映画を愛する若者たちが起こした革命、ヌーヴェルヴァーグを代表する2大作家で、おしどり夫婦としても知られたジャック・ドゥミとアニエス・ヴァルダ。ドゥミは『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』といったミュージカルの傑作を生み出し、ヴァルダは『5時から7時までのクレオ』をはじめ作家性の強い作品を発表。ともに高い評価を得た。そんな彼らの代表作を集めた特集上映『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』が7月22日からシアター・イメージフォーラムで開催される。
今回、ドゥミは2作品が上映されるが、どちらも初期の代表作だ。まず、長編デビュー作『ローラ』(61)は、ドゥミの故郷である港街ナントを舞台にして、初恋の人を待ち続ける踊り子、ローラをめぐる人間模様が描かれる。詩情溢れる演出や、名カメラマン、ラウール・クタールによる美しい映像が絶賛されて「ヌーヴェルヴァーグの真珠」とも呼ばれる傑作だ。
長編2作目『天使の入江』(63)は、ニースのカジノで知り合った銀行員と美しい人妻の物語。二人は意気投合してギャンブルにのめり込んで行くが、彼らを結びつけるのはギャンブルへの情熱か、それとも愛なのか。この2作品はドゥミの作家としての個性が凝縮されているだけではなく、天真爛漫なローラを演じたアヌク・エーメ、魔性の女、ジャッキーを演じたジャンヌ・モローそれぞれの艶やかさも魅力的。しかも、今回の上映にあたっては、ヴァルダの監修のもとで時間をかけてデジタルリマスタリングされた美しい映像で楽しむことができる。
一方、ヴァルダは4作品を上映。『5時から7時までのクレオ』(62)は、自分が癌なのではないかと不安を抱いている女性シンガー、クレオが検査の結果を待つ5時から7時までの物語。揺れ動くクレオの心理を追いかけた繊細な描写に加えて、パリのロケ撮影が素晴らしい。マドンナがみずから主演してリメイクを望んだという逸話もある名作だ。『幸福』(65)は、一見、幸せそうに見える家族に潜む闇を鋭い感性で描いて、ベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞した。今回の上映では、ファッションブランド、miu miuの企画によって制作された短編最新作、『3つのボタン』(15)が同時上映されて、いまも現役の監督として活動するヴァルダの衰えることのない創作意欲を確認できる。そして、『ジャック・ドゥミの少年期』(91)は、ドゥミの死後公開された作品で、ドゥミが闘病中に自身の少年時代を綴った脚本をヴァルダが映画化したもの。映画をこよなく愛し、人生のすべてを映画に捧げた夫婦の愛の結晶ともいえる感動作だ。
また今回、ドゥミとヴァルダの作品を結びつけるものとして注目したいのが、フランスのジャズ/映画音楽を代表するミュージシャン、ミシェル・ルグランの音楽だ。ドゥミは『ローラ』で初めてルグランと組んで意気投合。次作の『天使の入江』をはじめ数多くの作品でタッグを組み、『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』を生み出すことになる。
ちなみに『ローラ』『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』は世界観を共有していて、例えば『ローラ』に出て来る登場人物のカサールは『シェルブールの雨傘』にも登場。カサールにまつわる曲「Watch What Happens」は両方の映画に使用され、その後、スタンダード化して多くのシンガーやジャズマンが奏でることになった。そして、ルグランは『5時から7時までのクレオ』のサントラも手掛けていて、本作にはジャズ・ミュージシャンとして出演。ピアノを弾いて主演のコリンヌ・マルシャンとデュエットするシーンもある。
ジャン=リュック・ゴダールの作品にも音楽を提供したルグランは、ヌーヴェルヴァーグに欠かせない音楽家であり、ヌーヴェルヴァーグを観る楽しみ、そして、聴く楽しみを味あわせてくれる『ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語』は、音楽好きにも見逃せない特集上映になりそうだ。
■オフィシャルサイト
http://www.zaziefilms.com/demy-varda
作品情報
作品名:特集上映『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』
劇場公開日:7月22日より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
配給:ザジフィルムズ
Photo:©ciné tamaris 1994