日本発で世界初!デジタルを駆使してアナログ盤を作る
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2014年、アメリカでは新譜アナログレコードの売り上げが前年比52%アップの920万枚となるなど、ここ数年飛躍的な成長を見せている。日本でも中古盤と新譜盤を扱う『HMV record shop』が渋谷にオープンするなど復活の兆しも。そんななか、クラウドファンディングによって誰でも気軽にレコードを制作できるユニークなサービスが日本から登場。そんな画期的なプラットフォーム「QRATES(クレイツ)」の全貌について、代表のYong-Boさんにお話を伺った。
なぜ「QRATES」はすごいのか?
01. クラウドファンディング形式でレコードを制作
「QRATES」では、100枚からレコードの制作が可能になっている。しかも、クラウドファンディング形式により購入者を事前に募るため、リスクが最小限におさえられる。また、各アーティストは自分のURLを持つことができるため、SNSなどで自ら拡散することが可能。その他、制作費をすべて自身で支払ってから在庫を販売することもできる。
02. 3Dビジュアライザーで楽しく制作できる
レコード盤のサイズは7、10、12インチから選ぶことができ、盤面は全9色から選択することが可能。また、レーベル面やスリーブのデザインも自由にカスタムすることができ、それらの完成予想図はリアルタイムに3Dで表現されるので、イメージが掴みやすく楽しく制作できる。仕様によってトータル価格も即座に表示されるので、計算の手間がなく使い勝手も抜群。
03. 世界中の人に販売することができる
グローバルに展開しているサービスのため、告知をうまくおこない、また視聴で気に入ってくれた人がいれば、世界各国のお客さまの手に届けることができる。発送に関しても、「QRATES」が代行するサービスがあるので安心。また、今後はレコードショップとの連携もされていくので、実店舗で置かれる可能性もゼロではない。
ーーまず最初に、どのようなキッカケで「QRATES」を始めようと思われたのですか?
複数の要素がありますが、ひとつはインディーズのアーティストがアナログレコードを作るには、クリアしなくてはいけない課題が多いんです。具体的には、製造に必要な最小ロットが300~500枚と多かったり、流通をさせたくても無名のアーティストだとなかなかお店に置かれなかったり。一方で、多くの人がレコードを作りたがっていて。というのも、いつの時代でもアーティストは自分の作品をモノとして残したいという欲求があるんです。そんな彼らの思いは、オンラインクラブミュージックストア「WASABEAT」を運営しながらヒシヒシと感じていました。
ーーアナログレコードに対する関心は、アーティストだけでなくリスナー側も高まっていますよね。
音楽がデジタルになり、さらにダウンロードからストリーミングへと移行するにつれて、音楽をモノとして所有できない環境が加速していて。そういった状況からレコードに再び注目が集まるだろうことは理解できましたし、実際にいち早くストリーミングが普及したアメリカからレコードが復活してきました。そこには反動という側面もありますし、レコードを経験したことのない若い世代がファッションという文脈でアナログ盤を発見して、簡易的なプレーヤーを買って楽しむ。そういったカルチャーがアメリカに生まれてきて、これは間違いなく日本にもくるだろうと思いました。
ーー「QRATES」の先進性は、レコードが手軽に作れるだけでなく、そこにクラウドファンディングの要素をプラスしたことだと思います。
ありがとうございます。先ほどもお話したように、そこまで有名でないアーティストにとってレコードを作ることはリスキーなんです。在庫の山を抱えてしまって、二度と作れないということはよくあって。そこで、レコードを作る前に代金が集められたらいいなとは思っていました。そんなときにクラウドファンディングという新しいサービスが出てきて、これを組み合わせたら面白いだろうなと。また、お金を先に集めて製造まで一貫してできるサービスは世界中で誰もやっていなかったので、挑戦する価値があると思いました。
ーーアーティストが自分のページを作れるというのもユニークですね。
プロモーションとして「SOUNDCLOUD」や「YouTube」に楽曲をアップするなど、音楽はどんどんC to C(消費者間で行われる取り引きのこと)に向かっています。その一方で、ストリーミングサービスがより普及していくと、インディーズのアーティストはますます収益を上げることが難しくなっていく。そんな時代だからこそ、アーティストがファンに直接楽曲やモノを売ることができる「bandcamp」に多くのインディアーティストが集まってきている。自分たちもそういうC to Cのサービスをやっていくべきだと思ったんです。そのためにも、アーティストが自分の店を持つような感覚でページをカスタマイズできるようにして、個性が出せるような機能を加えています。
