投稿日 : 2017.01.24 更新日 : 2018.06.21
ジャズレジェンドによる新ユニット 新作を引っ提げた初来日公演
取材・文/熊谷美広 写真/佐藤拓央
現在78歳の、ジャズ界のレジェンドの1人であるチャールス・ロイド。1960年代には、当時まだ若手だったキース・ジャレットやジャック・ディジョネットを擁するグループで、いち早くジャズ・ロックにアプローチしたり、また80年代には、当時まだ無名だったミシェル・ペトルチアーニをグループに抜擢するなど、卓越した音楽センスで、ジャズ・シーンを駆け抜けてきた。
そんな彼が2015年から活動しているユニット“ザ・マーヴェルス”を率いて来日した。メンバーは、ビル・フリゼール(g)、ルーベン・ロジャース(b)、エリック・ハーランド(ds)。彼らが昨年リリースしたアルバム『I Long To See You』に参加していたグレッグ・リース(g)は不参加だが、それでも興味深い実力派揃いだ。
4人がステージに登場し、フリゼールのソロ・ギターによるイントロから、テナー・サックスとギターのユニゾンで、カントリー・ゴスペル・テイストの「Anthem」が奏でられ、ライブはスタートした。その後は最新アルバム『I Long To See You』と、2009年のアルバム『Mirror』収録曲を中心にプレイ。ロイドのテナー・サックスは力強く、ときにメロディアスに、そしてときにアグレッシブなソロを聴かせ、存在感抜群だ。ゴリゴリと吹く、ぶっといソロが心地いい。そこにフリゼールの繊細かつ大胆なギターが、全体をふんわりと包み込んでいく。
リズム・セクションの2人も確実なプレイでロイドとフリゼールをしっかりとサポート。全体の音数は多くはないが、4人それぞれが、しっかりと自己主張をしており、それがこのグループの個性になっている。ロイドの代表曲のひとつである「Of Course, Of Course」では、セカンドライン風のリズムに乗せてロイドがフルートをプレイするなど、彼らの幅広い音楽性をセンスよく表現していた。
このグループの、もうひとつの大きな魅力は、やはりフリゼールのギターだ。スケールが大きく、ゆったりとした、空間をユラユラと泳ぐようなギターが、ロイドのテナーと融合することによって、不思議な化学変化を起こしていく。「剛」のロイドと「柔」のフリゼール、といった感じだろうか。だがそんな2人が絶妙にフィットしている。ロイドがソロを取っていない時は、完全なギター・トリオの状態になるので、まさにフリゼールの本領発揮だ。メロディアスだが、やっぱりちょっとひねくれたソロは、やはり彼ならではだ。ロイドも、フリゼールには全幅の信頼を置いているようで、そんなフリゼールのプレイをニコニコと微笑みながら見つめ、また興が乗ればパーカッションで参加していく。
後半、マイナー・ワルツで心地よくグルーブした「Little Peace」(1964年の『Discovery!』に収録)、そしてカリプソっぽいリズムの「Passin’ Thru」(ロイドが参加した、チコ・ハミルトンの1962年作品『Passin’ Thru』に収録)で、4人がハッピーに盛り上がる。アンコールでは、ロイドとフリゼールのデュオによる「Abide With Me」がしっとりと演奏され、この日のライブは感動的に幕を閉じた。
チャールス・ロイドの強烈な個性と、まだまだ衰えないバイタリティ、フリゼールのワン&オンリーの個性、そしてザ・マーヴェルスの充実ぶりが伝わってきたパフォーマンスだった。今年一発目にして、今年のベスト・ライブのひとつに挙げられるような、素晴らしい舞台だったといえるだろう。