投稿日 : 2020.09.04
【ヒグチアイ インタビュー】「自分は天才じゃない」と気づいたとき道は開けた─ 12年の足跡を詰め込んだ最新作『樋口愛』の意味
取材・文/村尾泰郎
幼少期に気づいた“名曲のパターン”
平成元年生まれのシンガー・ソングライター、ヒグチアイ。音楽教師を母親に持つ彼女は、2歳の頃からピアノを学び、小学生のときに初めて曲を作ったという。どんな曲なんですか、と尋ねると、全然覚えていないんです、と彼女は微笑んだ。
「小学校の中庭にピアノが弾ける場所があって、友達に『あの曲、弾いてよ』とか言われて、いろいろ弾いているうちに『あ、またカノン・コード(注1)の曲だ…』って気がついて。それでカノン・コードで曲を作った気がします」
注1:ドイツの作曲者、ヨハン・パッヘルベル(1653-1706)による室内楽曲「パッヘルベルのカノン」。この曲のメロディの流れを、俗に「カノン進行」や「カノンコード」などと呼ぶ。ポップ・ミュージックのヒット曲にも、カノン進行の楽曲が多数存在する。
小学生でヒット曲の秘密に気づいたというから驚きだ。当時は音楽教室でピアノを学び、家に帰ると母親から「練習をしなさい」と言われるピアノ漬けの日々。そこでピアニストを目指さず、歌を唄い始めたのはどうしてなのだろう。
「言われてみればそうですね。歌は別にうまくなかったんですよ。でも、歌うのは好きだった。それはピアノみたいに期待されていなかったからかもしれないですね。どんな風に歌っても、ほっといてくれましたから(笑)」
二十代前半の過信と甘え
そして、高校3年の頃からオリジナル曲を作って歌うようになっていた彼女は、地元の長野から東京に出て大学でジャズを学んだ。同時に本格的に音楽活動をスタートさせるが、上京した若者らしい気負いもあった。
「東京で歌い始めた時に、本当はハンドマイクで歌いたいけど一緒にやってくれる人がいないからギターを弾いて歌ってる、という女の子に結構会ったんです。そんな消去法でやるのはイヤだなって思って。だから私はピアノを弾きながら歌うことに、すごくこだわっていました」
2020年8月20日、ライブ配信イベント「MUSIC GATE」に出演したヒグチアイ。同イベントは8月19日、20日の2日間で実施され計6組が出演した。次回は9月20日(日)、21日(月・祝)、22日(火・祝)に開催予定となっており、出演者ほか聴取方法はMUSIC GATE サイトにて近日発表。
プライドが高く、人と喋るのが苦手で、「良い音楽をやっていれば人が声をかけてくれる」と信じていたヒグチアイ。実際、音楽事務所から声がかかったが「そんな状況に甘えていたんですよ」と彼女は振り返る。
「その時期に書いた曲って、今は聴いてられない。結局、20代前半にいろいろとうまくいかなくなって、自分は天才じゃない、人と喋る時は音楽じゃなく、言葉で喋らないとダメだと気づきました」
そして、彼女の音楽に対する向き合い方は大きく変わった。
「10代の頃、シンガー・ソングライターはコール&レスポンスするものだと思っていたんです。でも、自分の言葉で歌詞を書くようになってからは、自分の内面の暗いところも題材にするようになりました。曲はまず、書きたいことがあって書く。100の歌詞があったらメロディーはひとつくらい」
そんな赤裸々な歌を支えるのが、ダイナミックなピアノの演奏だ。「歌声よりも、ピアノは自分の中にある」と彼女は言うが、ピアノは彼女の魂の一部だ。
重要な曲「まっすぐ」に恩返しの新録
また、彼女は様々なメンツでバンド編成のライブを行なっていて、表情豊かなバンド・サウンドも魅力的。新曲「八月」では、曲中で拍を変えるなどポスト・ロック的な要素を取り入れることで「自分のぐちゃぐちゃした感情を表現した」という。
その「八月」が収録された新作アルバム『樋口愛』は、彼女にとって初めてのベスト・アルバムだ。
「東京に来てから12年間の記録です。人気曲だけじゃなく、もう一回聴いてもらいたい曲も入れました。例えば〈まっすぐ〉は、さっきお話しした音楽に対する向き合い方が変わった時に書いた曲。この曲ができなかったら音楽が続けられなかったくらい重要な曲で、恩返しのつもりで新録したんです」
「まっすぐ」の歌詞では、人生には様々な道があることが綴られている。その道のどれもが間違いではなく、「そのおかげで 君に出会えた」と歌は締めくくられるが、「君」とはヒグチが探し求めていた「歌」なのかもしれない。これから彼女がどんな道を行くのか、きっと歌が教えてくれるはずだ。
平成元年生まれ。シンガーソングライター。生まれは香川、育ちは長野、大学進学のため上京し、東京在住。2歳のころからクラシックピアノを習い、その後ヴァイオリン・合唱・声楽・ドラム・ギターなどを経験、様々な音楽に触れる。18歳より鍵盤弾き語りをメインとして活動を開始。2016年、1st ALBUM『百六十度』でメジャーデビュー。「FUJI ROCK FESTIVAL」「RISING SUN ROCK FESTIVAL」など大型フェスへの出演も果たす。公式サイト
ヒグチアイ『樋口愛』
自身初のベストアルバム。2014年のインディーズデビュー作『三十万人』から現在に至るまで、キャリアの6年間を凝縮。リレコーディングされたLIVEでの定番楽曲や、今を閉じ込めた新曲2曲を含む、厳選された全13曲を収録。
◆配信サイト
https://lnk.to/higuchiai_C857
◆アルバム特設ページ
https://www.higuchiai.com/bestalbum
HIGUCHIAI band one-man “BEST” tour 本人 [振替公演]
2020/9/22(火祝) 東京 Veats Shibuya
open 19:00 / start 20:00
同時生配信決定!!
88名限定指定席▶先行受付中 https://eplus.jp/higuchiai922/
配信視聴チケット▶9/9発売 https://eplus.jp/higuchiai922st/
ライブ配信イベント
『MUSIC GATE』スタート!!
2020年8月にスタートした、ライブ配信イベント「MUSIC GATE」。さまざまなジャンルの “注目ミュージシャン”たちがライブパフォーマンスを生配信(ライブ後1週間はアーカイブ動画の聴取も可能)。さらにアーティストのインタビュートークなども披露される。
先日、2回目の開催となった「MUSIC GATE vol.2」(8月19日、20日に開催)が大盛況で幕を閉じ、次回「MUSIC GATE vol.3」も開催決定。日程は、9月20日(日)、21日(月・祝)、22日(火・祝)実施予定。詳細は以下のサイトで近日発表!
MUSIC GATE
https://live-gate.jp/