投稿日 : 2020.10.15 更新日 : 2022.01.05
【ましのみ インタビュー】ドラマ主題歌を携え8ヶ月ぶりに ─ コロナ禍の配信ライブで感じた「歌えること」のありがたみ
文/金子厚武 撮影/藤川一輝、平野 明
2016年にヤマハが開催するコンテスト「Music Revolution 第10回東日本ファイナル」でグランプリを獲得し、2018年にメジャーデビューを果たしたシンガー・ソングライターのましのみ。デビュー当初はキラキラしたエレクトロサウンドが特徴だったが、昨年の大学卒業を経て、最新作『つらなってODORIVA』では温かみのある音楽性へと徐々にシフトしている。この一年の変化について、話を聞いた。
今まさに、人生の「踊り場」にいる感覚
──ましのみさんはもともと弾き語りで活動されていたそうですが、メジャー・デビュー以降の楽曲はエレクトロな要素が強かったり、ラップをしたり、曲調の幅が広いですよね。どんなアーティスト像を目指しているのでしょうか?
デビュー当時は「歌いたい、作詞作曲をしたい」っていうのが一番で、ビジュアルとかサウンド面に関しては、客観的視点を重視してそれぞれの専門の人と分業で最高のものを作りたいという考え方だったんです。もともとディズニーが好きだったこともあって、エンタテイメントがしたくて。音源も聴いていて飽きない“とにかく刺激的なもの”を出したかったし、ライブも「ショー」として見せたいとか、かっちりとした考え方をしていました。ただ、実際にやってみるとライブではもっと力を抜いてみんなと一緒に同じ空間を楽しみたいと思うようになったし、音楽性に関しても、意外と私は細部までこだわりが強いんだなとわかってきて。
──徐々に考えが変わってきたと。
でも、私全然音楽を聴いてこなかったので、周りと上手くコミュニケーションが取れなかったんです。やりたいことを上手に伝えられなかったというか。これはコンプレックスでもあるんですけど、私明確な「ルーツ」がないんです。「小さい頃にこの音楽に感銘を受けて、それを掘り下げての今」とかじゃないんですよね。小さい頃からとにかく歌が好きで、「歌手になりたい」っていう衝動と、「人を楽しませたい」っていう想いだけを原動力にやってきたけど、でもここ数年はずっと、もっと音楽的な衝動が湧いていて。それをもっと整理してアウトプットできるようになるためにも、“私の思うかっこいい”をきちんと突き詰めたくて……。この間「君は今が思春期みたいな感じだね」って言われて、なるほどな〜と思いました(笑)。
──今年の3月に発表したEP『つらなってODORIVA』は、作品の温度感が変わった印象を受けます。歌のキーも少し下がって、温もりのある仕上がりというか。
“ピカピカ”ではないですよね。エレクトロの要素は今も大好きですけど、生音だから出せる揺らぎやぬくもりはやっぱり昔から大好きで。“隙があって心地よい”かつ”耳心地が良く面白い“音像を自らこだわった塩梅で生み出したいと思いました。だからDTMの技術が追いつく限り、ラフアレンジまで自分で手掛けるようにもなって。ドラマの主題歌になった「7」を作ったときは、監督さんともお話をして、温度感を意識しました。アルバムも生っぽい要素を取り入れて、優しく、聴く人の逃げ場になれるような一枚にしたかったんです。
──sasakure.UKやパソコン音楽クラブが参加していて、音楽的な探求の第一歩にもなっていますよね。
そうですね。より積極的に自分がサウンドと関わりたいと思った時に、個人的にも大好きな音楽性の方と深くコミュニケーションをとって、一緒に音作りができるのは本当に幸せで、凄く刺激的でした。メジャー・デビューをして、年上のプロフェッショナルな方に囲まれて、初めは私が無知すぎて正直よくわかっていない部分も多かったけど、作品を重ねることでやっと感覚がつかめてきたというか。あとこれまでは音楽に詳しくて、いろいろ語る人って、理屈で聴いてるイメージがあって。私はもっと感情で聴きたいから「学びたくない」っていうのが強かったんですね。でも、sasakure.UKさんとかって、知識と感性の両方があるからこその曲になってて、超かっこいいなって思って。なので、今は勉強の真っ最中です。
──最近はどんな音楽を聴いているんですか?
