投稿日 : 2016.07.07 更新日 : 2018.01.25
ジャイルズ・ピーターソン presents WORLDWIDE SESSION 2016- サン・ラ・アーケストラ featuring マーシャル・アレン
取材・文/熊谷美広 写真/WORLDWIDE SESSION
“太陽神”である“サン・ラ”のメッセージを世界中に発信すべく、1950年代に結成されたサン・ラ・アーケストラ。アーケストラとは“方舟”を意味する”Ark”と、”Orchestra”を合体させた造語だ。彼はジャズ、ブルース、ゴスペル、ラテン、ファンク、ディスコ、電子音楽など、さまざまな音楽の要素をゴッタ煮のように過激にミックスし、さらに宇宙的なメッセージも盛り込んで、とても自由で、何ものにもとらわれない唯一無二の音楽を創り出し、後のミュージック・シーンに大きな影響を与えた。
中心的存在だったサン・ラ、そしてグループの“大番頭”的存在だったジョン・ギルモアはすでに他界してしまったが、1957年から同グループに在籍していたサックス奏者のマーシャル・アレンが彼らのスピリットを引き継ぎ、現在も活動を続けている。そんなサン・ラ・アーケストラが、ジャイルズ・ピーターソンがプロデュースするイベント「Gilles Peterson presents WORLDWIDE SESSION 2016」に出演した。
ステージに登場した13人のメンバーは、いずれもカラフルなラメの衣装に身を包んでおり、会場全体が、これからいったい何が始まるのだろう、という期待感に包まれていく。そしてメンバーたちによるフリーなインプロヴィゼイションから始まり、そこから強烈なスウィング・ビート、フリー・ジャズ、ブルージーなフィーリングなどが過激に融合された独特のサウンドが、次から次へと繰り出されていく。
じつはサン・ラは、希代の天才アレンジャーでもあったが、その方法論と音楽的アプローチは、いまも彼らに継承されている。合っているのかいないのかわからないような、でもドライブ感あふれるホーンのアンサンブルと、女性シンガーのタラ・ミドルトンのソウルフルなボーカル、そしてステージの右や左をウロウロしながら、フリーキーなトーンでアグレッシブなアルト・サックス・ソロを披露するマーシャル・アレンという、“カオス”でありながらも、どこか“秩序”も感じさせる、まさに絶妙なバランスで作り上げられたサウンドは、彼らの本領発揮ともいうべきものだ。またマーシャル・アレンは時折サックス・シンセサイザーも使い、宇宙的なイメージも醸し出していく。
彼らの代表曲であるファンキー・チューン「Space Is The Place」をはじめとするオリジナル曲に加え、ジャズのスタンダード・ナンバー「Some Times I’m Happy」、ディズニー・アニメ『ピノキオ』の主題歌「When You Wish Upon A Star」、ブルースのスタンダード・チューン「Everyday I Have The Blues」といったカバーも演奏されたが、どの曲も、サン・ラ・アーケストラならではの、アグレッシブな、だが美しいメロディはそのまま活かされたアレンジが施され、個性的な音楽に生まれ変わっている。このあたりはマーシャル・アレンのセンスの良さなのだろう。しっかりとサン・ラの音楽を継承しながらも、彼らの“現在”も、ちゃんと表現している。伝統と革新と自由が、ここには共存しているのだ。
ライブ終盤になると突然、ドラムのウェイン・アンソニー・スミスJr.がステージ前に出てきて、宙返りを含むダンスを披露したり、ホーン・セクションのメンバーがステージから消えたと思ったら、客席に登場して、演奏しながら練り歩いたりと、もうやりたい放題。そのエンターテインメント性あふれる祝祭的なパフォーマンスは、音楽のライブというよりも、もはや“儀式”に近いといえるだろう。こうやって太陽神“サン・ラ”のスピリットが、2016年の日本のファンたちにも、音楽を通じて伝わっていった。
まさにワン・アンド・オンリー。独特の世界観と、不思議なサウンドと、ワクワクするような高揚感を提供してくれた、マーシャル・アレンとサン・ラ・アーケストラ。天の上のサン・ラとジョン・ギルモアも、きっと微笑みながら、彼らのパフォーマンスを楽しんでいたことだろう。“音楽の方舟”の航海は、まだまだ続いていく。