投稿日 : 2017.11.22 更新日 : 2019.09.06
「ブラジル音楽の過去と未来」―ブラジル音楽100年の歴史を簡明解説!
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ブラジル音楽の現在
ここまで「ブラジル音楽の近代史」を語ってもらったが、この章では、2010年代の動向をもとに「ブラジル音楽の現在」にフォーカス。サウンドの傾向やジャンルに分けて、近年の注目アーティストを紹介したい。解説は第一部に引き続き、中原仁さん。
【ジャズ/クラシック系】
まずは近年のジャズ系ミュージシャンに目を向けてみます。かつてパット・メセニーがブラジル音楽から影響を受けたことはよく知られていますが、その頃パット・メセニーと交流のあったブラジル人ミュージシャン、例えばトニーニョ・オルタとか。そのへんのアーティストを聴いていた世代が、新たにプロとして出てきた。そんな印象ですね。例えば、ペドロ・マルチンス。まだ20 代のギタリストですが、10代の頃からバリバリ活動していました。カート・ローゼンウィンケルの『Caipi』の共同プロデューサーとしても注目されましたね。ストーンと吹っ切れた面白さがあるギタリストだと思います。
●Pedro Martins
●カート・ローゼンウィンケルによる「Caipi」プロジェクト
そのペドロ・マルチンスと一緒にCaipiバンドに参加していた、フレデリコ・エリオドロとアントニオ・ロウレイロもジャズ系の新世代として注目です。特にアントニオ・ロウレイロはピアノも素晴らしいし、ドラムもやるし、作曲家としても有能で、面白い才能の持ち主だと思います。アート・リンゼイとも共演していますね。
●Frederico Heliodoro
●Antonio Loureiro
アート・リンゼイのプロデュースでいうと、ロウレンソ・ヘベッチスも素晴らしい。ファースト・アルバム『O Corpo De Dentro』で、ジャズのラージ・アンサンブルと、バイーアの伝統的なアタバキという太鼓のアンサンブルをミックスしました。彼もまだ30代前半ですけど、バークリー音楽大学でジャズをがっちり勉強した上、バイーアまで行って伝統的な音楽も学ぶなど、アフロ・ブラジル音楽の研究にも余念がない。いってみれば、マリア・シュナイダーがやっている音楽と、アフロ・ブラジルの伝統的なリズムのミックスという“ブラジル人でしかできないだろうな…”という音楽をやっています。
●Lourenco Rebetez『O Corpo De Dentro』 制作風景
もうちょっとストレートなジャズ・サンバだと、ダニ・グルジェルでしょうか。彼女はダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートのほか、同世代のコンポーザーたちと“ノヴォス・コンポジトーレス”というプロジェクトでライブをやったりしています。
その他、ギタリストのシコ・ピニェイロがボブ・ミンツァーのビッグバンドに迎えられたり、ピアノ・トリオのトリオ・コヘンチがパキート・デリベラと共演するなど、ジャズの感覚を備えたサンパウロのミュージシャンたちにも要注目です。
●Chico Pinheiro & Group
●Trio Corrente
ジャズに加えて、クラシック的な背景を備えているのが、クラリネット奏者のジョアナ・ケイロス。彼女はリオの出身ですけど、ミナスの新世代たちとも共演したり、エルメート・パスコアールの懐刀のイチベレー・ヅァルギのオーケストラでも演奏したりしています。クラシックやジャズ、ショーロなどの音楽の要素を取り入れて演奏している、非常にユニークな存在だと思います。
●Joana Queiroz
室内楽的なクラシックの要素が背景にあるという点では、アレシャンドリ・アンドレスとハファエル・マルチニも面白い。どちらもミナス出身で、全体的にアコースティックな要素が強い音楽をやっています。ロックの影響も消化した今の世代のチェンバー・ミュージック的サウンドで、しかもその背景にはミナスの独特のハーモニー感覚もあって非常に味わい深い。ちなみに、ハファエル・マルチニはジョアナ・ケイロスとも『Gesto』というアルバムを作っていたりします。こうした優れたミュージシャン同士の繋がりによって、互いに影響し合ったり、新しいものを生み出す環境がつくられている感じがしますね。
●Alexandre Andrés
●Rafael Martini Trio
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