音のキーを変えて聴かせるなど、さまざまなタップの音を詰め込んだソロだった。
終盤になると二人の演奏にアーティスト、中山晃子による映像が加わる。水に水彩絵の具を垂らした時のようなカラフルで美しい世界が二人の背景に広がる。熊谷もステージを下り高木のそばで踊りだす。両者の距離は今まで離れていたため、これだけ接近しての演奏はこの時が初めてだ。熊谷のタップは、音を拾うマイクのない場所で踊っていたためあまり聴こえなかったが、感情が高まった高木はスタンディングでピアノを弾き歌っていた。アンコールを前に「高木さんと一緒にやることになって、ぱっと思いついたのは、シンプルに生きていきたいなってこと。それは、人それぞれだと思うけど、自分の場合はタップの楽しさをもっと探していきたい」と話して、アンコールの演奏を終えて公演は終了した。
後日、熊谷和徳にインタビューをする機会があったので、この高木正勝とのツアーについて聞いてみた。「東京公演の前日に高木さんが『全部リセットしてプログラムを組まずにやりたい』みたいな話をして、みんなびっくりしちゃって(笑)。でも、この日の高木さんはすごく人間らしかった。自分の思う方向に素直にいってたから。すごくいい表情してたのが印象的でした」
今回の公演会場は、WWWという映画館を改装したライブ・ハウス。スタンディングで500人は入るだろう、けっして小さくない規模の会場だ。ステージから一番離れた場所にいた筆者にまで、リズムを口ずさむ熊谷のかすかな声が聴こえてくるほどの会場の静けさ。まるで美術館でアートと対峙するような空気が漂う稀有な公演だったように思う。熊谷は7月29日(水)から8月2日(日)の5日間にわたり、自身のタップ・スタジオで50名限定で日替わりのセッションイベント「表現者たち」を行う。ゲストも日替わりで石橋英子、沖祐市、OLAibi、Jim O’roukeが登場する。この公演も大きな会場ではできない、アート性を追求したものであるだけに非常に楽しみだ。
-公演情報-
タイトル:
『表現者たち』NEW BEATNIK GENERATION
開催日:
7月29日(水)~8月2日(日)
会場:
中目黒Atelier K.K.(東京都目黒区上目黒1-5-10 中目黒マンションB1F-11号室)
時間:
7月29日(水)~8月1日(土)開場19:00/開演19:30 ※8月2日(日)のみ開場16:30/開演17:00
料金:
全席自由3,500円 5days通しチケット14,000円(※10名限定)
出演:
07月29日(水)石橋英子
07月30日(木)沖祐市(東京スカパラダイスオーケストラ)
07月31日(金)OLAibi
08月01日(土)Jim O’rouke
08月02日(日)KAZ SOLO