これがAORの本質だったはずだ。「ティーン向けのポップスに洗練されたアレンジを加えて大人向けに。エッセンスはジャズやソウルとオーケストラ。そして都会のイメージ」。これは多分世界初のAORアルバムであろうニック・デカロの『イタリアン・グラフィティ』(1974年)リリース時に語られたコンセプトだ。そんな至上のサウンドであったはずのAORは80年代に変質、心あるリスナーからは忌避されるジャンルとなった。このコールドウェルもだ。
そんなコールドウェルと、さらにはAOR自体までも蘇らせたのは2000年代を代表するヒップホップ・R&Bプロデューサーであるジャック・スプラッシュ。彼はAORが失ったアーシーなオフビートを心地好い粗さのドラムパターンで表した。メイヤー・ホーソーンをフィーチャーした「Game Over」や、シーロー・グリーンとの「Mercy」など、スプラッシュがプロデュースしているアーティストとのコラボレーションも成功しているが、出色はゲストのいない「Never Knew Love Before」と「Destiny」だろう。2人のユニットCool Uncle はテクニックとしてのAORとR&Bの融合を超えて、時代と世代を軽く40年はカバーする新しいサウンドを創り出している。