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『ラ・ラ・ランド』

もはや時代遅れになってしまったのか、最近めっきり作られなくなってしまったミュージカル映画。そこに彗星のように現れ、本年度アカデミー賞の13部で14ノミネートされて話題を呼んでいるのが『ラ・ラ・ランド』だ。ヒロインは女優になることを夢見て、撮影所内のカフェでウェイトレスとして働いているミア(エマ・ストーン)。彼女はナイトクラブで、売れないジャズ・ピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と出会う。セバスチャンにも夢があり、それはいつか自分のジャズ・クラブを開くことだった。そして、それぞれに夢を持つ二人は惹かれあうようになる……。

そんな風に物語はオーソドックス。斬新な仕掛けがあるわけではないけれど、ミュージカル映画の魅力を緻密に研究したうえで、そこにモダンな息吹を吹き込んでいくアプローチは、かつてサイレント映画の魅力を現代に甦らせてアカデミー賞を受賞した『アーティスト』を彷彿とさせたりもする。監督を務めたデイミアン・チャゼルは、音楽学校でジャズを学ぶ生徒と厳しい教師の関係をサスペンスフルに描いた『セッション』で、鮮烈なデビューを飾ったハリウッド期待の新人だ。前作でジャズをサスペンスの題材にしたチャゼルが、今回はジャズをとことんロマンティックに描いているのが面白い。

なにしろ、セバスチャンはジャズに人生を捧げている男。セロニアス・モンクやマイルス・デイヴィスを愛し、いつか開く店に使うためにホーギー・カーマイケルが座った椅子やジャズ関連のお宝グッズを集めている。その一方で、「ジャズなんてレストランでかかるBGM」と思っていたミアが、セバスチャンに惹かれていくにつれてジャズを好きになっていく姿が微笑ましい。でも、そんなセバスチャンは、食べていくために旧友のキース(演じているのはR&B界のスター、ジョン・レジェンド)のバンドに加入。オシャレなポップスにアレンジされたジャズを演奏することで自分を追いつめていく。

それぞれアカデミー賞の主演男優賞、主演女優賞にノミネートされたライアンとエマは、歌もダンスも見事にこなして、コミカルなシーンもロマンティックなシーンも息がピッタリ。そんななかで、本作のロマンスには大人の苦みがある。ミアもセバスチャンもアラウンド・サーティ。それでも夢を捨てられず(人生をこじらせて)、ときめいたり、傷ついたりする。そんな二人を待ち受けている結末は、無邪気に夢を信じる若者たちよりも、手強い現実に打ちのめされてきた大人たちのほうが胸に響くに違いない。そして、そんなビタースウィートなラブストーリーを、美しくも切ないメロディーと躍動感溢れるサウンドで彩って、アカデミー賞主題歌賞にノミネートされたジャスティン・ハーウィッツによるサントラも素晴らしい。もちろん、そこにもジャズの要素が織り込まれていて、『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』といったミシェル・ルグランの名作サントラを彷彿させたりもする。ミュージカルといえば歌とダンスの陽気なエンターテイメントと思われがちだが、『ラ・ラ・ランド』は夢と引き換えに失った大切なものについてのほろ苦い物語。ロマンティストな男たちは、セバスチャンがジャズとミアへ注いだ無垢な愛情に胸がうずくだろう。本作は男が泣けるミュージカル映画なのだ。

 

■公式サイト
http://gaga.ne.jp/lalaland/

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Photo credit:  EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

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