アート・リンゼイの13年ぶり新作は、これまでどおりニューヨークとブラジル(リオ)録音だが、共演者の顔ぶれが大きく変わった。長年の僚友メルヴィン・ギブスの他は、Jazz&Beyondな音楽性を備えエレクトロニクスにも精通したニューヨークの若い音楽家たち。彼らと曲の共作も行い、エッジの利いたバンド・サウンドを構築している。さらにブラジル・バイーアのパーカッション奏者たちが叩く、アフリカ伝来の宗教カンドンブレの儀式に基づくリズムが絶妙のスパイスになっている。アートいわく、新作のテーマのひとつが「カンドンブレとゴスペルの融合」。宣教師の家庭に育ち、ブラジルとアメリカ両国の黒人音楽に精通するアートだからこそトライできた壮大な試みだ。トレードマークのノイズギターも随所で活躍するが、全体の感触は鋭敏にしてポップで、歌声の体温が以前より高い。生活の拠点をニューヨークからブラジルのバイーアを経てリオに移し、父親になったこともあるのだろう。マクロとミクロの視点に基づき、アンビシャス・ラヴァーズ時代から取り組んできたことのひとつの到達点と言える、未来への示唆に富んだ傑作が誕生した。
■P-vine
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