投稿日 : 2019.12.05 更新日 : 2020.01.17
「多様性をみとめる社会」を音楽で推進する─ True Colors JAZZ ディレクター 松永貴志の構想
文/二階堂 尚 撮影/平野 明
いろいろな人が同じ場所で出会うことの大切さ
──True Colors JAZZのイベント・ディレクターを引き受けた経緯を教えてください。
日本財団(DIVERSITY IN THE ARTS)が主催している“サマースクール”という取り組みがあって、僕も音楽コースの講師として呼んでいただいています。障害のある方と一緒にダンスや演劇、音楽をつくるのですが、そのご縁でTrue Colors JAZZの依頼をいただきました。
僕自身、音楽を通じた社会貢献をひとつのテーマに活動していて、子育てを応援するイベントである“マタニティカーニバル”で演奏したり、知的障害者のスポーツ大会“スペシャルオリンピックス”のテーマソングを書いたりしてきました。True Colors JAZZに関わるのも自然な流れでした。
──True Colors Festivalでは、音楽だけでなく、ミュージカル、ファッション・ショーなどさまざまなジャンルの表現が試みられるそうですね。このイベントの趣旨のどのような点に共感したのでしょうか。
“多様性”がこのフェスティバルの大きなテーマです。これからの日本には多様性がいっそう求められることになるとよく言われますが、実際にいろいろな人と接してみないと、多様性とはどういうものかなかなかわからないと思うんです。
都会だと、隣に誰が住んでいるか関心がない人も多いですよね。でも、一度顔を合わせて挨拶をすれば、親しみがわいてくるし、お互いに思いやりをもって接することができるようになります。それと同じで、まずは、いろいろな人が同じ場所で出会うことが大事だと僕は考えています。このフェスティバルでは、性、年齢、国籍、障害の有無など、多様な人が実際に出会うことができます。そこに大きな意義があると思います。
──社会に貢献したいという意識が芽生えたきっかけは何だったのですか。
原点にあるのは、小学校の頃に体験した阪神淡路大震災ですね。地震のあとに必死にお弁当を配っている大人たちを見て、僕もいつか人の役に立つことがしたいと思いました。20代から大阪府主催の障害者芸術文化コンテストの審査員を務めたりしたのも、そんな思いがあったからです。
「見る」のではなく「体験する」ライブ
──イベント・ディレクターの具体的な役割を教えてください。
ミュージシャンの選定と、プログラムの内容を考えることが大きな仕事です。日本からは、フェスティバルの担当者と話し合いながら3人を選ばせていただきました。筋ジストロフィーと闘っているシンガーの小澤綾子さん、発達障害と感覚過敏を抱えている紀平凱成くん、10歳のドラマー、よよかちゃんです。よよかちゃんは2歳からドラムを始めたのですが、ジャズを演奏するのは今回が初めてだそうです。それからスペシャル・ゲストとして、トランペッターの黒田卓也さんにも加わってもらいます。
──海外のミュージシャンも参加するのですか。
6カ国から6人のミュージシャンに参加してもらいます。僕はこれまで世界各地で演奏してきたので、海外にはたくさんの友人がいるし、その中には誰もが知っているようなビッグネームもいます。しかし今回はあえて、僕が一度も共演したことがない人たちに声を掛けました。全員が初共演ということになります。日本でいろいろな人と交流し、このイベントのメッセージを感じて、自分の国に帰ってからもインフルエンサーとしてメッセージを広めていってほしい。そんな思いがあります。
──毎年、数多くのジャズ・ミュージシャンが来日していますが、世界中から集まったミュージシャンが一緒に演奏する機会はあまりないと思います。
そうなんです。でもジャズって本当はそれができるんですよね。年齢にも、性別にも、国籍にもとらわれず、いきなり顔を合わせた人同士がその場で音楽を創り出せる。それがジャズの素晴らしさだと思います。
──東京、大阪、熊本での公演は、すべてライブハウス規模の会場でおこなわれるとのことです。ホール公演にしなかったのはなぜですか?