結構ブラック・ミュージック全般が好きなんだなって気づいたんです。今までなんとなく好きだった音楽も、整理してみると見えてくるものが多くて。でもそれをインプットした気分のまま好き勝手作っちゃうと、私の場合ほんっとうに収集つかない幅広さになっちゃう。なので、「私が次に本当にやりたいのはこれだ」って、自分の中で完全に腑に落ちてから、次のソロ作品を出したいと思っています。焦るのはやめにして、ちゃんと自分と向き合う期間にしたいなって。
──その意味では、ましのみさんにとってはコロナの自粛期間は大切な時間になった?
そう思います。絶対必要だったというか、いつかは来たと思うんですよ。それがたまたま……世の中も一回全部止まって、自分自身、音楽的にも、人間的にも、これからの人生的にも、見つめ直すタイミングになったなって。これまでは肩肘張り過ぎていて、「こうしなきゃ」っていうのがずっとあったけど、やっと力を抜いて考えられるようになりました。
──今まさに、人生の「踊り場」にいる感覚でしょうか。
ホントにそうです。「予言だったの?」って、ちょっと怖くなっちゃうくらい(笑)。
──ブラック・ミュージック全般がお好きとのことですが、いま現在特にハマってる音楽はありますか?
例えばもともとずっとファンクが好きで、ピアノでは出せないギターのノリの中で歌ったらどうなるかを試したくて、最近は友達とスタジオに入っていろいろトライしてみたり。あと、ここのところ作ってるのはヒップホップに寄ってきていて、力を抜いて歌いたいなってモードと合ってるんですよね。なので、このままブレなければそういう感じになると思うんですけど……でも「こっちかも?」「……いやこっちもいいな…」の繰り返しです(笑)。
──おそらくひとつのジャンルには落ち着かない気がします(笑)。
たぶん、結局はいろいろ混ざるんですけど、「ここだけは」っていう自分の中の確固たる軸が見つかれば、次のソロ作品をリリースしようってなると思います。一方で人や作品とのコラボは積極的にしていきたいんですよね。誰かや何かと交わりながら格好いいものを作るのがすごく楽しい時期。なので、意外と今が一番楽しんで音楽やってるかもしれない。やってきたことが確実にここに繋がっていることがわかるし、それを踏まえた上での力を抜いた楽しみ方をやっと見つけたというか、肌に合った活動の仕方を見出し始めたというか。多分知らなかったことが多いんですよね(笑)。
──ライブに対する想いも聞かせてください。今回の「MUSIC GATE」出演がひさびさのステージだそうですね。
8か月ぶりだったので、オファーいただいた時は正直めちゃめちゃビビって「ステージ怖い」と思いました(笑)。でも、日にちが近づくにつれて、歌えることのありがたみをどんどん感じてきて。目の前に人がいないのは初めてですけど、今後世の中も自分の人生もどう転がっていくかわからない中で、めちゃめちゃ大切にするべき40分間だなって。ちょっと宗教みたいな、神聖な気持ちでここに来ました(笑)。ただ、肩ひじ張った感じではなくて、純粋に音楽を楽しみたい気持ちが一番なので、それが届いたら幸せですね。
取材・文/金子厚武
撮影/藤川一輝 平野 明
慶應義塾大学を経て、キーボード弾き語りのスタイルで活動するシンガー・ソングライター。2016年3月19日、ヤマハグループが開催する日本最大規模の音楽コンテスト「Music Revolution 第10回 東日本ファイナル」で約3,000組の中からグランプリを獲得。2018年にはメジャー・デビュー作『ぺっとぼとリテラシー』をリリース。2020年2月に発表した「7」は、TVドラマ『死にたい夜にかぎって』のオープニング主題歌となり、ヒットを記録した。
オフィシャルTwitter
https://twitter.com/mashinomi55
ライブ配信イベント『MUSIC GATE』
2020年8月にスタートした、ライブ配信イベント「MUSIC GATE」。さまざまなジャンルの “注目ミュージシャン”たちがライブパフォーマンスを生配信(ライブ後1週間はアーカイブ動画の聴取も可能)。さらにアーティストのインタビュートークなども披露される。次回は10月の開催を予定。出演者などはオフィシャルサイトでチェック。
https://live-gate.jp/
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