ARBAN

ゴム、シンゲリ、アマピアノ… 要注目の「最新音楽ジャンル」たち

30年以上も前に作られた日本の「シティポップ」が近年、まるで新しい音楽ジャンルであるかのように世界中で注目されている。そうした “局地的な音楽ジャンル”が突如、世界的に認知されることはいまや珍しくない。日本産の音楽やアニメと繋がりの深い「ヴェイパーウェイヴ」や「フューチャーファンク」、「ローファイ・ヒップホップ」といった新興ムーブメントも同様。その背景にあるのはインターネットである。

こうした “ネットありき” のムーブメントは、いまも続々と新たな音楽カテゴリを生み出している。また、ネット依存度は低くとも、認知拡大中のユニークな音楽ムーブメントも多数。そんな「注目すべき新ジャンル」を、音源とともに紹介しよう。

Gqom(ゴム)

 

 

南アフリカで誕生し、いま世界的に注目されつつあるのがゴム(Gqom)。2010年ごろに南アフリカ共和国のダーバンで生まれ、数年前に欧州経由で世界中に拡散したエレクトリック・ダンスミュージックだ。

サウンド的には、ハウスミュージックの亜種と捉えることもできるが、いかにもハウス的な、スクエアな4つ打ちではなく、ポリリズミックなビートと、テクノやヒップホップ要素も多分に盛り込まれている。また、イギリスで勃興したベース・ミュージック的な要素も強い。

歌モノやラップもあり、最近は現地のヒットチャートにも登場するなど、ポップな方向でバリエーションを広げている。

Citizen Boy – Hometown Glory (Gqomu remake) by Gqom Oh!

 

Amapiano(アマピアノ)

 

 

これも南アフリカ発で、前出のゴム(Gqom)とは親戚のような関係。アマピアノ(AMAPIANO)の発祥は、首都プレトリアやヨハネスブルグなど諸説ある。

前出のゴムはテクノ/ヒップホップ的だが、このアマピアノはハウス要素が強い。なかでもディープハウス的な特徴を多く備えており、ジャズやカリビアン風味を含んだチルアウトな楽曲が目立つ。最近はゴムと同じく、ボーカルをフィーチャーしたポップなものや、ヒップホップ要素を取り入れたトラックも登場しているという。

 

Singeli(シンゲリ)

 

 

シンゲリの発祥はアフリカ、タンザニア最大の都市ダルエスサラーム。広く認知されはじめたのは2010年代の後半になってからで、同じくアフリカ(ウガンダ)のレーベル「Nyega Nyega Tapes」がシーンの火付け役といわれる。

サウンド面における最大の特徴は、テープを早回ししたような音像。単純にBPMだけを捉えると、200を超えるスピードなので、ダンスミュージックとしては極めて突飛で独創的なフォルムだ。最近ではヨーロッパ産のシンゲリも誕生しており、今後の発展や変貌も楽しみなジャンル。

 

Russian Doomer Music(ロシアン・ドゥーマー・ミュージック)

 

 

非常に不可解なジャンルなので、順を追って説明しよう。まず、ロシアン・ドゥーマー・ミュージックの「ドゥーマー(Doomer)」とは何か。これは、数年前に4chan(英語圏を対象にした匿名画像掲示板)に登場したキャラクターで、すべてはこのドゥーマー君(ニット帽に咥えタバコの彼)から始まった。

この絵の元ネタはWojakといって、説明すると長いのでここでは省略。で、ドゥーマー君はどんな人物かというと、20代前半の男性。友達はいない。趣味といえば、たまにやるゲーム(PS1)くらい。要するに “非リア充”のドゥーマーは、ある世代の若者の絶望や、ニヒリズムを象徴する存在としてさかんにネタにされた、いわゆるインターネット・ミームである。

そんな彼の行動癖のひとつに「バイト帰りに夜の町をうろつく」というものがあり、この徘徊中に彼がイヤホンで聴いているのはどんな音楽か? という問いが、ロシアン・ドゥーマー・ミュージックのはじまりである。

このネットミームが発生したのは2018年の9月。以降、さまざまな「ドゥーマー・ミュージック」のプレイリストが作成されたが、あるときロシア語のポストパンクだけで作られたリストが登場。これが見事にハマり、「ロシアン〜」がシリーズ化。陰々滅々とした「ドゥーマー・ミュージック」が続々とリストアップされ続けている。

そんなものが音楽ジャンルと言えるのか? とも思えるが、ロシア語による陰鬱ロックが続々と掘り起こされ、新たな文脈で鑑賞されるさまは、外国人による「日本語シティポップの発見」とよく似た現象とも言える。

 

ARBANオリジナルサイトへ
モバイルバージョンを終了