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ブラジル音楽の最新潮流を知るための作品ガイド

2017年11月22日の特集記事を再掲

今年(2017年)リリースされた最新作品を中心に、2010年代に発表されたブラジル産“傑作アルバム”を厳選。サウンドの傾向やジャンルごとに「ブラジル音楽の現在」を紹介します。

Pop&Rock

——最新ポップと伯フォークロアの新たな交歓——

Silva
『Canta Marisa Monte』

(2016)

2010年代に頭角を現したシンガー・ソングライター(以下:SSW)シルヴァが、ブラジルを代表する女性SSWマリーザ・モンチの楽曲をカバー。かつてのシンセポップ路線からグッと生音寄りにシフトし、贅肉を削ぎ落としたサウンドはまるで良質なレゲエのよう。

Cinco a Seco
『Policromo』

(2014)

イケメン5人が横に並び、歌って演奏する。アイドルのような絵面だが、じつは各人がソロ作をリリースするほどに優れたSSWというグループがこのシンコ・ア・セコだ。楽器演奏、歌唱力も驚くほどにレベルが高く、音楽大国ブラジルの凄さを見せ付けられる。

Dani Black
『Diluvio』

(2015)

「ノーヴォス・コンポジトーレス」と総称される新しいSSWたち。その最注目株がこのダニ・ブラッキだ。現代のモードを着実に反映しつつも豪奢で綿密なサウンド。そして圧倒的な存在感を誇る歌声。ブラジルの“これからを担う声”は間違いなく彼だろう。

Cesar Lacerda
『Paralelos & Infinitos』

(2015)

ミルトン・ナシメントなど偉大な才能を生んだ、ミナス州出身のSSWセーザル・ラセルダ。本人が“大きな影響源”と語るカエターノ・ヴェローゾにも通ずる中性的な歌声と、ダブステップ以降の感覚を反映した、たゆたうようなサウンドメイクがとにかく心地良い。

Lineker
『Lineker』

(2016)

舞踊家としても活動するというSSWリネケルの2016年作品。分厚い電子音、隙間多めでソリッドな実験的サウンドをバックに、自慢のテノール・ヴォイスがこだまする狂乱の世界。ときおり漂うフォークロアやLGBTカルチャーの色香もスパイシーだ。

Mallu Magalhaes
『Vem』

(2017)

17歳でSNS(Myspace)から全国区になったマルー・マガリャエスの最新作。今回も夫である「ブラジルのジョン・レノン」ことマルセロ・カメーロがプロデュース。これまで以上にポップなメロディとブラジルらしい躍動感が連続する王道ど真ん中といった一枚に。

Iara Renno
『Arco & Flecha』

(2016)

サンパウロ前衛音楽の流れを汲む女性SSW、イアラ・ヘンノ。最新作は女性音楽家と作り上げた『アルコ』と、男性音楽家との『フレーシャ』という2枚組大作だが、退廃的でノイジーなニューウェーブ的サウンドと、弾けるようなグルーヴで一気に駆け抜ける。

Ana Cláudia Lomelino
『mãeana』

(2015)

リオのインディー・シーンで活躍する現在30代前後の若手音楽家たちにおいて最も注目すべき存在がこのアナ・クラウヂア・ロメリーノだ。アフロ・ブラジルからサイケデリア、音響派、ボサノヴァ的白昼夢までを、アルバムのテーマである「母性」で包み込む。

Dani Gurgel
『Outro Som』

(2017)

歌手としてだけでなく自身が手掛ける写真や映像なども駆使し、優れた若手音楽家の曲を取り上げるダニ・グルジェル。本作はそんな注目の作家たちとのセッションを収録。声とギターを中心としたシンプルな録音ゆえ、それぞれのネイキッドな魅力が浮き彫りになる。

Jennifer Souza
『Impossivel Breve』

(2013)

ジェフ・バックリィを思わせる、圧倒的な歌とギターの世界。ミナスのインディー・シーンから現れたフォーク系SSW、ジェニフェル・ソウザ。魅力的な声をよりドラマチックに仕立てるのは若手のジャズ系セッションマンたち。ミナスの今を凝縮したような一枚。


Samba/Choro/Afro-Brasil…

——華麗に更新され続ける各地の伝統音楽たち——

Criolo
『Espiral da Ilusao』

(2017)

ヒップホップでキャリアをスタートした男性シンガー、クリオーロがサンバに挑んだ作品。「サンバとラップは兄弟のように育ってきた」と本人が語るように、けれん味やギミックを排して、オーセンティックなサンバを朗々と歌い上げる、味わい深い作品。

Hamilton de Holanda
『Casa de Bituca – Musicas de Milton Nascimento』

(2017)

ブラジルの器楽音楽ショーロをベースにしながらも、ポップ歌手のサポートからECMレーベルでのリリースまで途轍もないエネルギーで挑戦を続けるアミルトン・ヂ・オランダこそ、次代のエグベルト・ジスモンチと言えるだろう。当最新作はミルトン・ナシメント曲集。

Lourenço Rebetez
『O Corpo de Dentro』

(2016)

