投稿日 : 2019.11.19 更新日 : 2020.04.20
KIYO*SEN ─技術を極めてエンタメに変換。驚異のオルガン&ドラム・ユニット【Women In JAZZ #15】
インタビュー/島田奈央子 構成/熊谷美広 撮影/平野 明
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大髙清美と川口千里によるユニット KIYO*SEN。大髙は CASIOPEA 3rdのメンバーとしても活躍中の辣腕オルガン/キーボード奏者。かたや川口は、16歳でソロ・デビュー(2013年)後、天才ドラム少女として世界的に注目を集めた俊秀だ。
そんな芸達者コンビの作風は、豪胆かつ精巧。展開が二転三転する楽曲を難なくこなす。また、変拍子や複雑なキメも、華麗な音楽表現へと変換。聴く者を驚嘆させ続けている。
KIYO*SENとともに成長
――まずは2人がユニットを組むことになった経緯を教えてください。
大髙 最初に共演したのは、千里がまだ中学生のとき。すごい子だな…っていう印象でしたね。このユニット(KIYO*SEN)を結成したとき、千里は16歳だったから、もう6年になります。
――高校生だった千里ちゃんも大人になりました…。
大髙 そう、素敵なレディにね。
川口 そこはぜひ書いといてください(笑)。
――でも結成当時は16歳。不安もあったのでは?
川口 KIYO*SENのレコーディングが、私の人生にとってまだ3回目のレコーディングで。だから、不安というより…何もかもが新鮮でした。
大髙 あの頃の千里はほんとうに初々しかった。今はもうベテラン並みですけど(笑)。
――そうですね。KIYO*SENのアルバムも、もう5作目。最新作『DRUMATICA』が、先日リリースされたばかりです。
川口 このアルバムのタイトルは「Drum(ドラム)」と「Drama(ドラマ)」を合成した造語なんです。楽曲それぞれの演奏も、アルバム全体も、ドラマティックな展開にしたい。そんな思いで作りました。ちなみに前作(2018年7月に発表)のタイトルは『organizer』。「organ(オルガン)」 という文字が入ってるんです。これは、(オルガンの)大髙さんが裏ボスのような立ち位置で「さぁみんな、演奏するのよ!」っていうイメージ。私がいっぱい叩いている裏で、オルガンはメロディをゆったりと弾く、みたいな感じで。
――なるほど。そうなると今回は逆だから…
川口 大髙さんにがんばってもらう曲を書こう、と。たとえば、私が作曲した「Watch Out for Slippery Floors」は、ドラムはそんなに難しくなくて「ハーイ、みんながんばって!」っていう感じで叩いてて。大髙さんにはいっぱい弾いてもらってます(笑)。
大髙 リフが容赦ない(笑)。まずは「これを私が弾けるのか?」をチェックして、そこから曲を発展させていきました。こうやって、お互いにお題を出し合って成長していくのが KIYO*SENなんです。
●「Drumatica」(Official Music Video)
――個人的には「Beat Layer」という曲がすごく印象的でした。精神的な部分を侵されるというか…でもすごくキャッチーで。
大髙 あれは本来の私たちの地が出ている曲ですね。(矢堀孝一の)ギター・ソロのところなんて、3拍、4拍、5拍、6拍、7拍と進行していって、次はその逆に進行するという、演奏するのはけっこうたいへんな構成になってます。
川口 あれはいちばんエグい曲ですね。ミュージシャン的にはすごく挑戦できる曲。でもメロディ自体はすごくキャッチーだから、このアルバムの中でもかなりお気に入りの楽曲です。
ミスやハプニングを「創造」に変換
――千里さんから見て、大髙さんってどんな人?
