投稿日 : 2016.02.19 更新日 : 2018.01.26
Chris Dave and the Drumhedz
取材・文/熊谷美広 写真/Masanori Naruse
ロバート・グラスパー、ディアンジェロ、アデルなどと共演し、これまでのドラマーとはまったく違ったユニークなスタイルで注目を集めているクリス・デイブ。彼が率いる“the Drumhedz”のライブがBillboard Live TOKYO(東京都港区)で行なわれた。メンバーは、ニック・マクナック(b)、ボビー・スパークス(key)、ケヨン・ハロルド(tp)、フランク・モカ(perc)。ボビー・スパークスはクリスの従兄弟だそうだ。 クリスによるメンバー紹介のあと、スローなファンク・ビートからライブはスタートし、結局、約75分間ノンストップの演奏が繰り広げられていった。 その内容も、楽曲をプレイするというよりは、メロディーがモチーフとして提示され、それに沿って5人が自由にインプロビゼイションを展開していく、といった感じだ。途中、クリスがメンバーに指示を出して、展開を次々と変えていく。ファンクから、次第にテンポがアップし、その後ロックっぽくなったり、レゲエっぽくなったりと、5人が軟体動物のように、自由に形を変えていく。途中、マイルス・デイビスの「TUTU」を思わせるサウンドが出てきたが、今回の彼らのライブ手法も、実は「TUTU」の頃のマイルスがやっていたアプローチの発展型ともいうべきものでもあり、彼らのルーツにマイルスの音楽があるのだな、と感じた。ケヨンのトランペットもマイルスを意識したようなプレイだったし、ボビー・スパークスもマイルスのTシャツを着ていたし。
その後興味深かったのは、キーボードとベースが一定のビートをループのようにキープし、トランペットが次々とさまざまな楽曲のメロディーを奏で、ドラムとパーカッションがそれに絡んでいく、というパート。まずはナット・アダレイの「Work Song」がファンキーに奏でられ、キーボード・ソロとトランペット・ソロを経て、今度はマイルスの「Milestones」、そこからセロニアス・モンクの「Rhythm-A-Ning」がチラリと出てきて、マイルスの「Nefertiti」へと続いていく。 「Nefertiti」のマイルス・バージョンでは、マイルスとウェイン・ショーター(sax)が淡々とメロディを奏で、それをバックにトニー・ウィリアムスのドラムが壮絶なソロを展開していく、という衝撃的なアプローチだったが、ここでもクリスのドラムが炸裂し、圧倒的なテクニックと存在感を見せつけていた。そこからリズムが3拍子に変わり、演奏されたのは、なんとジミ・ヘンドリクスの「Manic Depression」。こういった選曲からも、彼らがどんな音楽を聴いて育ってきたのかがよくわかっておもしろい。その後パーカッションのロング・ソロからアフリカ風のビートへと進んでいき、そこからスローなリズムへと展開していって、フェイドアウトのように演奏が終了した。 ステージ全体を通じて、やはりクリスのドラムのユニークさと強烈さが際立っていたし、パーカッションと織り成すポリリズム的なビートも強烈なグルーブを生み出していた。右前方にハイ・ハットがあり(しかも穴がいっぱい開けられている)、またシンバルをらせん状に切ったものがあるなど、セッティングも他のドラマーとは違っているし、ドラム椅子もバー・カウンターにあるようなロング・スツールだ。本当に超個性的なドラマーだと思う。しかもthe Drumhedzでは、ドラムはリズム・キープをせずに、基本的にベースとキーボードが全体のリズムをキープして、クリスはそのうえで自由に、まるでメロディーを奏でているかのように、ドラムで歌っている。そう、彼のドラムは“メロディー楽器”なのだ。まさにこれまでのドラムの概念を覆すような、画期的なアプローチである。 マイルスやジミヘンがやろうとしていたことを現代に継承し、そのうえで彼らでしか作り出せない超個性的な音楽を見事に生み出していたクリス・デイブとthe Drumhedz。まさに新しいインプロバイズド・ミュージックのひとつの形を見せてくれた、斬新で強烈なライブだった。