投稿日 : 2019.09.27 更新日 : 2020.11.25
【東京・成城学園前/CAFE BEULMANS】運命に導かれた2代目店主が創る新たな物語
取材・文/富山英三郎 撮影/高瀬竜弥
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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、成城学園前駅から徒歩3分の場所にある『CAFE BEULMANS(カフェ ブールマン)』を訪問。選曲のセンスがよく、週末を中心に選りすぐりのライブがおこなわれている注目のスポット。ここには、老舗ならではの興味深い物語がありました。
扉を開けた瞬間、ここを継ぐ予感がした
高級住宅街のイメージが強い、小田急線沿線の成城学園前(東京都世田谷区)。昔ながらの住宅街ということもあり、実は飲食店が少ないエリアでもある。そんな場所で1980年にオープンした喫茶店が『CAFE BEULMANS(カフェ ブールマン)』。現在の店主で2代目になる。
「もともとは、オールドビーンズ(生豆を数年寝かせてから焙煎)をネルドリップで淹れることをウリにしたお店だったんです。その後、チーズケーキで有名になりました」と、2代目店主の吉岡剛秀さん。
景気の悪化や年齢的な問題もあり、2011年に先代のマスターは廃業を決意。それを聞きつけた常連たちが集まり、後継者探しが始まったのだという。そのメンバーには近所に住む有名な映画監督もいた。
「自分はもともと一級建築士で、最終的にはインテリアデザイナーとして活動していました。でも、子どもの頃から飲食店をやりたくて、物件を探し始めた頃だったんです」
吉岡さんはそれまで、『カフェ ブールマン』のみならず成城学園前という土地にも縁がなかった。両者をつないだのは、以前この連載でも紹介した『喫茶茶会記』の奥さまだったという。カフェをやりたいという話を喫茶茶会記の店主にしたところ、ある日メールが届いた。彼の奥さまが元常連だったのだ。
「お店に入った瞬間 ”僕はここを継ぐんだな” と思いました。私より先に、後継者として名乗りを挙げていた方がいらしたにも関わらず、そんな予感がしたんです。それと、ここのコーヒーを飲んだら、自分の好きな味と同じだったんです」
まさに「呼ばれた」としか言いようのない巡り会い。ちなみに、吉岡さんが好きだったコーヒーは、青山の『カフェ レ ジュ グルニエ』のもの。あとからわかったことは、どちらも、コクテル堂の珈琲豆を使っていた。しかも、先代のマスターと『カフェ レ ジュ グルニエ』は兄弟弟子の関係にあったというのだから、縁というのは面白い。
常連には女性も多く、週末はライブも
「内装的には、狭いのにメリハリがあって、段差をうまく使った3つの空間がある。古くて汚れも目立ちましたけど、照明をすべて変えて、カーテンを取り替えればいけるなと思いました」
もとは建築家であり、インテリアデザイナーとして店舗デザインも数多く手がけてきただけに、空間デザインはお手の物。お店を継ぐ条件は、人気のコーヒーとチーズケーキの味を習得することだった。
「飲食店の経験はアルバイト程度でしたけど、もともと料理が好きで、ホームパーティなど人をもてなすのが好きだったんです。コーヒーとチーズケーキは、仕事をしながら土日に修行しました」
人気メニューはオリジナルレシピのスパイシー・ナポリタン。その他にもビーフシチューやパスタ、チリコンカン、キーマカレーといったメニューが並ぶ。目玉焼きに関しては、食の専門誌に紹介されたほど。それら食事のメニューが充実していることもあり、常連には女性客も多い。また、同店は土日と祝日を中心に(たまに平日)ライブがおこなわれている。
「海外の音楽ばかり聴いてきたので、日本のミュージシャンの知識は殆どありませんでした。先代からの常連さんが音楽関係者だったこともあり、ミュージシャンの紹介やピアノの寄贈など、ライブイベントをやるにあたってさまざまなサポートをしてくれました。その後のブッキングは、ジャンルを問わずリサーチをしながら、素晴らしいと思った方々に依頼しています。ジャズ中心ですが、どちらかというとコンテンポラリーなジャズが多く、タンゴやショーロなどの南米系や、ワールドミュージック、クラシック、現代音楽などもやっています。独自の組み合わせを試みたり、ここでしか聴けないライブを目指しながら、『カフェ ブールマン』のテイストを確立させていきたいです」
医者になることを期待されて育った
通常営業時は、アナログ盤を中心にコンテンポラリー・ジャズや古い時代のジャズ、クラシック、プログレなど幅広いジャンルの音楽がかかる。天気やお客さんの雰囲気などを見て選曲しているのだとか。根底にあるのは、現実を忘れられるような異空間を作ること。ECMのニューシリーズもよくかかる。
「ジャズ喫茶という謳い文句でやっていますが、かけるレコードのジャンルは多岐にわたります。どちらかといえばミュージックバーに近いかもしれません。モダンジャズなどのリクエストも、もちろん大丈夫です」
スピーカーは、1970年代に人気を博した、サンスイの筐体にJBLのシステムを組み込んだSP-LE8T。ターンテーブルはリンのLP12。アンプは今はなき英国ブランドのリーク。この組み合わせは中音の抜けの良さがポイントだという。吉岡さんが音響に興味を持ったのは高校時代。ジャズは中学時代にさかのぼる。
「北九州の小倉出身なんですけど、医者の息子で、医者になるためにさまざまな塾に通わされていたんです。でも、受験勉強が嫌いで……」
ジャズ喫茶に魅了された高校時代
8歳離れた姉がジャズ研に入った影響で、中学時代からフュージョンを皮切りにジャズへ傾倒。その後、医学部受験のために福岡の私立に進学して寮生活。その頃に覚えたのがジャズ喫茶だった。
「暗い廊下を進み、あやしい扉を開くと爆音が飛び出してくる。当時は昔ながらのジャズ喫茶が残っていて、独特な魔力に吸い込まれたんです。そんなことに興味のある友だちもいなかったので、ひとりで入り浸っていました。本当は勉強をしなきゃいけないのに、親不孝ですよ」
その後、浪人2年目に医学部進学を断念。美術大学の建築科へ進学し、空間設計の仕事を経て現在に至る。そんな吉岡さんの人生を振り返ってみると、すべての経歴は『カフェ ブールマン』の店主になるためにあったようにも思える。
「今まで、何度も閉店の危機がありましたが、多くの温かいお気持ちのおかげで存続しています。とにかく続けることだと思っています。そのなかで、何かが繋がればいい。いまはまず、良い”気” が流れるお店を目指しています」
・店名 CAFE BEULMANS(カフェ ブールマン)
・住所 東京都世田谷区成城6-16-5 カサローザ成城2F
・営業時間 カフェタイム 15:00~19:00、バータイム 19:00~24:00(L.O)
・定休日 火曜、日曜(ライブがない場合)
・電話番号 03-3484-0047
・オフィシャルサイト http://cafebeulmans.com/