投稿日 : 2020.10.23 更新日 : 2020.11.24

【東京・北千住/Birdland】初心者でも気兼ねなく過ごせる、ジャズバーの名店

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

北千住、Birdland、バードランドの写真1
いつか常連になりたいお店 #51

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、名だたるジャズメンたちが演奏を繰り広げてきた北千住(東京都足立区)のジャズバー『Birdland(バードランド)』を訪問。音楽的にも思考的にも柔軟な店主だけに、ジャズに詳しくなくても気軽にのんびり過ごせる居心地のいいお店でした。

「CAFE & FLOWERS」と書かれている理由

JR「北千住駅」西口から、千代田線/日比谷線「北千住駅」出口1へと抜ける小道には雑多な飲食店がひしめいている。そんな「ときわ通り(通称:飲み屋横丁)」と呼ばれるストリートから、一本路地に入った場所にある『バードランド』。緑がおおうレンガの外観とテラス席はイタリアン・レストランのようで、ここがジャズバーであるとは思えない。

「1999年にこの場所に移ってきたときに、内装からすべて作ったんです。妻がフラワーアレンジメントを習いに英国へ行った際、ロンドンの郊外にはいい感じのお店があるよと写真を撮ってきてくれて。それを見たときに素敵だなと思ったんですよ」。そう語るのは店主の森川久生さんだ。

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『バードランド』の扉には「CAFE & FLOWERS」の文字がある。というのも、1990年に金町(東京都葛飾区)に最初のお店『花紀行』を出したときは、店内の手前が花屋で奥がカフェ&バーというスタイルだったのだ。

「当時、花屋との融合店は珍しいこともあってウケました。オープン時はバブル景気だったこともあって花も飛ぶように売れて。ソフトスーツを着たような若者が多く集まりました。『東京ラブストーリー』がちょうどドラマ化された時期ですから(笑)。当時の常連さんもまだ来てくれています」

ジャズ好きからも一目置かれる『バードランド』だが、そのスタートはおしゃれでトレンディなお店だったのだ。その後、バブル崩壊が本格化する直前にお店を閉め、より人通りの多い北千住駅に移転。カウンターだけの小さなバーを経て、1996年に駅前にある2階建の店舗で『バードランド』をオープンする。その後、1999年に現在の場所へと移転、今年の11月にジャズバー歴30周年を迎える。ちなみに、現在の場所に移転した当初も、お祝い用や結婚式のブーケなどは副業的におこなっていた。

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名だたるジャズメンたちがプレイする店

「定期的にライブをスタートしたのは、『バードランド』の名前で駅前にオープンしてからです。今はコロナの関係で日曜に月2回、あとは第1日曜に若手や素人向けのセッションデイをやっています」

3年前までは週3回のペースでライブを入れていたほどで、ジャズメンたちにとってはよく知られた同店。中牟礼貞則(g)、峰厚介(sax)、小山彰太(ds)、渋谷毅(pf,org)、林栄一(as)といったベテラン勢から、類家心平(tp)、江藤良人(ds)、清水絵理子(pf)、中村恵介(tp)、西口明宏(sax)といった中堅、さらには今をときめく井上銘(g)、石若駿(ds)なども定期的に出演している。

「ジャズは生演奏が醍醐味」と語る森川さんも、かつてはベーシストとしてキャバレーやライブハウスに出演した経験をもつ。

「父親が音楽好きで家にはSP盤が2000枚くらいありました。和風オペラやクラシックが多かったですけどね。それを朝からずっとかけているような家でした。ジャズは5歳上の兄貴の影響。自分は小学校くらいでエレキブームがあってベンチャーズを聴いたり、そのうちにビートルズが入ってきたりしました。高校ではロックバンドでドラムを叩いていましたが、それと同時に兄貴からジャズを聴かされて」

