『雨の日のジャズ(Songs for a Raney day)』(スー・レイニー)というアルバムがあるけれど、ウディ・アレンの新作『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』は、雨の日にジャズが聴きたくなるロマンチストに捧げたような物語だ。舞台はもちろん、ニューヨーク。郊外の大学に通う学生カップル、ギャッツビー(ティモシー・シャラメ)とアシュレー(エル・ファニング)が、ニューヨークに週末を過ごしにやってくる。
映画はビング・クロスビーのレイン・ソング「I Got Lucky in the Rain」で幕を開けるが、ジャズを愛するアレンが、雨のニューヨークのBGMに選んだのはエロル・ガーナー。「Misty」をはじめガーナーの名曲の数々が物語を彩り、その軽やかにスウィングするピアノのタッチは雨粒のようだ。思えば「Misty」を収録した『Erroll Garner Plays Misty』(1961年)のジャケットは、雨に濡れた窓越しに捉えた美女のポートレートだった。
『Erroll Garner Plays Misty』(1961年)
チャンの家で「ラウンジピアノが好きなんだ」と呟いて、戯れにピアノを弾き始めるギャッツビー。そこで囁くように歌うのが「Everything Happens To Me」だ。フランク・シナトラが1940年に初めて吹き込み、その後、様々なシンガーが歌ってきたスタンダード・ナンバーだが、ここではチェット・ベイカーが1958年にニューヨークで吹き込んだヴァージョン(『It Could Happen To You』に収録)を思わせる雰囲気だ。いつも何かをしようとするとトラブルが起こってうまくいかない。思うようにいかない人生をコミカルに歌ったこの失恋ソングは、ギャッツビーの心情を表すと同時に、波乱に満ちたアレンの人生のテーマソングのようにも思える。
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ、リーヴ・シュレイバー
原題:A Rainy Day in New York
日本語字幕:古田由紀子
提供:バップ、シネマライズ、ロングライド
配給:ロングライド
公式サイト:longride.jp/rdiny/