birdの、ニュー・アルバム『Lush』のリリースを記念したライブがBillboard Live TOKYOで行なわれた。『Lush』は、birdの新たなる挑戦というか、“冨田ラボ”こと冨田恵一をプロデューサーに迎えて、彼とbirdの二人だけで制作された作品だが、それをライブで披露するにあたって、バンドのメンバーも一新された。冨田恵一自身がキーボードをプレイし、坂田学(ds)、鹿島達也(b)、樋口直彦(g)、綿引京子(cho)、斉藤久美(cho)というメンバー構成だ。
このライブは、『Lush』の全曲を、曲順通りに歌う、という内容だったが、こういったアプローチも、彼女のライブでは初めてだという。このアルバムは、最近のジャズ系ミュージシャンたちによるリズム・アプローチを取り入れつつも、必要最小限の音数で構築されたトラックをバックに、birdの歌声を最大限に表現するというコンセプトで制作されていたが、すべて二人だけのスタジオ作業で作られていたものなので、おそらくライブは想定して作られたものではないのだろう。だからその世界観を、ライブでもしっかりと表現できるのだろうか、という不安もあったのだが、そこはサウンド・プロデューサーである冨田恵一の腕の見せどころというか、ライブでもまったく違和感のないサウンドが展開されていた。そのあたりのセンスはさすがだ。ミュージシャンたちのプレイも、ソロなどはほとんどなく、あくまでもアルバムの世界観を大切にした繊細かつ正確なプレイで、birdの歌声をしっかりとサポートしていく。そしてbird自身も、そんな彼らが作った音空間の中で、ユラユラと、とても気持ち良さそうに泳いでいる。いい意味でリラックスした、だが存在感溢れるボーカルで、リスナーをグイグイ引き込んでいく。ファンク・ビートとオリエンタルなメロディーが交錯する「Can’t Stop」、じっくりと歌い上げるバラード「明日の兆し」、アフリカン・テイストも取り入れた「Wake Up」、そしてアルバム中最もアグレッシブな「Ten」など、アルバムの空気感はそのままに、さらにライブならではのグルーブ感や躍動感が加わって、新鮮なサウンドとなって耳に飛び込んでくる。ライブ中、彼女は何度も“楽しい!”と言っていたが、それは正直な気持ちだろう。冨田恵一とミュージシャンたちが作り出した空間の中で、birdがイキイキと、そして楽しそうに遊び回っている、という印象だ。
これまでの彼女のライブは、彼女自身もバンド・メンバーの一人として機能しているというか、すべてのミュージシャンが対等な立場で、それぞれの“会話”や“呼吸”を楽しむ、というアプローチになっていた。ミュージシャンたちのソロも多いし、ステージ上で音楽が生き物のように変化していった。だが今回は、あくまでも楽曲とbirdの歌の良さを、メンバー全員で最大限に引き出していく、といったイメージだ。だからこそ、彼女の声の良さ、歌の表現力、そして彼女自身が書いた歌詞のメッセージなどが、ストレートに伝わってくる。これはまさに、新しいドレスを身にまとったbirdの歌だ。シンプルだけど可愛いメッセージが込められた「アイスクリーム」、そしてbirdらしい前向きなメッセージが込められたラストの「道」の表現力などは、やはり素晴らしかった。さらに「道」では、冨田恵一のロング・ギター・ソロも聴くことができた。
そしてアンコールでは、「この曲は久しぶりに歌います」という言葉と共に、これまた冨田恵一がプロデュースした2006年の『BREATH』に収録されていた「パレード」が披露された。セカンドラインのハッピーなビートに乗って、birdもソウルフルな歌声を聴かせる。ここではライブ感溢れる、自由な演奏が展開され、ここで、これまでのbirdの音楽と、『Lush』の世界がひとつになったような気がした。
おそらく今回のライブは、彼女にとってもひとつの挑戦だったと思う。そして結果的に、彼女の世界が、さらに大きく広がったといえそうだ。ここから彼女の音楽がどのような進化を見せるのか、それも楽しみになってくる、新鮮で楽しいライブだった。