アフロ・ブラジルの伝統と、Jディラ以降のビート感覚をパーカッション+ブラス・セクションを交えた大編成バンドで融合させたブラジル産ラージ・アンサンブルの傑作。ブラジル国内はもちろん日本でも高く評価され、アナログ盤もリリースされた。

Tigana Santana
『Tempo & Magma』

(2015)

独特のチューニングを施した5弦ギターとジェントルなヴォイスで、アフロ・ブラジル音楽の熱気を静かに体現する男性SSW、チガナー・サンタナ。その小宇宙のような深遠な世界は、ブラジルの音楽家たちからも高く評価されている。

Kiko Horta & Marcelo Kaldi
『Duas Sanfonas e Uma Orquestra』

(2016)

ブラジルの地方音楽であるバイアォンをベースにしたビッグバンド作品。ブラジル人の郷愁を誘うサンフォーナ(ブラジルのアコーディオン)奏者2名をフロントに据えた個性的な編成はもちろん、エルメート・パスコアルにも通ずる壮大な世界観も見事。


Jazz&Instrumental

——ブラジルで育まれるジャズと管弦楽の未来——

Ludere
『Retratos』

(2017)

バーデン・パウエルの息子であるピアニスト、フィリップを中心にサンパウロ随一のミュージシャンにより結成されたカルテット、ルデーリ。ドラムのダニエル・ヂ・パウラを筆頭に「ブラジルらしさ」から解放された演奏は旧世代とは明らかにテイストが異なっている。

Antonio Loureiro
『So』

(2012)

ここ数年のブラジル音楽最大のキーワード「ミナス新世代」の中心となったのが、このアントニオ・ロウレイロだ。ほぼ全ての楽器を自ら演奏し多重録音。その演奏クオリティ、構築の手法、そして明らかに旧世代とは異なる現代らしい感覚が音の端々から感じられる。

Rafael Martini Sextet + Venezuela Symphonic Orchestra
『Suite Onirica』

(2017)

2017年初来日のミナスのピアニスト/作編曲家ハファエル・マルチニが自身のバンドにオーケストラを迎えて録音したラージ・アンサンブル作品。コーラル(賛美歌)を導入するなど何世紀も前に迷い込んだような瞬間と、2010年代の極めて鋭いセンスが同居する。

Pedro Martins & Daniel Santiago
『Simbiose』

(2016)

現代ジャズ・ギターの最重要人物カート・ローゼンウィンケルの最新作で大きな存在感を発揮し、一躍有名になったペドロ・マルチンス。最新作はギター2本+ヴォーカルというシンプルなデュオだが、天性ともいえる声とハーモニーの魅力が凝縮されている。

Neymar Dias
『Feels Bach』

(2017)

じつはクラシック・ギターの世界でも有名なブラジル。本作はバッハの楽曲を複弦(1コースに2本以上の弦を張る)5コースのギター「ヴィオラ・ブラジレイラ」で演奏したユニークな作品。楽器的な限界はありつつも、バッハの新たな魅力を提示するかのよう。


Maestros

——いまも“先鋭”であり続ける巨匠たちの快作——

Joao Donato & Donatinho
『Sintetizamor』

(2017)

ボサノヴァの名手として知られるジョアン・ドナート(83)がまさかのシンセ・ブギー作を発表。仕掛け人は実の息子でミュージシャンのドナチーニョ。彼のシンセ+80’s黒人音楽+特撮に対するギーク的趣味が、父ドナートをポップアイコンへと押し戻した。

Arthur Verocai
『No Voo do Urubu』

(2016)

サンプリング・ソースとしてヒップホップ界で再発見、神格化された職人的作編曲家アルトゥール・ヴェロカイ。本作はそんな彼がブラジルでも十二分に評価されていることを示す45年ぶりのブラジル録音。優雅なアレンジと心地よいグルーヴ。これ以上何もいらない!

Elza Soares
『The Woman At The End Of The World』

(2015)

1960年代から活躍するサンバの女王エルザ・ソアーレスがサンパウロ・インディー・シーンの面々と作り上げた尖りまくりの2015年作。ノイジーで重厚、圧倒的なエネルギーは世界をもノックアウト。UK盤はピッチフォークの年間ベスト50にも選ばれた。

Gilberto Gil
『Gilbertos Samba』

(2014)

ブラジルを代表するSSW、ジルベルト・ジルがジョアン・ジルベルトのレパートリーを取り上げた作品。ここでのキーパーソンはドメニコ・ランセロッチ。一音で彼のドラムとわかる奥行きのあるサウンドが、耳馴染みのボサノヴァたちをさらに新しく甦らせた。

Hermeto Pascoal
『No Mundo dos Sons』

(2017)

世界的な知名度を誇る作編曲家/マルチ器楽奏者のエルメート・パスコアル15年ぶりの新作。現在81歳だが衰えるどころかますます活発で、ブラジル国内外を問わず、その影響力はいまだに絶大。本作参加の音楽家を筆頭に、彼の遺伝子は日々増殖している。

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