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若き天才が撮った“ある家族の物語” カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品が公開

19歳で初監督した『マイ・マザー』(09)で衝撃的なデビューを飾り、その後、新作が毎回、カンヌやヴェネチアといった国際映画祭に出品されるほどの映画界の寵児となったグザヴィエ・ドラン。アデルの強い希望で彼女のミュージック・ビデオを手掛けたり、ルイ・ヴィトンの広告キャラクターに選ばれたりと、ドランは映画という枠を越えて注目を集めてきた。そんな若き天才が30代を目の前にして、カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した最新作が『たかが世界の終わり』だ。

不治の病に冒されて余命わずかなことを伝えるために、12年ぶりに実家へと帰ってきた人気作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)。そこには4人の家族が待っていた。息子を溺愛する母、マルティーヌ(ナタリー・バイ)はごちそうを用意して朝から落ち着かない。妹のシュザンヌ(レア・セドゥ)は有名になった兄を誇りに思っている。そして、弟の突然の帰省を身勝手に感じる兄アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)は苛立ち、アントワーヌの妻カトリーヌ(マリオン・コティヤール)は初対面のルイにどう接して良いかわからない。そんなぎくしゃくした空気のなかで、ルイと家族の長い一日が始まる。

本作は劇作家のジャン=リュック・ラガルスの戯曲を映画化したもの。お互いを思いながら、愛し方がズレていたり、愛するがゆえに憎んでしまったり。いちばん身近な他人、家族だからこそのこんがらがった愛憎劇を、ドランは研ぎ澄まされた台詞と役者の迫真の演技を通じてスリリングに描き出していく。これまでドランは母親と息子の確執を何度もテーマにしてきたが、今回はルイと家族全員との関係に焦点を当てているのが興味深い。なかでも、次第に孤独を深めていくルイの苦しみを抑えた演技で見せるウリエルと、今にも爆発しそうなわだかまりを抱えたアントワーヌを荒々しく演じるカッセルの兄弟対決に息を呑む。そんな剥き出しの感情が正面からぶつかり合うドラマはドランの得意とするところだが、音楽の使い方にもドランならではのセンスが光っている。

音楽にこだわりを持つドランは、これまでチャイコフスキーからオアシスまでジャンルを越えて様々な曲を映画で使ってきたが、今回はロックやエレクトロ・ミュージックを中心に選曲されているのが特徴だ。例えばルイが空港に降り立つシーンで流れるのは、フランスの女性シンガー・ソングライター、カミーユの「Home Is Where It Hurts」。「家 それは深くえぐられた傷跡」という歌詞が、ルイにとっての実家(ホーム)がどんな場所なのかを教えてくれる。また、ラストに流れるモービー「Natural blues」では、サンプリングされたブルース・シンガー、ヴァラ・ハルの哀切とした歌声がルイの打ちひしがれた心情を伝えたりと、必要とあれば映画の中心に歌を据えて、歌に登場人物の胸の内を語らせるのもドラン流の演出だ。

過去の作品では、意表を突く展開や幻想的なシーンを挟み込んだりとエキセントリックなところもあったが、今回はストイックに物語を紡ぎ出していくドラン。そこには映像作家としての成熟と挑戦を感じさせる。『たかが世界の終わり』は、新しいドランの始まりなのかもしれない。

 

公式サイト
http://gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan/

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