人生は選択の連続だ。そして、歳をとるごとに、選んだ道より選ばなかった道に想いをめぐらせる。ウディ・アレンの新作『カフェ・ソサエティ』は、そんな〈もしも…〉に想いを馳せる男女の物語だ。
1930年代のハリウッドに、NYからウブな青年、ボビー・ドーフマン(ジェシー・アンゼンバーグ)がやって来る。大物プロデューサーの叔父フィルのもとで、雑用係として働き始めたボビーは、見るもの聞くことのすべて刺激的。そのうち、フィルの秘書、“ヴォニー”ことヴェロニカ(クリステン・スチュワート)に恋をしてしまう。しかし、ヴェロニカは親子ほど歳が離れたフィルと不倫していた。そんなこととはつゆ知らず、ボビーはフィルから別れを切り出されて涙にくれるヴェロニカを優しく慰め、二人の仲は急接近。デートを重ね、ついにボビーはヴォニーにプロポーズするが、離婚を決意したフィルがヴォニーに復縁を迫る。
映画の前半はLAの明るい陽射しのなかで、若い男女の恋愛が甘酸っぱく描かれる。頭が良くて快活なヴォニーを演じるクリステン・スチュワートは、青春そのものように眩しく美しい。しかし、青春とは残酷なもの。結局、ヴォニーはフィルを選んでしまう。失意にくれるボビーはNYに戻り、ナイトクラブ〈レ・トロピック〉のマネージャーとして働き始めると店は大繁盛。街の名士となったボビーは、客としてやって来たヴェロニカ(ブレイク・ライブリー)と結婚し、二人の間には子供が生まれた。そんなある日、レ・トロピックに、フィルに連れられてヴォニーがやって来る。
映画の後半、〈NY編〉はナイトクラブを舞台にした大人の恋愛ドラマといった趣だ。自立したボビーは大人の男としての自信に満ちていて、母性的で穏やかなヴェロニカを演じるブレイク・ライブリーには、成熟した女性の艶やかさがある。二人の愛はドラマティックではないけれど満ち足りたものだった。しかし、ヴォニーと再会したボビーの心は揺れ動く。〈もし、あの時、ヴォニーと結婚していたら……〉。それはヴォニーにとっても同じこと。そして、再会した翌日、二人はこっそりとNYでデートする。その甘く、ほろ苦い時間のなかで、二人は再び結ばれるのか。
ウディ・アレンは二つの場所と二人のヴェロニカを鮮やかに対比させながら、人生の機微を軽やかな語り口で描き出す。メロドラマではあるものの、そこにはアレンらしいウィットと人生哲学がある。そして、物語を彩るのは、アレンの映画に欠かせないジャズ。サントラのほとんどの曲を演奏するのは、NYで活動するジャズ楽団、ヴィンス・ジョルダーノ&ナイト・ホークスで、ベニー・グッドマンやカウント・ベイシーの曲と並んでいても違和感がないくらい、古き良き時代の香りを漂わせている。また、レ・トロピックの歌姫役を演じているのはシンガー・ソングライターのキャット・エドモンソンで、もともとヴィンテージな雰囲気を漂わせたシンガーだけにはまり役だ。
ちなみに、『カフェ・ソサエティ』とは1930年代に都会のカフェやクラブに集ったセレブたちの社交場のこと。シャネルが用意した衣装やゴージャスな美術。そして名カメラマン、ヴィットリオ・ストラーロのカメラが夢のような世界を再現した本作は、〈もしも…〉に胸がうずく大人たちに捧げたロマンティックな寓話だ。
■オフィシャルサイト
http://movie-cafesociety.com/
作品情報
作品名:カフェ・ソサエティ
監督&脚本:ウディ・アレン
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、ブレイク・ライブリー、スティーヴ・カレル、パーカー・ポージー
劇場公開日:2017年5月5日(金・祝)より、TOHO シネマズ みゆき座ほか全国公開
配給:ロングライド
2016年/アメリカ/英語/1時間36分/日本語字幕:松崎広幸 提供:KADOKAWA、ロングライド 配給:ロングライド
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