スペインのカタルーニャは、近年マドリードにある中央政府から独立機運も高い地域。言語も標準スペイン語ではなくカタラン語が話されることが多く民族アイデンティティは高い。『11月11日』と題された本作のボーカリスト、シルビア・ペレス・クルスは、そのカタルーニャの女性。2008年には、スペインのピアニスト、ジョアン・ディアスとビル・エヴァンス作品をカヴァーしたアルバム『WE SING BILL EVANS』にも参加している彼女。しかし、ソロデビューとなる本作は、もともとフラメンコがルーツである彼女であるだけに、ジャズやロックではなく、フラメンコを下地にした楽曲群で構成。フラメンコ・ギターやカホンはもちろん、クラリネットやバンジョー、アフリカの弦楽器ンゴニまで、さまざまな楽器がフィーチャーされているのも特徴的です。シルビアが歌う言語はカタラン語に標準スペイン語、ガリシア(スペイン北西部)語にポルトガル語で歌い分けています。フラメンコが下地にとはいいつつも情熱的に歌い上げるわけでなく、抑揚の効いた静謐な世界を作り上げています。これはフラメンコの情感を現代的なクールさで普遍性を得た希有な例だと思います。ボサノバとも違うし、ジャズやR&Bといったアメリカのブラック・ミュージックでもない。カタルーニャという風土から届けられた一遍の物語のような一枚です。
■オフィシャルサイト
http://silviaperezcruz.com/