今年は本当にたくさんの音楽作品を聴きました。ジャズフェスを主催したから、音楽に特化したウェブメディアを立ち上げたから、というのも理由かもしれませんが、単純に素晴らしい作品が多くリリースされたのだと思います。CDが売れないと言われて久しいですが、全く枯渇することを知らない才能あるミュージシャンの方々やインディーズレーベルには心から敬意を払います。ジャズ周辺の世界で言うと、プロデューサー/DJの感性を持つ演奏家、その逆に作曲家/演奏家の感性をもつDJたちが生み出すハイクオリティな作品が次から次へとリリースされ、嬉しい悲鳴をあげています。個人的には、ここ10年位は楽曲単位でとらえることが多かったのが、最近はまたアルバム単位で楽しむことが多くなっているような気がします。これには最近のアナログ復興が少なからず影響しているでしょう。今回選んだ3枚もすべてVinylで購入し、アルバム単位でじっくり楽しませてもらった作品たちです。
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- Chassol
- Big Sun
シャソルとの出会い、ライブ体験は今年一番の素晴らしい出来事でした。映像の中の「音(楽音・噪音ともに)」に、ハーモニーやリズムを加えて自身の作品にしてしまうという唯一無二の音楽。彼の手にかかれば小鳥のさえずりも、海辺で歌うお母さんの小唄も、洗練されたモダンミュージックへと生まれ変わります。非常にアカデミックで緻密な作曲手法を用いながらも、理屈っぽくならずその音楽は常に人生の喜びにあふれているのが魅力。とにかくライブを体感すべきアーティスト。
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- 坂本龍一
- The Best of ‘Playing the Orchestra 2014’
2014年4月に行われたツアーの記録、教授がガンで闘病生活に入る直前の録音です。サントリーホールの公演を拝聴していたので、より一層の思い入れがあります。“戦メリ”やベルトルッチ作品のサントラ曲は、もはや「クラシック」と呼ぶにふさわしい凛とした美しさ。このコンサートのために坂本チルドレン藤倉大によりオーケストレーションが施された「Ballet Mecanique」のリリカルな響きは昔からのファンにとって嬉しいプレゼントとなりました。特筆すべきは音質の良さで、3枚組Vinylセットは一生の宝物です。
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- Kamasi Washington
- The Epic
人にこの作品を紹介する際、「黒いビートのドビュッシー」と説明しています。仮に本作を特徴付けているストリングスとコーラスだけを抜き出せば、ドビュッシー中期の最良の管弦楽曲「海」や「夜想曲」を連想したとしても不思議ではないでしょう。そして、オリジナル曲中心の本作に1曲紛れ込んだ本物のドビュッシー作品「月の光」。フランスの天才が青年期に書いた可憐なピアノ曲がレイジーなブラックミュージックとして蘇生。今年一番のマジック。