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あるときジャズがストーンと心に落ちてきた

当初はお兄さんの影響のもと無理やりジャズを聴いていたという。同時にジャズ喫茶にも足繁く通うようになった。

「不思議なことに、16~17歳のあるときストーンと心に落ちてきたんですよね。気づいたら、ジャズがすごく好きな音楽になっていたんです」

きっかけはマイルス・デイビスやジョン・コルトレーンだったとか。そこからフリージャズなど前衛に行く人も多かった時代だが、森川さんはチャーリー・パーカーに戻り、バップやハードバップへとジャズの歴史を追うようにしながら愛聴していった。その後、大学でジャズ研に入部。以来、ベーシストとしてキャバレーなどで演奏を始めることとなる。

「ジャンル関係なく何でも聴きますが、自分でやるならジャズがいいなって。大学4年生の頃は本気でプロになろうと思っていました。でも、実力もなく勢いでやっていたから、なかなか難しくて。最終的にはお酒の輸入商社に入って10年間勤めました」

その後、佐川急便で働きながらお金を貯め、バブル華やかな1990年に最初のお店をオープンすることになる。ジャズバーをやりたいと思うきっかけは、大学時代に行きつけだった都立大学『カノン』のマスターに憧れていたからだとか。

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JBLのスピーカーがいい音を出すまで7~8年かかった

『バードランド』はライブ演奏で知られるが、レコードやCDを流す通常営業時にも定評がある。メインアンプは管球式のDAINAKO MARK-Ⅲ、プリアンプはLUXMAN CL35 MK-Ⅲ、それをJBL 4312 MK-Ⅱのスピーカーで鳴らしている。

「昔、上野に『イトウ』というジャズ喫茶があって、その息子さんがこのシステムだったんですよ。低音と中高音がきれいで、柔らかくて太い音が大好きだったんです。でも、JBLは最初の3年くらい全然鳴らなくて、7~8年後にやっといい感じになって、今がベストな状態。ハイハットやシンバルなどのシャリシャリ音まで鳴るようになってきましたから」

お客さんの雰囲気や会話の内容から、感覚で選盤しているという。また、「こんなのジャズじゃないという人こそ、ジャズじゃない」という感性の持ち主だけに、日本人プレイヤーを中心に新譜もよくかかる。

「エルヴィン・ジョーンズが大好きだから、エルヴィンが入っているアルバムはよくかかるかな。ベーシストだとポール・チェンバース、ピアノだとエヴァンス。あとはエリック・ドルフィーあたりが無意識によくかけがちかもしれない」

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自家製の燻製とシングルモルト・スコッチで乾杯

お酒はシングルモルト・スコッチが豊富に揃い、アイラモルトやスペイサイドと呼ばれるエリアの醸造所のものがお店の推しだとか。食事はつまみに最適なものでアラカルトで揃うが、最近は自作の燻製が人気だ。また、現在はランチ営業をおこなっており、人気メニューである「ジャズ喫茶の頑固親父の牛すじカレー(ポテトサラダ付)」を食すことができる。

「最近は、下町観光的に北千住が人気になっていて、土日のお客さんが増えています。皆さんレストランだと思って入ってきて、あれっ? という顔をされますね(笑)」

遠距離の旅行が控えられているなか、週末の北千住を散歩がてら楽しむ人が増えている。そんなとき、音楽好きがふらり訪れる場所として『バードランド』は最適。近隣の方はもちろん、誰もが一度は足を運んでおきたい名店だ。

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・店名 Birdland(バードランド)
・住所 東京都足立区千住1-31-8
・営業時間 12:00~15:00(ランチ)、15:00~24:00(カフェ/バー)
※コロナ禍による特別営業のため今後変更の可能性あり
※毎月第1日曜13:00~16:00(ジャムセッション)、不定期日曜(ジャズライブ)
・定休日 無休
・HP https://www.jazz.co.jp/LiveSpot/birdland-senjyu.html
・Facebook https://m.facebook.com/Birdland-135710519830047/
・Twitter https://twitter.com/birdland1990

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