モッキー(Mocky)ほど多才な音楽家もいない。故郷トロントではチリー・ゴンザレス(Chilly Gonzales)らとロック・バンドのサン(Son)を組み、ベルリン移住後はテクノ方面に傾倒し、ヒップホップやダウンテンポ系の『In Mesopotamia』(2001年)も出した。ジェイミー・リデル(Jamie Lidell)とシンセ・ディスコに興じたことも。自身の音楽を「My Own Vision of Pop」と述べるが、<Crammed Discs>での『Saskamodie』(2009年)はシンガー・ソングライター兼マルチ演奏家の魅力満開で、モダンながらクラシカルでノスタルジックな佇まいのポップ・ミュージック集だった。6年ぶりの『Key Change』は『Saskamodie』路線をさらに拡大。2011年にロサンゼルスへ移住し、ミゲル・アトウッド・ファーガソン(Miguel Atwood-Ferguson)のストリングスがフィーチャーされ、モーゼス・サムニー(Moses Sumney)、ニア・アンドリューズ(Nia Andrews)らロサンゼルス勢が参加。チリー・ゴンザレスやファイスト(Feist)らカナダ時代からの仲間も参加するが、あくまで自身のドラム、ベース、キーボード、ギター、フルート、ヴィブラフォン、パーカッションなどのアコースティック演奏や歌が主体。「Living In The Snow」「Soulful Beat」など天性のメロディ・センスが生かされた絵画的な作品で、口笛まじりの「Whistlin」はさしずめ現代のバカラック(Bacharach)と評したくなる。