ーーインターフェースではどんなところに注力されましたか。
楽しみながら自分だけのスニーカーをカスタムできる「NIKEiD」のようなものにしたくて、レコードを3Dでビジュアライズした点ですね。レコードを作るプロセスがより魅力的になるように心がけました。
仕様を変更するとブラウザー上にリアルタイムでデザインと費用が反映される。商品をイメージしやすいのがQRATESの魅力のひとつ。
ーー「楽しい」は大きなテーマだったんですね。
そうですね。レコードプレス工場のサイトってあまり楽しいものではないですから(笑)。一般的には無機質な価格表が出てくるだけなので。
ーー確かに、「QRATES」のサイトを見ていると、自分も作ってみようかなって気分になります。また、楽曲をアップして48時間後にはマスタリングが完了するという点にも驚きました。
いまは簡易的なマスタリングソフトもありますが、「QRATES」では安価でもちゃんと人の手でおこなっています。フランスの「カラーサウンド」というマスタリングスタジオと提携しているのですが、彼らはアルゴリズムではなく、ちゃんと人の手で温かみのあるものを作るべきだという信念を持った人たちで。僕らもそんな彼らの姿勢に共感して一緒にやっているんです。
ーーローンチから約4か月経って、ユーザーの反響はいかがですか?
グローバルなサービスとして展開していることもあって、ユーザーのほとんどは海外のお客さまです。割合でいうと海外:日本=7:3くらい、そこではアメリカとヨーロッパが半々程度です。面白いなと思うのは、我々が提携しているプレス工場はフランスとチェコにあるのですが、そこからアメリカに運ぶと送料や関税などの関係で少々割高になってしまうんです。アメリカにはまだプレス工場がいっぱいありますから。それでも「QRATES」を使っていただけるということは、このサービスの価値を好意的に見てくれているということかなと思っています。
ーー音楽ジャンルはどのようなものが多いですか?
いまはダンスミュージックが多いですね。でも、パンクやクラシックなど徐々に広がってきています。「QRATES」はあくまでもプラットフォームなので、これからも特定のジャンルの色はつけたくないですね。
ーー今後、プロモーションなどはどのようにおこなっていく予定ですか?
基本的にはC to Cのサービスなので、アーティストの方が自身のファンを連れてきてくれないと成り立ちません。とはいえ、より多くの人に「QRATES」の面白さを知ってもらうために、今後はアーティストやレーベル、メディアなどとコラボレーションしたユニークな企画を考えています。正直言って、この3か月は初期の問題点を洗い出すことに忙しかったので、これからようやくブランディングをしていこうという段階です。その他にもまだやりたいことがいっぱいあるんです。
ーー今後、どのようにサービスが拡張されるのか教えてください。
はい、まず僕らは街のレコードショップをすごく大事な場所だと考えているんです。新しいレコードを発見する場所としてはもちろん、コミュニティスペースにもなっている。そこをリスペクトしていますし、当初からお店と連携したビジネスになるべきだと考えていました。そこで、「QRATES」で作られた作品をレコードショップが卸売価格で買える仕組みを作ろうとしています。これは日本からスタートするのですが、現在、都内の数店舗と提携を開始してシステムを構築中です。これにより、アーティストは自分の作品がショップの棚に並ぶチャンスが生まれるだけでなく、いつ、どこで、何枚売れたのかがわかるようになる。これまでそういうデータをアーティストやレーベルが把握することは困難でしたから。この取り組みは8月末を目処にスタートする予定です。あとは、アーティストのページに映像(動画)を差し込むことができるようになります。MVでもいいですし、制作背景や思いなどを伝える手段にすることもできます。
ーーこれからますます充実していきそうですね。最後に、大きな方向性としてはどういったサービスを目指していくのでしょうか?
集客~製造~流通までをワンストップでできる仕組みを、より便利に構築できたらと思っています。アーティストはそれらの各種データを収集することができ、次の作品作りやマーケティングの参考にできるような仕組みを作っていきたいです。
Yong-Bo Bae
トウキョウ・デジタルミュージック・シンジケイツ株式会社代表取締役。2007年よりクラブ・ミュージック専門配信ストア「WASABEAT」を運営する傍ら、インターネットラジオ局「Block.fm」のプロデュースに参加。さまざまな音楽配信サービスの事業開発に携わる。