小規模の会場の方が、演奏者と観客との距離が近くなって、ライブを“見る”というより、“体験する”という感じになります。例えば、聴覚に障害がある人でも、ライブハウスくらいのスペースであれば、空気感や音圧を感じることができます。障害があってもライブを体験できる空間がライブハウスだと思っています。
音楽を通じて社会に貢献する方法
──ジャズはこの100年の間、いろいろな音楽のスタイルを吸収して表現の幅を広げてきたまさに多様性に富んだ音楽ジャンルです。その点で、ジャズは今回のイベントの趣旨にマッチしていると言えそうですね。
ジャズはスタイルも多様だし、演奏する人も多様ですよね。僕は大阪で演奏活動を始めて、その後に東京に来たのですが、“こんなにいろんな人がいるんや”ってびっくりしたことを覚えています。その後にはニューヨークにもヨーロッパにも行きましたが、どこに行っても、みんながみんな個性的でした。ほんと、ミュージシャンの数だけスタイルがある音楽だと思いますね。
──その多様性が混じり合うところが、ジャズのひとつの醍醐味ですよね。
個性やスタイルが多様だからこそ、ほかの音楽よりも協調性が求められるという側面もあります。ルールやディレクションによって個性を上手に協調させることができると、音楽のレベルをより上げることができる。そこもジャズの面白さだと思います。今回のイベントも、ディレクションが大きなポイントになりそうです。
──17歳でメジャー・デビューして16年になります。これまでのご自身の音楽的な変化や成長をどう感じていますか?
10代の頃は、“30代になったら指も動かなくなるんかな”と思っていましたが、意外とそんなこともなくて、今でもやりたい演奏ができています。これまで、とくに壁にぶつかったということもないですね。そのときそのときにやりたいことにベストを尽くすという点では、デビューした頃と何も変わっていないと思います。
──現在の目標は何ですか。
究極的には、優しい世の中にしたいというのが目標なんです。音楽を通じてそれを実現するにはどうすればいいかと考えたときに、音楽にひたすら打ち込んで、自分の音楽を追求することが結果的に人を幸せにし、世の中を優しくするというやり方もあると思います。でも僕の場合は、もっと積極的に社会に関わっていきたいんです。
──あらためて、1月のイベントに向けて意気込みを聞かせてください。
いろいろな“初めての出会い”が生まれる場所にしたいと考えています。会場には、手話通訳の人も、英語の通訳の人もいますし、介助が必要な場合は介助者ぶんの入場料が無料になります。ジャズ・ファンはもちろん、これまでジャズをあまり聴いたことがなかった人や、障害が理由でライブに行けなかった人にもぜひ足を運んでほしいですね。
17歳の時に「ストーム・ゾーン」をブルーノート・レーベルからリリース。同作はレーベルの歴史上、マイルス・デイヴィスを抜き最年少リーダー録音記録を樹立した。全米、ヨーロッパ、アジア各国でも発売された。以降、テレビ朝日系「報道ステーション」をはじめ、数々のTV番組のオープニング曲やCM、映画音楽を手掛ける。最新作は『ワールド・オブ・ピアノ』(2018年)
https://takashimatsunaga.com/
Live Information
True Colors JAZZ 異才meetsセカイ Directed by Takashi Matsunaga
大阪公演 1月4日(土)Billboard Live OSAKA(ビルボードライヴ大阪)
東京公演 1月6日(月)Blues Alley Japan(ブルース・アレイ・ジャパン)
イベント・ディレクター:松永貴志(p)
スペシャル・アーティスト:黒田卓也(tp/大阪)
ゲスト・アーティスト:紀平凱成(p/大阪、東京)、よよか(ds/東京、熊本)、小澤綾子(vo/大阪、東京、熊本)
海外アーティスト:アリーナ・ロストツカヤ(vo)、ジョンノ・スウィートマン(ds)、ジョセップ・トラベル(g)、ルカ・アレマンノ(b)、ラヴィ・トリーサックシーサクーン(tp)、サラ・エルゲティ(sax)
問い合わせ:True Colors 事務局 TEL 03-6455-3335(平日10:00~18:00)
HP:https://truecolors2020.jp/