田中信正というジャズ・ピアニストに“作戦”など立てられるわけがないということは、おそらく彼のプレイに触れたことがある者なら例外なく頷くであろう“Jジャズのジョーシキ”ってヤツなのだが、そんな正調と乱調をシームレスに往き来できる彼だからこそ、“ジャズ・ピアノ”という保守的な美学で塗り固められたフォーマットと対峙するときに“作戦”ならぬ“心構え”が必要であったことは想像に難くない。2014年結成のこのトリオは、“ジャズ・ピアノ”の伝統と格式がずぶ濡れになるほどの波紋をシーンに浴びせた1998年結成のKARTELL以来の自己名義トリオとなるのだが、8歳下の橋本学と19歳下の落合康介を迎えることで、さらに若く柔軟な(そして伝統と格式のアンチ・アプローチとしての)“交感”を吸収しようとした“作為”を滲ませる。だからこのトリオ自体を“作戦”と呼べなくもないわけだが、だとしたらタイトルどおりそれは失敗に終わった。なぜならば、このトリオで田中信正が誰よりも若く、はしゃぎまわってしまっているのだから……。
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