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iPhone7(2016年発売)からイヤホンジャックが廃止された。これをきっかけに、オーディオシーンのキラーアイテムとなったのが、ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンだ。
Bluetoothで無線接続するワイヤレスホンは現在、市場を席巻。なかでも主役に躍り出ているのが両耳のイヤホンをつなぐケーブルを廃した「完全ワイヤレスイヤホン」だ。しかし、依然として「Bluetooth接続は音質が悪い」という意見もあり、有線タイプを使い続けるオーディオファンも少なくない。
Bluetooth接続の音質は有線接続に比べ本当に貧弱なのか。今回は、Bluetoothを利用したリスニングで、音質の重要な決め手となる「バージョン」と「コーデック」をメインに、Bluetooth接続の音質の現状を考察。意外と知られていないことなので購入の際の参考にしてほしい。
Bluetoothの「バージョン」とは?
Bluetoothは、数メートルから数十メートルの近距離で、デジタル機器のデータを無線接続するために開発された通信規格のことだ。1999年に発表された初代バージョン1.0を皮切りに、幾度もバージョンアップを繰り返し、通信の安定化や省電力化などの技術革新が図られてきた。2001年にはバージョン1.1、2009年にはバージョン3.0とバージョン4.0、2016年には最新のバージョン5.0へと進化。
バージョン5.0によって、音の遅延やノイズが減り、「音切れ」がほぼ解消されたことから、以前にも増してクリアでストレスの少ないリスニングを楽しめるようになった。
1.1:普及バージョン
1.2:1.1の改良版で高速接続や無線LAN(2.4GHz帯域)との干渉対策が盛り込まれた
2.0:1.2の約3倍のデータ転送速度(最大3Mbps)
2.1:ペアリングの簡略化やセキュリティ面を強化。マウスやキーボードのバッテリー寿命を最大5倍延長できる省エネモードを追加
3.0:従来の約8倍のデータ転送速度を実現(最大24Mbps)。省電力化が向上
4.0:大幅な省電力化を実現する低消費電力モード(BLE)に対応
4.1:4.0を高機能化。自動再接続機能やLTEとBluetooth機器間での通信干渉を抑制
4.2:強度の高いセキュリティ機能の追加と転送速度の高速化
5.0:通信速度は4.2の約2倍、通信範囲は4倍
Bluetoothの機能をフル活用するには、音楽プレーヤーとイヤホン/ヘッドホンの“バージョンが同一”であることが大前提。スマホなどの再生端末がバージョン5.0でもイヤホン/ヘッドホンがバージョン4.2では、低いバージョンに統一されてしまうので注意が必要だ。
音質のカギを握る「コーデック」
バージョンアップのメリットは「通信の正常化」が主であり、音楽がスムーズに聴けるようにはなったが、決して音質まで向上したわけではない。高音質化には「バージョン」ではなく、「コーデック」の存在がより大きなカギを握っている。
“Bluetooth=低音質”の真相
BluetoothはWi-Fiに比べ転送できるデータ量が圧倒的に少ないため、音声データを圧縮して伝送する必要がある。この圧縮方式が「コーデック」といわれるもので、その標準としていち早く採用されたのがSBCである。
ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンの登場初期は、どのモデルもコーデックにSBCが用いられていた。ただ、SBCは音楽データを「1/20」にする高圧縮タイプのコーデックで、低音質な上にノイズも多く、データ転送時に0.2秒のタイムラグが発生するというオーディオファンには絶望的な仕様だった。
当時SBCコーデックの洗礼を受けたリスナーは例外なく薄っぺらな音を否定し、同時期のBluetoothのバージョンも通信が不安定だったことも重なり、結果的に「Bluetoothは音質がひどい」というのが定説になってしまったといえる。
低音質の汚名を返上したコーデック「aptX」と「AAC」
しかし、この低評価はすでに過去の話だ。その後、主にAndroidで使用されるaptXコーデックが登場すると圧縮率が「1/4」まで改善され、SBCのように高音域がざっくり消える現象も低減。Bluetooth接続でも、より高品質な音を楽しむことが可能になった。タイムラグも0.001秒以下に抑えられ、動画再生時の音の遅延もほぼ解決された。
iPhoneではAACというコーデックが使用されている。これはSBCと変わらない圧縮率だが、送信時のタイムラグがほぼなく、高音域もしっかりと再現。SBCに比べると別格的高音質で試聴できるようになった。
