投稿日 : 2020.01.10

Playwrightレーベルが牽引する、インストミュージックの新しいシーン

取材:金子厚武 協力:ディスクユニオン

インタビュー

2012年に設立されたレーベル”Playwright”は、非コア層向けともいえる耳触りの良いサウンドにこだわってリリースを続け、2010年代におけるインストミュージックの重要なピースとなった。同レーベル主催の豪華イベント「Party the Playwright 2020」を前に、岸本亮(fox capture plan/POLYPLUS/JABBERLOOP)、木村イオリ(bohemianvoodoo)、辻本美博(POLYPLUS/Calmera)の三者による鼎談を開催。彼らとその周辺のミュージシャンの関係を軸に、新しい時代のインストシーンについて訊いた。

音楽へのアプローチが様変わりした2010年代

──”Playwright”がスタートしたのは2012年。fox capture planやbohemianvoodooはすぐに大きな話題となりました。そのような動きを、辻本さんは当時どのように見ていましたか?


fox capture plan
異なる個性を持つバンドで活動する3人が集まり2011年に結成。“現代版ジャズ・ロック”をコンセプトとした、新感覚なトリオ・サウンドが特徴。
https://www.foxcaptureplan.com/

bohemianvoodoo
ドラマティックな展開と爽快なドライブ感が持ち味のインストバンド。代表曲“アドリア・ブルー”のMVは視聴回数370万回を突破している(2020年1月現在)
http://bohemianvoodoo.jp/


辻本 僕はふたりよりも世代がちょっと下で、学生の頃からクラブジャズの文化に憧れて育ちました。関西で結成した”カルメラ”が軌道に乗り、そのブームに加われそうになった頃に大阪は風営法(注1)でガクッとなっちゃって。だから、そういうカルチャーをちゃんと経験できなかったんですよね。それから上京すると、Playwrightのまわりにシーンっぽいものがあったので羨ましいと思っていました。

注1:2010年12月に大阪ミナミにあるクラブが風営法違反(無許可営業)容疑で摘発されたことに端を発し、夜間に「客を踊らせる」クラブ営業が規制強化された。これにより多くのクラブが閉店に追い込まれたが、多くのミュージシャン、文化人らが反対。2015年に改正法が成立し、翌年に施工されたことでひとまずの規制緩和となった。

岸本 確かに関西は風営法で一時期オールナイトができなかったし、さらに2011年には震災もあったから、一時期は華やかなことができるムードじゃなかったよね。

──fox capture planの結成は2011年ですが、当時のムードへのリアクションもあったのでしょうか?

岸本 当時はYouTubeやSNSが今ほど活発に利用されていなかったので、異なるシーンの情報などが入ってきにくかった。そんな中、狭いシーンではなく、より多くの人に発信できる方法がないかと考えてました。ルイージ(カワイヒデヒロ)と(井上)司とも「何かやろう」という話をしていましたが、その頃に震災があったのでいろいろなことが一旦ストップしてしまって。そこで一気に曲を作ったんです。音楽的には、e.s.t.(注2)からヒントを得たりしながら、新しい組み合わせで音楽をやれることへのワクワク感がありましたね。ジャンルの壁がどんどんなくなっていったのが2010年代だったな。

注2:スウェーデンのピアニスト、エスビョルン・スヴェンソンが1993年に結成したトリオ。ロックやテクノ、エレクトロなどの手法を取り入れ、意欲的な作品を多く発表。他ジャンルにも影響を及ぼしたが、2008年にスヴェンソンが水難事故で逝去したことでトリオとしては事実上の解散となった。

木村 フォックスは風穴を開けたよね。ピアノ系のインストバンドがめちゃくちゃ増えたもん。

岸本 同じ時期にSchroeder-Headzとかjizueもいたし、転換期だったのかもしれませんね。

木村 00年代だと、CDショップの売り場と、DJがクラブでかける音楽を情報源に新しい音楽を探っていた。でも、今はYouTubeや配信で音楽を探すように変わってきました。「2019 ピアノトリオ」で検索すると、世界中の新しい音楽が出てくる。音楽へのアプローチが様変わりした印象があります。


Schroeder-Headz
渡辺シュンスケによるポスト・ジャズ・プロジェクト。ピアノ、ベース、ドラムスによるアコースティックなサウンドとプログラミングを融合させ、トリオの未来形とも言えるサウンドを紡ぎ出す。
https://schroeder-headz.com/

jizue
2006年結成。ロックや、ハードコアの力強さ、ジャズの持つスウィング感、叙情的な旋律が絶妙なバランスで混ざり合ったサウンドで、地元京都を中心に人気を高め、2017年にビクターよりメジャーデビュー。
https://www.jizue.com/

コアな音楽ファンに「わかってない」と思われてもいい

──POLYPLUSの結成は2014年ですが、当時からPlaywrightのことは意識していたのでしょうか?

