映画監督、詩人、コミック作家、タロットカード研究家など、多彩な顔を持つアレハンドロ・ホドロフスキー。ジョン・レノンをはじめ、さまざまなアーティストに衝撃を与えた『エル・トポ』(1970)や『ホーリー・マウンテン』(1973)といった名作を発表して伝説となった彼が、自伝的作品『リアリティのダンス』を発表して23年ぶりに映画界に戻ってきたのは2013年のこと。それから4年ぶりの新作『エンドレス・ポエトリー』は『リアリティのダンス』の続編だ。
前作ではチリの港町、トコピージャで暮らした少年時代が描かれていたが、今回はチリの首都、サンティアゴに引っ越してからの物語。サンティアゴの下町で店を開いた父親のハイメは、客にも家族にも威圧的な態度をとって自分に口答えするものは許さない。そんな父親のもとで息苦しい生活を送っていたアレハンドロは、スペインの詩人、ガルシア・ロルカの詩集と出会ったことをきっかけに家を出て、さまざまな体験をしながら目の前に広がる新しい世界と向き合っていく。
「毒蛇女」という異名を持つエキセントリックな女詩人、ステラ・ディアスとの激しい恋。そして、芸術家たちとのグループと交流を持つなかで、詩人エンリケ・リンと厚い友情で結ばれる。恋愛、友情、詩。そうした青春の日々が、ホドロフスキーらしい独創的な演出で描かれる。ユニークな美術や衣装が演劇的な空間を生み出し、現実と幻想が融け合った世界は、ラテンアメリカ文学のマジックリアリズム的な手法やフェデリコ・フェリーニの映画を彷彿させるもの。そして、そのイマジネイティヴな映像を、名カメラマンのクリストファー・ドイルが活き活きと捉えている。また、若かりし頃のアレハンドロを、アレハンドロの5人息子の末っ子でミュージシャンのアダン・ホドロフスキー。父親のハイメを前作に続いて長男のブロンティスが演じていて、さらにアレハンドロ自身も本人役で登場するなど、合わせ鏡のようにアレハンドロのさまざまなイメージが映画内で交錯しているのも面白い。
映画のクライマックス、アレハンドロは仮面をつけた赤色の集団とドクロの黒色の集団が祭りのようにひしめきあう中に放り込まれる。赤は〈生〉、黒は〈死〉の象徴だが、そこでアレハンドロは詩人として生きることを決意してパリに渡ろうとする。そんな彼の前にハイメが現れ、親子は激しく言い争いながらも、アレハンドロは最後に「あなたは何も与えないことで、すべてを与えてくれた」と父親を許す。前作では親子の確執を中心に描いていたが、本作で描かれるのは詩を通じて世界を受け入れることができたアレハンドロのアーティストとしての出発点だ。映画のなかで年老いたアレハンドロ(監督本人)が、若いアレハンドロ(アダン)に「ただ、生きろ!」とメッセージを送るシーンがあるが、アレハンドロにとって詩とは生きること。現在、85歳のアレハンドロはこの自伝シリーズを5部作として構想しているらしいが、『エンドレス・ポエトリー(終わることなき詩)』とは彼の人生そのものなのだ。
■オフィシャルサイト
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作品情報
作品名:『エンドレス・ポエトリー』
劇場公開日:2017年11月18日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
撮影:クリストファー・ドイル
(2016年/フランス、チリ、日本/128分/スペイン語 /1:1.85/5.1ch/DCP)
配給・宣伝:アップリンク
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