アートディレクター・デザイナーとして国内外の音楽にまつわるグラフィックや建築デザインを手がけている。また、音楽レーベル「P-VINE」ではアートワーク制作・ブランディングを担当。
一筋縄ではいかない作品が好き
——いつ、どんなきっかけでレコードと出会いましたか?
大学進学とともに上京したことがきっかけで、レコード屋さんに行きやすくなったことから集めるようになりました。
——アナログレコードのどんなところに魅力を感じる?
世界の誰かの、かけがえのない時間だったり、風景、湿度、気温といったものを、国や時代を超えて共感できるところが魅力だと思います。また、デザイナーとしてバイナル(レコード)を担当することも自分にとって、かけがえのない時間です。
サブスクリプションの普及とともに、多くのジャケットデザインは画面上に小さく配置されるだけとなり、構成要素を少なくしつつ、目に付くデザインを求められることが増えました。対してバイナルでは、実際に手にとる時間が増える分、物質としての質感であったり、大きな印刷物ならではの表現を大切にするように心がけています。CDよりも購入者との間に対話の時間が永く・多く生まれるところはとても魅力的な要素のひとつです。
——初めて聴いた一枚は?
DUMPの『NYC TONIGHT』です。
私が高校生くらいの頃、OGRE YOU ASSHOLEのメンバーが、それぞれお気に入りのレコードを紹介する番組を放映していて、そこで紹介されたレコードのひとつが『NYC Tonight』だったんです。
——いま何枚くらい持っていますか?
約200枚くらいあるでしょうか?(ちょっとわかりません…)
エキゾチカ要素が入ったものを好んで聴いています。あとはゴキゲンではない暗めのクンビアも発見次第、積極的に集めています。一筋縄ではいかない違和感を感じ取れる作品が好きです。
珍しいレコードのイベントは同世代の女性がほとんど
——レコードの情報はどこで入手していますか?
友人や知り合いとDJイベントやライブなどで情報を交換したり、好きなレコード店やレーベルのHPから探すことが多いです。
ここ2年くらいはSpotifyのサジェスト機能から探すことも増えました。AIが世界中の音楽シーンの輪郭をなぞってくれるため、言語が不自由でも自分の好きなアーティスト界隈や似た音楽性のアーティストを、ものの数分で探れるので。
——聴くときに使っている機材を教えてください。
テクニクスの「SL-1200MK5」(プレーヤー)と「Harman Kardon Soundsticks III 」(サブウーファー内蔵スピーカーシステム)です。
——同世代の女性(知人・友人)でレコードを聴いている人はいますか?
辺境音楽や各国の珍しいレコードを聴けるイベントによく足を運ぶのですが、驚くことにそこへ遊びに来るほとんどが同世代の女性なんです。好きな音楽は各々違えど「この曲良いね」という純粋な嗅覚で繋がり合える不思議な友人が増えることはとても楽しいです。
2010年代初頭から、日本のインディーシーンでも7インチやLPを切るアーティストが増えたと記憶しています。それに伴いレコードに興味を持ち始めた同世代も増えたのかと。同じ頃に普及した、スピーカー内蔵型のレコードプレーヤー「ION AUDIO:Archive LP」も、ライト層にレコードを近づけた一因になったと思います。
——いまではどんな音楽でもデジタル(ネット経由)で聴けますが、あえてアナログレコードを選ぶ理由は?
好みな音楽を探求していった結果、レコードという選択肢にたどり着きました。「ちょっと高いなぁ」と思うレコードでも、「これは資産運用?投資の一環だ…」と自己暗示をかけて購入に踏ん切りをつけています(学生時代、貧乏になった時にレコードを売ることで大変助けられました…)。
——お気に入りの一枚を教えてください。
民謡クルセイダーズの『Echoes of Japan』です。
伝統的な日本民謡とラテン音楽が出会うべくして出会ったかのような心地よい高揚感が魅力です。