AAC:おもにiPhoneに使用されているコーデック。SBCと同じ圧縮率だが高音質。タイムラグがほぼ解消
aptX:おもにAndroidで使用されているコーデック。SBCと比べて圧縮率が格段に少なく高音質。タイムラグもほぼ解消
aptX HD:aptXを拡張したコーデック。ハイレゾ相当の高音質伝送が可能
aptX LL:aptXよりも伝送時の遅延を抑えたもの
aptX Adaptive:上記「aptX」「aptX HD」「aptX LL」の3つをカバーした新コーデック
LDAC:SONYが2015年に開発した新方式。96kHz/24bitのハイレゾ音源にも対応
音飛びを解決する新技術「TWS Plus」に注目
バージョンとコーデックの進化により、通信の安定性や音質も相当改善された。しかし、近年「完全ワイヤレスイヤホン」が急激に普及すると、またも「音飛び・音切れ問題」が再燃。特に人が密集し、BluetoothやWi-Fiを利用する機器が多い場所では、周囲の電波と干渉して音楽が断続的に途切れることが増えてきた。
その原因は、完全ワイヤレスイヤホンで使用される「リレー方式のBluetooth伝送」にある。リレー方式とは、スマホやDAP(デジタル・オーディオ・プレーヤー)から、一旦左右どちらかのイヤホンに音声を伝送し、さらにもう片方のイヤホンに飛ばすというもの。2段階で接続をするため、電波環境によっては、左右一方しか聴けないというようなことも頻繁に発生してしまう。
その改善テクノロジーとして生まれたのが、完全ワイヤレスイヤホンの新技術である「TWS Plus」だ。リレー方式ではなく、スマホなどの音楽プレーヤーと、左右それぞれのイヤホンを直接個別に接続する画期的な構造を実現した。さらに、左右ぞれぞれのイヤホンにモノラルで伝送するため、伝送するデータ量が下がり、より通信が安定するというメリットも備えている。
実装する機器は来年以降に普及していきそうだが、すでにAndroidスマートホン「ソニー:Xperia 1(ワン)」や「サムスン:Galaxy S10」などは、最新SoC「Snapdragon 855」(注1)に対応し、TWS Plusをサポート(注2)する。
(注1)SoC=製品性能に関わる複数の部品(システム)を1つのチップにまとめた集積回路。「Snapdragon 855」はクアルコム社が発表したAndroidスマートホンなどに幅広く採用されるSoC。今年7月には最新SoC「Snapdragon 855 Plus」を発表。
(注2)TWS Plusを使うには、対応チップを搭載したイヤホンだけではなく、スマホやDAPの側もSoC『Snapdragon 845(or 855)』を搭載し、ソフトウェアもTWS Plusに対応していることが必須。
すべてをサポートする完全ワイヤレスイヤホン
Bluetoothバージョン5.0、TWS Plus、aptX/AAC対応。これらの条件を満たした完全ワイヤレスイヤホンもすでに市場に出回っている。その一部をいくつか紹介しよう。
ヌアール製完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップ。音切れに強い安定した通信性能と高音質を両立したクアルコム社の最新SoC「QCC3026」を採用し、コーデックはSBC、AAC、aptXに対応。TWS Plus接続もサポートしている。さらにグラフェンドライバーにクリアな音質と広い音場感を再現する特許技術「HDSS」を搭載。スポーツ中の水濡れや汗に強いIPX4の耐水性を備え、本体だけで連続10時間再生ができる。また、最大35時間使用可能な充電ケースも付属している。
NUARL
NT01AX
メーカー希望小売価格:18,000円(税抜)
https://nuarl.com/nt01ax/
低音域の歪みを抑えるダイナミックドライバー1基と、中高音域の再生を得意とするバランスドアマチュアドライバー2基による「ハイブリッドドライバー」を搭載した、世界初の完全ワイヤレスイヤホン。日本向けにチューニングされた、国内ブランドこそのサウンドが多くの共感を生んでいる。クアルコム社の「QCC3020」チップと、TWS Plusも採用し、コーデックはSBC、AAC、aptXに対応。本体はアルミ製の軽量ボディ(片側5.4g)で、最大7時間連続再生を実現。耳中の形に合わせてイヤーチップの傘の角度を変えるSpinFit社製のAVIOT専用イヤーピースや、落下時の紛失を防止するストラップも同梱する。
AVIOT
TE-BD21f
メーカー希望小売価格:1万7500円(税抜)
https://aviot.jp/product/te-bd21f/