投稿日 : 2015.08.24 更新日 : 2018.01.11
秋吉敏子& Monday満ちる “DUO”
文/山本将志 写真/山路ゆか
2007年にアメリカジャズ界で最も権威のある「ジャズ・マスターズ賞」を日本人として初めて受賞。今までにグラミー賞を11回も受賞するなど輝かしいキャリアをもち、86歳にして現役であり続けるジャズ・ピアニスト秋吉敏子。一方、クラブ・ジャズ黎明期よりMONDO GROSSOやKyoto Jazz Massive、Basement Jaxxなどの楽曲にボーカルとして参加し、アシッド・ジャズの先駆者としても知られるMonday満ちる。オーセンティックなジャズとアシッド・ジャズ、活動してきたシーンは違うが共に世界を舞台に活躍してきたアーティスト同士であり親子である二人が、アルバム『Jazz Conversations』をリリースし、7月22日(水)にBlue Note Tokyo(東京都港区)でデュオ公演が開催された。
見る限り満席となった本公演。大きな拍手と歓声のなか、両者がステージに登場。その盛大な出迎えにMonday満ちるは、満面の笑みを見せる。一曲目は秋吉の代表作「Long Yellow Road」にMonday満ちるが歌詞を乗せ歌う。アルバムと同じスタートだ。「これを聴かないと秋吉敏子を聴いた気がしないとよく言われるので、アメリカでもヨーロッパでも必ず最初にするようにしています」と演奏後のMCで秋吉自身が説明していた。ここから秋吉のソロが続く。まず日本の民謡「木更津甚句」をアレンジした楽曲。秋吉の作品には、日本人のアイデンティティーを反映した楽曲も多く、日本の文化をジャズに変換して世界で紹介し続けたことも彼女の功績のひとつだろう。左手でファンクのようなグルーヴィーなループをつくり、右手で即興かと思う複雑なメロディーが合わさった音楽が奏でられていた。そして初めて弾くから挑戦と言っていたアメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィン作のオペラ『ポーギーとべス』の「I Loves You, Porgy」で切ないピアノへ。足の悪いポーギーと娼婦ベスとの恋愛を描いた本作。時折、ピアノのキーをずらす音は、足の悪いポーギーを連想させる。そして秋吉自身も好んでよく弾くと言っていたディジー・ガレスピー「Con Alma」がアップテンポなバージョンで演奏された。
Monday満ちるがステージに呼び戻されると「あらためまして、私のお母さんです。怪獣のようなお母さんです」と笑いを誘いアルバム収録曲の「Warning: Success May Be Hazardous To Your Health」を披露。Monday満ちるのスキャットとフルート、そしてクラップの音色が会場を明るい雰囲気に変える。母の数ある楽曲の中から特に好きな曲で、「成功は健康に危険」とも訳せる面白いタイトルにも幼いころから惹かれていたと語る。そして「母とのデュエットのために作った曲」と説明し「Love And Life」へ。秋吉のピアノはMonday満ちるを優しく見守るようにサポートに徹し、艶やかなMonday満ちるの歌声を生かしていた。そして小刻みなリズムが心地よい「One Note Samba」、秋吉の音楽生活60周年を記念してMonday満ちる、日本を代表する詩人の谷川俊太郎の三人で平和への願いを込めて作られた「HOPE希望」を日本語で披露しステージは、幕を下ろした。
ここから、アンコールへと続いていくわけだが、アンコールを求める拍手の大きさに、途中でステージに引き返した秋吉は、セロニアス・モンクのスタンダード・ナンバー「Round Midnight」を演奏。しっとりとした質感のピアノの音色が心地よい。そしてMonday満ちるの大人の女性が持つ色気や哀愁を色濃く表現し歌いあげ、Blue Note Tokyoで過ごす夜にぴったりな正統派なジャズで締めくくられた。そして、その余韻は極上のものだった。