辻本 当初はメンバー先行で集まって、どんな音楽をやるかも決めず動いていました。でも、出てくる音的にPlaywrightにハマりそうだなって、バンドをやりはじめてから意識するようになりました。

岸本 POLYPLUSは最初から「ダンスミュージック」というキーワードがありました。一方、Playwrightのカラーはポスト・クラブジャズ的というか。bohemianvoodooにしろ、TRI4THにしろ、もともとクラブジャズシーン出身で、そこから新しいことをやってる人たちの集まりだったから、POLYPLUSもきっと合うだろうって思っていました。


POLYPLUS
“フロアを躍らせるセッションを”を合言葉にメンバーが集結。高い演奏力とフロアを巻き込む空気感で観る者を魅了し、躍らせ、着実に支持を拡大してきた。2019年より3人体制となり、次のステージへの飛躍が期待される。
http://www.playwright.jp/artist/polyplus.html

TRI4TH
2009年3月に、須永辰緒の主宰するレーベルからアナログシングル 「TRI4TH plus EP」でデビュー。ジャズをベースにロックやスカを取り入れた音楽性で国内外で人気を集め、2018年にソニー・ミュージックよりメジャーデビューをはたした。
https://tri4th.com


──ジャンルの壁がなくなっていったことが2010年代の大きな特徴だったとありますが、それを象徴するアーティストや作品といえば?

岸本 まあ、ロバート・グラスパーは絶対に挙がりますよね。

辻本 そうですね。でも日本ではやっぱりfox capture planじゃないかな? 僕も上京したばかりの頃、一人暮らしの部屋でYouTubeでいろいろ探していた時に「衝動の粒子」に出会い衝撃を受けました。フォックスに駆り立てられた……というか、ひとつの成功例を近くで見ている感じでしたね。

「衝動の粒子」(2013年)は、fox capture planの1stアルバム『トリニティ』に収録。

岸本 たしかに。その後Awesome City ClubとかLUCKY TAPESとかがブレイクして、ちょっと時代が変わり出したなって思いますね。彼らはインストバンドという括りではないけれど、ルーツミュージックにジャズやフュージョンの要素があった。それが2010年代半ばくらいになって、インストを聴かないだろう一般層にも支持され始めたっていうのは象徴的ですよね。


Awesome City Club
2013年に結成された男女ツインヴォーカルの4人組バンド。デビューから2年間で4枚のアルバムを発表。コンスタントにツアー/リリースを繰り返しながら、国内外の大型フェスティバルにも多数出演している。
https://www.awesomecityclub.com/

LUCKY TAPES
高橋海(vo,kb)、田口恵人(b)、高橋健介(g)の3人組。2015年にデビュー作『The SHOW』をリリース。2018年にはビクターよりメジャーデビューを果たした。
http://luckytapes.com/


木村 僕らの界隈って、きっと日本独特の文化でもあるよね。インドカレーの要素を取り込みつつ、大阪独自の文化になってるスパイスカレーみたいな(笑)。海外の音楽をいろいろ聴いて参考にはするけれど、それを自分たちなりに咀嚼して、新しくして出すっていう。

岸本 それが世界にも出て行ってるのが面白いですよね。DJ Okawariさんとか、西原健一郎さんとか、ジャジーヒップホップって日本の中で独自に発展して、それがアジアを中心に世界中で受け入れられてるっていうのは、すごく面白い現象だと思います。

辻本 ”東京アクティブNEETs”っていう同人バンドもすごく2010年代っぽい。スタイルはオーソドックスなんだけど、取り上げる曲がアニメやゲームのコアな曲ばかり。それを爆音のジャズでやるという。いまはニコニコ動画からYouTubeに移行しつつ、配信を中心に独自のスタイルで活動しています。

東京アクティブNEETsによる「脳漿炸裂ガール」。同曲は当社比Pによるニコニコ動画への投稿から広まり、その後ボカロからアイドルまで様々なカバーが発表された。

岸本 そういうのって、ガラパゴス的な独自の音楽なんだよね。それに対して、コアな音楽ファンの中には「日本人は世界の今の音楽をわかってない」なんて否定的な人もいるけど、これはこれで僕は面白いと思う。それが世界に進出してるっていう状況も含めてね。

辻本 たしかにそうですね。僕らはよくシンガポールのイベンターさんにお世話になっているのですが、その人はSOIL&”PIMP”SESSIONやPE’Zにはじまり、日本のジャズっぽいバンドシーンをずっと追いかけているんです。半年に一回は日本に来て、タワレコでCD買って、ライブ観て、シンガポールのイベントに日本のバンドを呼んでいるんですけど、「こんなにいろいろなバンドが固まってる国は他にない」って言ってましたよ。

岸本 俺らが思ってる以上に、海外のジャズフェスのプロデューサーはいろんなバンドを調べてるんですよね。やっぱりインターネットが身近になったことで、「面白いバンドが日本にいっぱいいるぞ」って見られてるのかな。

木村 CDからストリーミングへとメディアが移行したことで、世界中の人が日本の音楽を聴けるようになった。2020年以降は、世界との音楽的な垣根がもっと低くなっていくだろうね。

新たな10年の始まりを飾る豪華なパーティー

──フォックスの活動も、2010年代的なスピード感だったように思います。

岸本 ロック系の人たちはすごく早いペースでアルバムやMVを出していたので、彼らの影響は受けましたね。2013年と2017年に一年で2枚ずつアルバムを出せたのも、そういう時代の影響だったのかな。

