ピアノの山本有紗、サックスの中村有里、ベースの石垣陽菜という女性3人組ユニット、Fabrhyme(ファブライム)。音楽大学出身の彼女たちは、インストゥルメンタル・ミュージックの楽しさ、親しみやすさなどを表現したYouTube動画などで注目を集め、今回、アルバム『Showing!!』でメジャーデビューを果たした。
オリジナルな存在でありたい
──まずはグループ結成の経緯を教えてください。
中村 私と(山本)有紗は音楽大学の附属高校の同級生なんです。高校時代は一緒に演奏することはあまりなかったんですけど、大学生になって(音楽の)お仕事を頂けるようになって、そこで一緒に演奏する機会が増えていきました。その現場で(石垣)陽菜ちゃんとも会って、みんなでスタジオに入ってセッションしてみよう、っていう話になったんです。
──その日に意気投合した?
中村 そのときは普通に「楽しかったね」っていう感じだったんですけど、それからもちょくちょくセッションをするようになって、YouTubeにカバー動画を上げようよという話になったんです。それで作った動画が『Deemo』という音ゲーの楽曲カバーだったんですけど、それがけっこう再生回数が伸びて、海外からもコメントが付いたりして、じゃあライブもやってみようかっていう話になって。そこから定期的にライブをやるようになりました。
──Fabrhymeというグループ名の由来は?
中村 「fabulous(素晴らしい)」と「rhythm(リズム)」をくっつけた造語です。オリジナル性のある音楽がやりたいですし、インターネットで検索したときに必ず出てくるように、グループ名にもオリジナルの言葉を付けたかったんです。それでみんなでいろんな単語を持ち寄って、試行錯誤の結果、Fabrhymeになりました。
──サウンド面ではどんな理念を持っていますか?
山本 Fabrhymeとして大事にしているのは、メロディアスであることです。たとえば今回のアルバム『Showing!!』は、カラフルなサウンドを大事にしています。ポップなものがあったりジャジーなものがあったり、クラシカルだったり、R&Bやヒップホップの要素があったり。そうしたバラエティに富んだサウンドを、ひとつのストーリーの中で見せていくことを心がけました。そういった思いも込めてアルバム・ジャケットも、美術館でいろいろな絵を観ているようなイメージになってます。
石垣 ジャズやクラシックというと、取っつきにくいイメージがあるかもしれないですけど、私たちはその敷居を低くして、聴きやすいインスト・ミュージックを目指しています。自分たちの音楽は歌詞がないポップスだと思っていますね。
中村 ポップで、ストーリー性があって、情景が浮かぶ音楽というか、聴いてくれる人がいろいろな想像ができる音楽をやりたいですね。メロディのラインも複雑じゃなくて、キャッチーで、普段ポップスを聴いている人にも「この曲いいな」って思って口ずさんでもらえるような、そういう音楽をやっていきたい。
──アルバム収録曲は、1曲を除いてオリジナル曲ですけど、これはメンバーそれぞれが作曲して持ち寄る、という感じなのですか?
山本 今回のアルバム曲に関しては「ポップでキャッチーでメロディアス」というコンセプトをみんなで話し合ってから、それぞれが曲をまとめていきました。
石垣 すでにライブでやっていたレパートリーから、今回のアルバムのコンセプトに合うものと、新たに作ったものとで構成しています。あとはメンバーの個性というか、この人ならこう弾くだろうなっていうのも意識しながら書いていますね。有里さんが書いた「Overtake」「Agate」などは、私のベース・ラインが主体になってます。
中村 私、ベースがめっちゃ好きなんです。ライブに行くと、ずっとベースの人を見てます(笑)。だから自分が曲を作るときもベースがカッコいい曲にしたくて。陽菜ちゃんに過酷なハードルを課して(笑)、ソロとかも炸裂してもらってます。
山本 陽菜ちゃんはコード感をとても重視します。私はどちらかというとメロディ重視。有里ちゃんは「このキメだけは使いたい」とか「このベース・ラインをループさせたい」みたいなリフを考えたり。それぞれが重きを置く場所が少しずつ違うんですね。だから陽菜ちゃんや有里ちゃんが作る曲は私からは絶対出てこないし、そこが3人それぞれで曲を作るメリットかなって思います。
映像にもメチャクチャこだわってます
──唯一のカバー曲は、エリック・クラプトンの「チェンジ・ザ・ワールド」。
石垣 みんなが知っていて、メロディが美しい曲ということで選んで、私がアレンジさせていただきました。元がバラード調のステキな曲なんですけど、他の曲とのバランスも考えて、Fabrhymeらしさも出しつつ、元曲とは全然違う方向性のアレンジにしてみました。
──ポップで躍動感のあるアレンジですね。
石垣 そうですね。テンポとかも全然違いますし。
──インスト・バンドの魅力って、どういうところにあると思いますか?
