BLUE NOTE系列のCOTTON CLUBは、禁酒法時代の1920年代、ニューヨークのハーレムで華やいだナイトクラブのエッセンスを現代に取り入れた大人の遊び場。エントランスのレッドカーペットを通り抜けると、音符をかたどったシャンデリアがきらめく洗練された空間が広がる。丸の内に集まった大人たちは開演までの時間、猛暑で渇いた喉を潤し、とっておきのフレンチを囲んで会話を楽しんでいる。
照明が落ち、ホワイトにブラックのラインがクールなサマードレスをまとってジョイスが現れた。ワールドツアーや最新作で共にしているメンバーとステージへ上がる。ジョイスの音楽と人生、両方のパートナーであるドラマー、トゥチ・モレーノをはじめ、ピアニストのエリオ・アルヴェス、ベースのロドルフォ・ストローターと、いずれもブラジルの実力派ミュージシャンだ。ジョイスは椅子に腰掛け、脚を組んでアコースティックギターのストリングに指をセットする。軽快なスキャットのサンバ「SAMBA DE MULHER」からスタートした。ブラジルの女性フルーティスト、コンポーザーのレア・フレイリとの共作だが、どこまでも広がる青空へ抜けていくような彼女の歌声は、聴いているだけで心が解き放たれるような気がする。ここからニューアルバムの曲が続く。
名画『ウェストサイド・ストーリー』で知られるアルバムタイトル曲「COOL」、恋の悲しみをしっとりと歌い上げた「INVITATION」、コール・ポーター作の軽快な「LET’S DO IT」のカバーの後には、英語と片言の日本語でMCが入った。子どもの頃、ジョイスの母が好きでよく聴いていたというペギー・リーのヒットナンバーの中から「FEVER」を披露。ドラマーはスティックを脇に置き、スネアをボンゴに見立てて手のひらでリズムを繰り出す。見事に息の合ったピアノとドラムのソロが終わると、歓声と拍手がわき起こった。
「LOVE FOR SALE」の後は数曲、ホームタウンのブラジルの曲が続く。歌とギターで聴かせる「AGUAS DE MARCO」、ボサノバの創始者、アントニオ・カルロス・ジョビンの「DESAFINADO」や、バーデン・パウエルの「CANTO DE YANSAN」を叙情豊かに歌い上げ、聴衆は彼女の世界へとさらに引き込まれた。そこから一転、青空をイメージさせるような活気ある「BOIOI」、クールな印象のギターフレーズから始まる「PENALTY」へ。ピアノとドラムのソロに入るとジョイスがメンバーに嬉しそうに目配せしている。息もピッタリだ。すぐさま次の「FEMININA」へ。抜けるような高音が清々しいこの曲は、中盤、ミュートから徐々にドライブ感を増し、クライマックスを迎えたところでフィナーレ。アンコールは「O MORRO NÃO TEM VEZ」。アントニオ・カルロス・ジョビンの名作を、コンテンポラリーにアレンジしてあるが、アップテンポなリズムとジョイスのうっとりするようなメロディがとても心地よかった。彼女は投げキッスをしてステージを後にした。
音楽好きな家族の中で育ち、ブラジル音楽はもちろんジャズもよく聴いて育ったというジョイス。彼女とそのバンドの大きな魅力は、ブラジル音楽の中に見事に溶け合ったジャジーな感性だろう。新作も多く披露したが、アルバムよりもさらにドライブ感を感じさせる演奏だった。うだるような暑さのことも忘れて、ジョイスの声に、音に酔いしれた一夜だった。
[7/30 1st stage セットリスト]
01. SAMBA DE MULHER
02. COOL
03. INVITATION
04. LET’S DO IT
05. FEVER
06. LOVE FOR SALE
07. AGUAS DE MARCO
08. DESAFINADO
09. CANTO DE YANSAN
10. BOIOI
11. PENALTY
12.FEMININA
ENCORE)) O MORRO NÃO TEM VEZ