『あなたの顔』©️ 2018 HOMEGREEN FILMS TAIWAN PUBLIC TELEVISION SERVICE FOUNDATION ALL RIGHTS RESERVED
坂本龍一が音楽を手掛けた、台湾の映画監督ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)の映画『あなたの顔(原題:你的臉)』の日本公開が決定。4月より東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムほか、全国で順次公開される。
ツァイ監督が5年ぶりに放つ本作は、台湾に暮らす市井の人々と、俳優/監督のリー・カンション(李康生)が出演するドキュメンタリー作品。カメラの前で自由に話し、動く人々の「顔」にクローズアップし、目や口元、「顔」に刻まれた皺(しわ)などから、人々の生きてきた時間を映し出す。
「ヴェネチア国際映画祭」でのワールドプレミアでは「彼の映画人生の新たな一歩を踏み出した」と称賛され、その後、台湾の映画祭「台北電影節」では、最優秀ドキュメンタリー賞と監督賞、さらに音楽賞を受賞。また「金馬奨」でも最優秀ドキュメンタリー賞を受賞している。
4月より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督:ツァイ・ミンリャン(蔡明亮) / 製作総指揮:ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)、ジェシー・シー(施悦文) / 製作:クロード・ワン(王雲霖) / 音楽:坂本龍一 / 撮影:イアン・クー(古桓誼) / 編集:チャン・チョンユェン(張鍾元) / 出演:リー・カンション(李康生)ほか原題:你的臉 (英題:Your Face) / 2018年 / 76分 / DCP / カラー / 中国語 / 字幕:神谷直希/提供:トランスフォーマー / 配給:ザジフィルムズ、トランスフォーマー / 協力:東京フィルメックス
公式サイト:www.zaziefilms.com/yourface/
Twitter:https://twitter.com/yourfaceJP2020/
坂本龍一とツァイ監督のコラボレーションは24年ぶりのこと。今回の日本公開を受け、坂本は以下のようにコメントしている。
3年前のある日、僕はヴェニスの浜辺をぶらぶら歩いていたのだが、遠くで「サカモトー」と呼ぶ声が聞こえた気がして、ふと振り返るとツァイさんが満面の笑顔でこちらに手を振っている。警戒心の微塵も感じられない、なんと親愛に溢れた表情なんだろうと、なかば呆気にとられる。その時、この人のためなら何でもしてやろうと思ったのだった。
それから数ヶ月後にツァイさんのオフィスから連絡があり、新しい映画のために音楽を作ってくれと。ぼくはすぐに「もちろん」と返事をする。音楽の方向性は?と聞くと、「何もない、好きにやってくれ」という答え。
送られてきた映像を見て、早速いろいろな音を試してみる。いわゆる「音楽」は似合わない。音と間が必要だ。あのミニマルな映像に適切な音、間とはなにか。最初にピアノで試し、それを映像に合わせてみると非常にせわしない。だめだ、忙しすぎる。音楽独自の時間が映像の邪魔をしてしまう。今度は映像を見ながら、音を出していく。そういうプロセスを繰り返しながら、納得のいく間をとっていく。この作業にはどんな理論も役に立たない。ひたすら感覚の命ずるところによって決めるのだ。
数日して、音と間による12のピースができ、それを監督に送る、「自由にお使いください。切り刻んでも、全く使わなくても自由です」というメッセージを添えて。
完成した『あなたの顔』を観て、特に嬉しかったのは、最後の室内のシーンのために作った音を、ツァイさんはやはりそのシーンに使っていたことだ。言葉を交わさず、映像と音だけで意思が通じたと確信できる出来事だった。このように幸福な映画音楽プロジェクトは人生で度々あるものではない。
坂本龍一