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【書籍レビュー】『オール・アバウト・ノラ・ジョーンズ』

世界的に大ヒットした「ドント・ノー・ホワイ」と、それを収録したデビュー盤の印象が相当強いためか、未だにノラ・ジョーンズを“ジャズ・シンガー”あるいは“ジャジーなムードの曲を歌うシンガー”と捉えている人は少なくない。が、作品を普通に追っていればわかる通り、彼女の守備範囲は恐ろしく広く、カントリー、フォーク、ソウル、R&B、ブルース、オルタナティブ・ロックと、そのときどきで多様な音楽ジャンルにアプローチ。ジャズの色合いを比較的濃いめに出したのは、じつは昨年リリースの最新作『デイ・ブレイクス』が(オリジナルアルバムにおいては)初めてだったりする。

そんなふうに気ままにジャンル跨ぎをしてきたノラ・ジョーンズの活動歴と魅力にあらゆる方位から迫っているのが、ムック『オール・アバウト・ノラ・ジョーンズ』。2002年のデビューからもう15年が経つが、彼女に関しての書物が日本で出版されるのは、これが初めてだ。監修と編集は音楽評論家の赤尾美香さん。

巻頭からノラの美麗なカラー写真が並ぶので、彼女の「容姿が好き」という人にも訴求力のあるこのムック。章立てがパッキリしていてとっつきやすい構成でありながら、執筆者たちの熱量は高く、文の中身がどれも濃い。「そのときどきで多様な音楽ジャンルにアプローチ」と先に書いたが、「ノラとカントリー」「ノラとジャズ」「ノラとロック」「ノラとソウル/R&B」「ノラとブルース」というふうに、ジャンル別の解説コラムをそれぞれに詳しいライター/評論家(順に五十嵐正さん、村井康司さん、山口智男さん、山下紫陽さん、妹尾みえさん)が書かれていて、ノラがそのジャンルからいかに影響を受け、どう咀嚼して自分のものとしてきたかもわかりやすく読み解ける。それにより改めて彼女の音楽の多面性を実感することになるだろう。

ノラ本人のインタビューは各アルバム発表時のものが全て揃い、計6本。米『Keyboard Magazine』に掲載された最新作に関しての興味深いインタビューを除いた5本は、私が過去に行なってきたものをまとめた。順に読めば、彼女の音楽表現に対する意識がどう変わっていったか(またはどこが変わってないか)がわかり、そこからソングライターとしての成長の様も感じ取ってもらえるはずだ。例えば“音楽でメッセージを伝える気持ちはさらさらない、気分よく聴いてもらえればそれでいい”と、デビュー当時にはそんなニュアンスで話していた彼女が、イラク戦争開戦からブッシュ大統領の再選に至る社会情勢を反映させた曲を書いた3作目の頃には“私たちの手でこの国を変えていけるはず”と発言するようになる。そうした内面の変化がどのように作品に反映されていったかについては、「シンガーからソングライター、リリシストへ。ノラ・ジョーンズは何を歌ってきたのか」と題されたパートで新谷洋子さんがガッツリ考察されている。

“ノラ・ジョーンズの音楽”は知っているけど、ノラ・ジョーンズがどういう女性で、何を考えて活動してきたのかはよく知らない……という人はもちろん、“濃い”ファンを自認している人にも、本書は「目から鱗」の感覚を何度ももたらすに違いない。また、巻末では2000年以降にリリースされた“ノラ好きリスナーの琴線に触れるであろう女性作品”を40点近くピックアップ。近年の女性ポピュラー音楽の趨勢が投影された書としても広くお薦めしたい。

https://www.shinko-music.co.jp/item/pid164431x/

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