川口 絶対にビクともしない。たじろがない人です。
大髙 “organizer” ですから(笑)。
大髙清美/おおたか きよみ
10月18日埼玉県出身。6歳からエレクトーンを始め、ヤマハ音楽院で学ぶ。その後エレクトーンの講師を経て、1993年頃から本格的にジャズ・オルガンを始める。1998年に『Third Hand』でソロ・アーティストとしてデビュー。これまで5枚のソロ・アルバムをリリースする一方、2012年にCASIOPEA 3rdに加入して現在も活動中。2014年に川口千里とKIYO*SENを結成。
川口 たとえば私が(演奏中に)誰かのフレーズに反応して、付いて行くとしますよね。すると、それに戸惑う人もいるんです。けど、大髙さんは「付いてきたわね」っていう感じで、まったく動じない。だから私も楽しんで付いて行けるし、大髙さんもそれを楽しんでいるということが演奏から伝わってきます。そういう演奏上での挑戦というか、関わり合いを堂々とできるのは、大髙さんならではだと思います。
大髙 アルバムは、私たちが伝えたい音楽を収録したもの。だからミスは無い方がいい。けど、ライブっていうのは作品紹介をする場ではないと思っているので、きれいに演奏して終わるのではなくて、逆にそこから何かが生まれることのほうが、面白いと思うんです。人がミスったりすると「あ、やっちゃったね」って、楽しいですよね(笑)。しかも「あ、そっちの(間違った)コードほうがいいかも」とか「あれ? その構成も良くない?」って発見もあって、次からそっちでやってみようということになったり。
川口 そう、ライブは事故もあるけど、それがまた面白いんです。けど、その事故にビックリしちゃうと発展しないんですね。だからKIYO*SENは基本的にそういうハプニングも楽しむスタンスでやっています。
川口千里/かわぐち せんり
1997年1月8日愛知県生まれ。5歳でドラムを始め、8歳から菅沼孝三に師事。2006年にリズム&ドラム・マガジン誌主催のコンテストで敢闘賞、2007年に同賞の準グランプリを受賞。2010年に世界的なドラム関連サイト『ドラマー・ワールド』で世界のトップ・ドラマー500人の1人に選ばれる。2013年にアルバム『A LA MODE』でソロ・デビューし、現在までに3作のリーダー作をリリース。2014年に大髙清美とKIYO*SENを結成。またリー・リトナー、デヴィッド・サンボーン、ブーツィ・コリンズなど様々なミュージシャンとも共演している。
――でも、これだけの楽曲を演奏するためには、すごい量の練習と、綿密なリハーサルも必要なのでは?
川口 KIYO*SENって、事前のリハをあまりしないんですよ。レコーディング当日に初めて合わせたり。私はそれがすごく嬉しいんです。
――練習をし過ぎないほうがいい?
川口 最初のインプレッションって、すごくいいんです。邪(よこしま)な心がないというか。あれをやってやろう、これをやってやろうって思うと、逆につまらないものになりがちなんですね。ライブでも、リハがうまくいくと本番がうまくいかない。あれは何なんでしょうね。リハで安心しちゃうのかな。ギャグと一緒で、狙いすぎると逆に受けない(笑)。
大事なのは “安心価格” ?
――音楽以外のことで、盛り上がる話題ってありますか?
川口 皆さんが想像するような女子トークって、全然出ないですよね。恋もしてないし(笑)。
大髙 せいぜい「その衣装どこで買ったの?」「アベイル(注1)」みたいな会話くらいかな(笑)。
注1:ファッションセンターしまむらを運営する「株式会社しまむら」が母体。ヤングカジュアル路線の商品構成。
――メイクの話もしない?
川口 ドラムって汗をかくから「落ちにくいアイライナーはないですか?」っていう話ぐらいで。他の女子ユニットに参加すると「メイクして」って言われることも多くて、そこがいちばん辛い。で、付け睫毛して、汗を拭ったらビーって外れたり(笑)。KIYO*SENはそういうことがないから、めちゃくちゃ気楽です。
大髙 千里も私も、基本的にメイクとかファッションとかに、そんなに興味がないですし。
川口 安心価格であることが大事です(笑)。私は衣装にはお金をかけないスタンスなので、着るものは古着屋さんとかでも買ったりします。
――つまり、ステージ衣装に求めるものは安心価格と機能性。
川口 はい。パンツを履くとしても、裾が開いているのはダメなんです。足にビーター(バスドラムを叩く部分)が引っかかっちゃうので。上着も袖が広がっているとスティックが引っかかっちゃう。あと、すぐに汗をかくので薄手のもので。とにかく“音楽以外のことを考える時間”が少なければ少ないほどいい。上下繋がっているワンピースが無難ですね。ノー・スリーブで涼しいヤツ。
大髙 CASIOPEA 3rdみたいに弾くことがある程度決まっている場合は、オシャレしても大丈夫なんですけど、KIYO*SENとか自分のライブでは、インプロヴィゼイションの部分がすごく多いので、反応しなきゃいけない。その余力を残すために、ムダなものは排除したい。ネックレスもしたくないくらい。相手にどんな演奏をされても、立ち向かいますよっていう姿勢をキープしたいので。
――日々の生活の中で、特に気を遣っていることはありますか? たとえば食事とか。
川口 私は、肉が食いたい派です。「タンパク質をちゃんと摂らないと耳に悪影響がある」という父の教えがあって、それで肉を食べていたら無類の肉好きになってしまいました。
――あれだけドラムを叩いたら、お腹も減りますよね。
川口 ライブではけっこう頭も使うので、とにかくエネルギーを消費しちゃうんです。昨日もライブがあったんですけど、夕方に食事して、本番2時間やったら、もうお腹がすいてる(笑)。
――“女性ふたりのユニット” ならではのメリットはありますか?
川口 私は女性ミュージシャンとして、使えるものは使うけど、弱みにはしないというスタンス。女性ユニットとして注目されるというのはすごくいいことだと思っていますし、強みだと思います。
大髙 KIYO*SENに関しては、あまりレディース・ユニットという感じではないですよね。私も千里もレディース脳というよりもメンズ脳だし。
川口 すいません、女性っぽい話題が全然ないですね(笑)。
“日本雑技団”を目指します
――この6年間で、KIYO*SENはどのように進化してきたと思いますか?
大髙 千里は16歳からの6年間で、海外にも行ったりして、いろんな経験をして、音楽に対する姿勢とか、テクニックの成長度はすごいです。私もそれに合わせて「今ならこんなこともできるかも」って考えて曲を作ってます。
川口 バンドとしてライブ活動を積み重ねていったことによって、方向性が固まってきた感じがします。特に『organizer』からは、KIYO*SENはこの方向性で行くんだ、というのが確立してきたと思いますね。
大髙 KIYO*SENとしては年に2回ぐらいのペースでツアーをやっていて、そんなにベッタリと一緒にいるわけじゃないので、久しぶりに千里に会うと新しい技を習得していたりしてて。じゃあそれを使ってこんなことをやってみようか、っていうのをライブでもどんどんやっています。当然いろんなハプニングもあるし、同じ曲でも毎回演奏が違ったりするので、そういう意味で私たちのライブはとにかく面白いと思います。千里は、見た目はこんな感じですけど、ドラムを叩くと別人なんで。
川口 いやいや、ずっとこのままです(笑)。
大髙 KIYO*SENは “日本雑技団” を目指してます(笑)。ドラムもオルガンも、ワーって(高密度で)やり過ぎて「わけがわからない」と言われることもあるんです。けど、それもある一定の線を越えると “笑い” になるんですよ。凄すぎて笑っちゃう。シルク・ドゥ・ソレイユとかも、サーカスなんだけど、あそこまでいくと感動と笑いになりますよね。それを楽器で、しかもインストでできるのか。そこを目指していたりもします。
――技術をエンターテインメントに変える、ということですね。
大髙 やり切って、やり切って、そんなにやらなくたっていいんじゃない? っていうところまでやって、それを(聴く人たちに)楽しんでいただこう。そう考えると、自分たちのテクニックも上げることができるし、そこにモチベーションが持てるので、すごく楽しくなる。
川口 せっかくミュージシャンをやっているのに、毎回同じ演奏をするなんて、そんなつまらないことはないですから。毎回「ここからどうなるの?」っていうハプニングを楽しんでます。KIYO*SENは「楽しめるプログレ・バンド」なんです。
●KIYO*SEN オフィシャルHP
http://www.kiyo-sen.com/index.html
●大髙清美 オフィシャルHP
http://www.kiyomiotaka.org/
●川口千里 オフィシャルHP
http://www.senridrums.com/index.html
音楽ライター/プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。
【日時】11/24(日)
【会場】浜松 Merry You
浜松市中区田町331-8 棒屋第3ビル4F
☎︎ 053-456-3733 / 090-8154-4278(岡林)
【日時】11/25(月)
【会場】名古屋 ボトムライン
名古屋市千種区今池4-7-11
☎︎ 052-741-1620
【日時】11/26(火)2days!
【会場】大阪 ミスターケリーズ
大阪市北区曽根崎新地2-4-1ホテルビスタプレミオ堂島1F
☎︎ 06-6342-5821
【日時】11/27(水)2days!
【会場】大阪 ミスターケリーズ
大阪市北区曽根崎新地2-4-1ホテルビスタプレミオ堂島1F
☎︎ 06-6342-5821
※12月以降のプログラムは後日公式HPにて発表
Prog Flight@Haneda 2019
【出演】大高清美(Org)、川口千里(Dr)、渋谷有希子(B)、矢堀孝一(G)
【日時】11/23(土)
【会場】羽田ティアットスカイホール
【問い合わせ先】 ベガ・ミュージックエンタテインメント(株)