──2019年には配信限定の楽曲「夜間航路」、「ニュー・エラ」もリリースされました。

岸本 昨年初めてチャレンジした配信では、エレクトリック・ピアノ/ベースを使って、これまでのイメージには捉われないことをやろうと思ったんです。そういうことを試すには、サブスクリプションは使いやすいと感じました。これまではフルアルバムにこだわってきたんですけど、これからどうなっていくんだろう。今の若いバンドはフルアルバムを作らずに、EPのみリリースしてる人もいますからね。


──bohemianvoodooの2019年は、アルバム『モーメンツ』のリリースが大きかったですね。

木村 オリジナルアルバムとしては『アロマティック』以来およそ5年ぶり。これで全国ツアーを回りましたが、お客さんがたくさん来てくれてよかったです。バンドをやっていて一番嬉しいのって、ワクワクしながら会場に来てくれるお客さんがいることですからね。

──インターネットのおかげでいろいろな物事がスピーディーで便利になった一方、ライブの重要性は昔から変わらない。むしろ、より重要になっているかもしれませんね。

木村 うん。配信やEPなどリリースの手段は多様化するけれど、ライブという根本の部分は変わらないと思います。

──POLYPLUSはYOSHIAKIさんが脱退し、大きな転機の年になりました。

辻本 YOSHIAKIさんの脱退はやむを得ない事情でしたけど、ファンの人からすると寂しいニュースですよね。でもそれだけだとPOLYPLUSっぽくないと思ったので、サポート・ドラマーとして”the telephones”の松本誠治さん、”CHAI”のユナちゃんを迎えての東名阪ツアー(2019年11 – 12月)を発表しました。“ピンチはチャンス”の精神ですね。このバンドはリスナー/ミュージシャンのみなさんにサポートをしてもらってこそなので、止まらずに動く決意をした2019年でした。

岸本 あえてこのタイミングで音源(注3)を出したことで、逆境を力に変えられたんじゃないかと思います。僕がPOLYPLUSで初めて曲を書けたのも「ここで失速するわけにはいかない」っていう気持ちがあったからかもしれません。

*注3:2019年9月に3曲入りEP『ネクスト』を配信限定で発表。同作収録の「quarter」と「rain」の作曲を岸本が手掛けた。

──2019年に発表されたPOLYPLUSの『ネクスト』、bohemianvoodooの『モーメンツ』、fox capture planの『ニュー・エラ』は、いずれも新たなディケイドの始まりを告げているように感じました。

岸本 たしかにそうかもしれない。人と音楽の向き合い方も変わっていくから、僕らも常にアクションを起こしていかないといけない。

──そんな新しい時代の幕開けを飾る「Party the Playwright 2020」は、レーベルの新旧アーティストが顔を揃える賑やかなパーティーになりそうですね。

辻本 POLYPLUSは2018年にレーベルに加わったばかり。そんな僕らが1日目のヘッドライナーを任せてもらえるのかと思ってラインナップを見てみると……みんな僕らより後にPlaywrightに合流してるんですよね。この界隈の第一世代をSOIL&”PIMP”SESSIONSさんだとしたら、僕らは第二世代で、その下の第三世代が遂に出てきたなって感じます。

木村 2日目はピアノの比率が高くて、一番エモい日になりそう。ピアノの音や楽曲の美しさを楽しめる一日になってると思うので、飲みながらゆっくり聴いてほしいですね。

岸本 3日目は歌もののラインナップが多くて、独自のフィールドで活躍してる人たちの中に、ベテランの島(裕介/tp)さん率いる”silent jazz case”がいたりもする。

──こうしてみると、ずいぶん仲間が増えましたね。

岸本 たしかに、「家族」が増えた8年間でした。今回のパーティを経て、Playwrightはまだまだ続くでしょう。レーベルとして「こういうサウンド」という方向性があるのではなく、プロデューサーが面白いと思ったらなんでもウェルカム。そういうスタイルが僕はすごく好きですね。


Live Information「Party the Playwright 2020」
日程:2020年1月31(金)2月1日(土)、2月2日(日)
場所:東京・新宿ロフト
出演:1月31日(金)POLYPLUS、YoYo the “Pianoman”、The SKAMOTTS、colspan、MC:岸本亮
2月1日(土)bohemianvoodoo、tsukuyomi、re:plus × Yusuke Shima、木村イオリ&森田晃平duo、Alter Ego、m.s.t.、Gecko&Tokage Parade、MC:須永辰緒
2月2日(日)fox capture plan、”CONNECTION” カワイヒデヒロ&bashiry + guest、MASSAN × BASHIRY、AFRO BEGUE 3、WAIWAI STEEL BAND、freecube、silent jazz case、MC:社長(SOIL&”PIMP”SESSIONS)
チケット:3日間通し券 ¥10,000(※eplus、ロフト店頭のみ)
1日券 ¥3,500(1月31日)、¥4,500(2月1、2各日)
ドリンク代別(¥600)、当日券はプラス500円
お問い合わせ:新宿ロフト 03-5272-0382