メルボルンといえば、今年フジロック初出演を果たしたハイエイタス・カイヨーテを筆頭に、近年ジャズ系やクラブシーンなどで多くの有望アーティストを輩出する街。ずいぶん前に海外の友人から「今いちばん熱いのはメルボルンだ!」と聞かされたことがあったが、そのシーンがここにきて日の目を見ているのだ。
とはいえ、日本でその実態を知る人はまだまだ少ないと思う。本作『Sunny Side Up』は、そんなメルボルンの“ジャズ系シーン”で頭角を現す若手にスポットを当てたハイライト的作品集。南ロンドンの新世代ジャズ・シーンを世に知らしめた話題作『We Out Here』を手がけた、ジャイルス・ピーターソン主宰の「Brownswood Recordings」による最新コンピレーション・アルバムだ。
オーストラリア南東の海岸沿いに位置するメルボルンは、シドニーに次ぐオーストラリア第2の都市。緑豊かな景観と歴史的な建物、近代的なビルが融合した独特の魅力を持つ街だ。
一方で、多文化と融合したアートや音楽があふれるアーティスティックな側面も持ち、同地に無数に点在するストリートアートは観光の目玉になっているほど。住民たちも、こういったアートに対する寛容さも持ち合わせており、若手たちも伸び伸びと活動できる環境にあるようだ。
本作の参加アーティストも、こうした中で育まれた俊英たち。収録は、北メルボルン郊外のコーバーグに位置するスタジオ「The Grove」にて、わずか1週間で完遂。ジャズにディープ・ハウス、ブロークン・ビーツ、チャチャ、サンバといった他ジャンルの要素を配合したバラエティに富んだ内容に仕上がっている。
Phil Stroud(#1)は、地元からデビューしたプロデューサー兼ジャズ・パーカッショニストで、Dufresne(#2)と Kuzich(#3)は、メルボルンを拠点に活躍するアート集団「Mandarin Dreams」のメンバー。
Audrey Powne(#4)は、ネオ・ソウルバンド「The Do Yo Thangs」で活躍する女性ボーカリスト兼トランぺッターで、Laneous(#6)は、ジャイルス・ピーターソンから“天才”と絶賛されるほどの逸材だ。
なかでも注目は、“ハイエイタス・カイヨーテに続く新星”として熱い視線が注がれるバンド 30/70(サーティ・セヴンティ)の面々。女性ボーカルの Allysha Joy(#9)とベースの Horatio Luna(#8)は、それぞれソロで参加しており、ドラムの Ziggy Zeitgeist は、自身の9人組バンド「Zeitgeist Freedom Energy Exchange」(#5)として楽曲を提供している。
多様な音楽ジャンルとのクロスオーバー、女性陣の活躍など、南ロンドン・シーンとも多くの類似点を持つメルボルンだが、相違する点もある。それは、確固たる音楽の歴史を持たないこと。つまり、若手の成長とともにジャズ(とその周辺の音楽)の復権に成功したロンドンに対して、メルボルンは、いまが興隆の第1期。まさにこれからのシーンなのである。
この点についてリリース元のBrownswoodは以下のようにコメントしている。
「メルボルンは、ジャズなどの文化的歴史を持つほかの国とは違う。それゆえ、メルボルンのサウンドは伝統や慣習に捕らわれることがない。彼らにとってはジャズでさえひとつの考え方。ゆえに彼らのアウトプットは無限なのです」
前述の通り、メルボルンの音楽シーンは我々日本人にとってはあまり馴染みのないもの。しかし、昨今のハイエイタス・カイヨーテらの活躍で、その音楽に好印象を持っている人も少なくないはずだ。日本から8000km以上も離れた南半球の街では、一体どんな音楽が奏でられているのか? まずはこの作品をスタートに、その実態を探っていくのも良いかもしれない。