中村 聴く人それぞれが自由なイメージと解釈で楽しめるのが、インストのいいところだと思います。あと、国籍をや言語を問わず、世界中の人にアピールできるのも魅力ですね。実際に私たちも、韓国のイベントに出させていただいたり。
石垣 あと、BGMにできるのもインストのいいところだと思います。
──ビデオ・クリップにもすごく力を入れてますね。
中村 そこはめちゃくちゃこだわってます。映像は、曲のイメージづくりにすごく重要だと考えているので、妥協はせずに、ちゃんとしたものをお届けしようと。例えば「Citrus」という曲のビデオにはダンサーの方にも出演していただいているんですけど、曲のイメージをダンサーさんにお伝えして、その場で即興で踊っていただきました。
“楽屋がうるさい”のが欠点?
──メンバー全員が女性。良いことも悪いこともありますよね。
山本 私たち、普通に仲がいいんですよ。それこそ恋バナを普通に話したりとか。だからライブの控え室がいつもすっごくうるさい。
石垣 あぁ、よく言われる(笑)。
山本 「楽屋の声が客席に漏れてるよ!」って。有里ちゃんを筆頭に、よく注意されますね…。
石垣 基本的には楽しいことばかりなんですけど、みんな機械に弱すぎるのが困るところ。動画配信のときも配線とかたいへんで、周りに機械に詳しいお兄ちゃんとかいてほしかったな、と。
──女性プレイヤーが3人集まると、音楽以外の部分を注目されたりもしますよね。そこにストレスは感じませんか?
山本 それが意外となくて、一度、ファンの人からの「質問箱」っていう企画をやったことがあるんですけど、音楽の質問ばかりで、ひとつだけ恋愛の質問が来た時に、みんなテンションが上がっちゃいました。
石垣 温かい眼で見守ってくださっているファンの方が多い気がします。
──バンド内で揉めたときの解決方法は?
中村 3人なので、多数決ですかね…。
石垣 でも、誰かが「やりたくない」って言ったら、みんなも「やらない」って感じになりますね。
山本 私の場合は、信頼している2人がそう言うなら、そうなのかなって思っていますね。
──メンバー3人で、ファッションに対する決め事などはあるのですか?
石垣 そういう質問を待ってました! ファッションは3人いつもバラバラです。
山本 私はかわいい系が好きなんで、ワンピースとかスカート担当で、髪もロング。クラシックの世界で育ってきたので、周りもクルクルの髪の人ばかりでした(笑)。陽菜ちゃんはボーイッシュで、髪型や色もよく変えるし、有里ちゃんはカッコいい系のきれいなお姉さんという感じですね。
石垣 2人はワンピースが多いんで、私はわりとラフ。髪型もちょうどいま3人の個性がよく出ているかなって思いますね。ボブとロングと金髪ショートで。
中村 ちなみに私はお酒が大好きだったりして、あまり女子力がない(笑)。3人とも、外見も中身もみんなバラバラですね。
石垣 ただしミュージックビデオやステージでは、衣装のテーマを毎回決めて、それぞれの個性は出しつつ、統一感があるように心がけていますね。
国立音楽大学ピアノ科首席卒業の山本有紗(p/写真左)、国立音楽大学大学院器楽専攻首席卒業の中村有里(sax/写真中央)、洗足学園音楽大学卒業の石垣陽菜(b/写真左)によるインストゥルメンタル・グループ。2015年にドラマーを加えた4人で結成され、YouTubeにアップした、人気音楽ゲーム『Deemo』のカバー動画で世界各地から注目を集める。その後ライブ活動も開始し、2018年4月にクラウド・ファンディングで制作資金を集めたファースト・アルバム『HELLO』、同年7月にライブDVD『Live Lab. Fabrhyme』をリリース。2019年6月より現在の3人編成となり、2020年4月に『Showing!!』でメジャー・デビュー。
【FabrhymeオフィシャルHP】
https://fabrhyme.com/
音楽ライター/プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。