投稿日 : 2017.07.24 更新日 : 2018.01.26
『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』
文/村尾泰郎
- タイトル
- オラファー・エリアソン 視覚と知覚
- 監督
- ヘンリク・ルンデ、ヤコブ・イェルゲンセン
- 配給
- SUNNY FILM
- 公開日
- 2017.08.05
2008年、ニューヨークのイースト川に総工費17億円をかけて建造された、4つの巨大な滝。それは美術館には収まらない壮大な芸術作品だった。この前代未聞の“滝アート(ザ・ニューヨークシティー・ウォーターフォールズ)”を中心に、ひとりのユニークな芸術家に密着したドキュメンタリーが本作『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』だ。
オラファー・エリアソンはデンマークを拠点に活動する現代アート作家。世界をまたにかけて活躍するエリアソンは、デンマークの自宅を出ると、ベルリンにあるスタジオへと向かう。そこはスタジオというよりも研究所といった雰囲気。数多くのスタッフが同時進行でさまざまなプロジェクトに関わり、奇妙な機械を作り出していて、一見それは芸術作品というより、工業製品のようだ。エリアソンいわく「私にとって作品は現象を作り出す装置なんだ」。つまり、作品そのものは鑑賞の対象なのではなく、作品が生み出す“何か”が重要なのだ。
例えば部屋中にスモークを立ちこめて前も見えないような状況のなか、光線を照射することによって、虹の中を歩いているような体験をさせたり。真っ暗の部屋の中央に円形のプールがあり、その水面に特殊な装置で光を当てることで、波の動きに連動して壁に帯状のオーロラのような光を反射させたり。エリアソンが生み出すアートは、自然現象を巧みに利用しながら、人間の知覚に訴えかけてくる。まるで科学の実験のようでありながら、そこには詩的な美しさがある。
人間はどんなふうに世界を見つめ、感じているのか。そんな問いかけに満ちた作品を作り続けてきたエリアソンは「作品を通じて、既成概念を越えた新しい視点を持って欲しい」と訴える。そして、独自の芸術論を語る一方で、映画を通じて観客にユニークな実験を体験させてくれるのも本作の面白さのひとつだろう。観客はその実験を通じて、「見る」とはどういうことなのか改めて考えさせられる。
視覚と知覚をめぐるエリアソンの作品の根底にあるのは自然と人間との関係であり、それを象徴するのが、近年、彼がライフワークとして取り組んでいるアイスランドのフィールドワークだ。エリアソンは氷河で口を開けている巨大な縦穴に興味を持ち、その穴にはしごを突き出して、身を乗り出しながら写真を撮っている。もちろん、穴に落ちたら命はない。そうやって自然と本気で向き合うことで、エリアソンは自然の持つ神秘的な力を作品へと昇華してきた。そのひとつの成果が、あの、ニューヨークに出現した滝「ザ・ニューヨークシティー・ウォーターフォールズ」なのだ。エリアソンはプロジェクト中止の危機に見舞われながらも、実現を目指してチームを引っ張っていく。芸術家としての鋭い感受性と同時に、力強いリーダーシップを併せ持っているのもエリアソンの魅力だ。さまざまな作品や彼自身の言葉を通じてエリアソンのアートを紹介した本作は「アート」というヒントを通じて“世界の見方/感じ方”が大きく変わることを教えてくれる。
■オフィシャルサイト
http://www.ficka.jp/olafur/
作品情報
作品名:『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』
劇場公開日:8月5日(土)よりアップリンクほか全国劇場ロードショー!
監督:ヘンリク・ルンデ、ヤコブ・イェルゲンセン
出演:オラファー・エリアソン
2009 / デンマーク / 英語、デンマーク語 / 16:9 / ステレオ / カラー / 77分 / 原題:Olafur Eliasson : Space is Process
©Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark