投稿日 : 2019.11.22 更新日 : 2020.11.25

【東京・三軒茶屋/JAZZ INN UNCLE TOM】音・酒・食がバランスよく同居するジャズバー

取材・文/富山英三郎  撮影/石橋雅人

いつか常連になりたいお店Vol.43_JazzInnUncletom_ジャズインアンクルトムの写真1
いつか常連になりたいお店 #43

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、三軒茶屋にある老舗のジャズバー『JAZZ INN UNCLE TOM(ジャズ イン アンクルトム)』を訪問。父親の意志を引き継いだ2代目店主は、苦労人ながらも人懐っこく、フレンドリーでナイスなお方でした。

突然、22歳の若さでお店を継ぐことに

渋谷から東急田園都市線に乗り、急行でひと駅という立地の良さから、一人暮らしの聖地となっている三軒茶屋駅(東京都世田谷区)。賑やかな街の南口を出て、栄通り商店街を抜けた四叉路にあるのが『JAZZ INN UNCLE TOM(ジャズ イン アンクルトム)』だ。

いつか常連になりたいお店Vol.43_JazzInnUncletom_ジャズインアンクルトムの写真2

店内はカウンターが10席、壁沿いには4人座れるテーブル席もある。内装は古き良き庶民派のバーといった趣きで、壁面には無造作にジャズ関連のポスターなどが貼られている。1977年10月オープンというこの老舗店の店主は、二代目となる作左部哲平さん。父親が亡くなり、22歳の若さで店を引き継いで現在マスター歴17年目となる。

「最初はジョン・コルトレーンすら知らないし、お酒の作り方も見よう見真似。常連さんに教わりながら、ジャズ喫茶に通ったり、有名なホテルのバーに飲みに行ったりして勉強しました」

なかでも、中野新橋にあるジャズ喫茶『コーヒー ジャズ ジニアス』には足繁く通ったという。

「ジャズ専門誌『スイングジャーナル』のバックナンバーが大量にあって、音楽を聴きながら読み漁っては、とにかく知識を詰め込んでいったんです」

いつか常連になりたいお店Vol.43_JazzInnUncletom_ジャズインアンクルトムの写真3

最初はジャコ・パストリアスなどのフュージョンに興味を持ち、年代を遡りながら、最終的にはスタンダードジャズの面白さにも気づくようになった。26~27歳の頃には自らジャズ中毒を自認するほどになる。

「真剣に聴くようになってわかったんですけど、日本は蕎麦屋でもスーパーでもそこら中でジャズがかかっているんです。そのたびに、このサックスは◯◯だなとか気になって仕方がなくて(笑)」

いつか常連になりたいお店Vol.43_JazzInnUncletom_ジャズインアンクルトムの写真3

かつては1階が本屋、2階がアンクル トムだった

三軒茶屋のこの地は、かつて祖母が1階で本屋を経営していた。父親がはじめた『ジャズ イン アンクル トム』は2階にあり、幼少期の哲平さんは毎日店内を通って帰宅。しかし、子どもの頃は「飲み屋をやっている」程度の認識で、音楽は漏れ聞こえてきたがジャズを意識することはなかったという。

音楽体験といえば、中学2年のときにスキャットマン・ジョンを気に入ってCDを買い、毎週のようにクラブ系音楽番組『カウントダウン・グルーヴ』を録画していた程度。高校では、『AKIRA』や『攻殻機動隊』などのアニメに衝撃を受け、卒業後はパソコン関連の専門学校に通うことになる。

しかし、祖母の本屋が経営難になり半年で退学。そこからは、アルバイトをしながら家計を助けるなど忙しい毎日を送ることになる。そうこうしているうちに、前述のように22歳で父親が他界してしまうのだ。

「親戚から、”店のレコードを売れば幾らかになる”と言われたのが悔しくて。それに、自分もお酒を楽しむ年齢になって、よく行くお店もできていた。お客さんの気持ちを思うと、行きつけの店がなくなるのはイヤだろうなって。それでカウンターに立つことに決めたんです」

いつか常連になりたいお店Vol.43_JazzInnUncletom_ジャズインアンクルトムの写真4

お客さんにジャズを勉強して欲しいとは思わない

以来、母親と二人三脚でお店を切り盛りしている。『ジャズ イン アンクルトム』は食事のメニューも豊富で、ハンバーグやドライカレーを目当てに、早い時間は食事がメインのお客さんも来店する。常連さんたちの人気メニューは厚揚げ。週に一度は魚の日を設けるなど、ツマミにはこだわりがある。

「お客さんにジャズを勉強して欲しいとは思わないんです。うちの店を気に入って、通っているうちにいつの間にかジャズを好きになってくれればいい。だから、堅苦しくない雰囲気を心がけています。とはいえ、あくまでもここはジャズバーなので、あまりにも音楽に無関心だと少しイラッとしてしまいます(笑)」

いつか常連になりたいお店Vol.43_JazzInnUncletom_ジャズインアンクルトムの写真5

お気に入りのアルバムを3枚あげてもらうと、チック・コリア『Return to Forever』、ジョン・コルトレーン『A Love Supreme』、オーネット・コールマン『At the Golden Circle Vol.1』を取り出してくれた。

「結局、ベタな3枚になってしまいました。どれもお店ではあまりかけないですね、自分が好きなだけです(笑)」

最近は外国人のお客さんも増えている

現在、お客さんは30~50代が多く、男女比は6:4程度。Airbnbがあるのか外国人客も増えており、中国とハンガリーの常連さんは来日するたびに寄ってくれるのだとか。ここでは、ジャズの文化とバーの文化が同時に体験できる隠れた社交場となっている。

いつか常連になりたいお店Vol.43_JazzInnUncletom_ジャズインアンクルトムの写真6

スピーカーはJBL4312XP、ターンテーブルはデノン。素直な出音が欲しくてプリメインアンプを使うのはやめ、フォニックのパワー・アンプとエクラーのミキサーを使って鳴らしている。繊細で美しいサウンドが自慢だ。

「どちらかといえば、お店を出てしばらく歩いたときにジャズの魅力や余韻が楽しめるような選曲を心がけています」

いつか常連になりたいお店Vol.43_JazzInnUncletom_ジャズインアンクルトムの写真7


・店名 JAZZ INN UNCLE TOM(ジャズ イン アンクルトム)
・住所 東京都世田谷区太子堂1-15-15
・営業時間 19:00~25:00(L.O.)
・定休日 無休(不定休)
・電話番号 03-3410-7903
・オフィシャルサイト http://jazzuncletom.web.fc2.com/

その他の連載・特集