ブルーズ、カントリー、ロックンロールなどのルーツ音楽を現代的なポップ・ミュージックに結びつける音楽性、そして、卓越したギタープレイとボーカルによって高い評価を獲得しているシンガーソングライター、Rei。配信シングル「What Do You Want?」、「Lonely Dance Club」 (w/SOIL&“PIMP”SESSIONS)などを含むニュー・アルバム『HONEY』は、歌詞とサウンドの両面において、彼女自身の感情や個性がダイレクトに刻み込まれた作品となった。
人のマネや焼き直しはしたくない
──まずはReiさんの音楽的なルーツを教えてもらえますか?
4歳からクラシック・ギターをはじめて、5歳のときにブルーズに出会いました。その後、当時住んでいたニューヨークで小学校のビッグバンドに参加して、初めてジャズ、ブルーズを演奏しました。
──そのバンドには、いろいろな人種の子どもが参加していたんですか?
はい。ニューヨークは多国籍な街なので、白人、黒人、アジア系の子どもも少なからずいて。そのバンドで演奏したことは、自分のアイデンティティを形作る経験になっています。今回のアルバム『HONEY』に収録している「カテゴライジング・ミー」は、「私をカテゴライズしないで」という曲なんです。肌の色や性別、職種、育ってきた環境で区別、分類されることがありますが、すごく違和感を覚えるんですよね。みんな違うのが当たり前で、それこそが人間の美しさなので。そのことを実感した原体験が、ニューヨークのビッグバンドだったんだと思います。
──Reiさんの音楽も多様性に溢れていて。いろいろなジャンルを取り込みたいという意識もありますか?
クラシック音楽、60年代のロック、戦前のブルーズなどいろいろな音楽のインフルエンスは滲み出ていると思います。そのうえで、自分の名前が付くような新しいジャンルを生み出したいという気持ちがあって。分け隔てなく、カッコいいと感じる音楽をミクスチャーしながら作っています。特にReiというアーティストとして活動をはじめてからは、その意識が強くなっていますね。他の人のマネはしたくないし、古い音楽に対する絶大なリスペクトは持っていますが、焼き直しをしたいわけではないので。
──ルーツ・ミュージックを背景に、確固たるオリジナリティを体現しているアーティストからも刺激を受けている?
すごくありますね、それは。特にザ・ビートルズとベックは革新的な存在だと思っていて。ザ・ビートルズはエルヴィス・プレスリーをはじめ多くのアーティストに影響を受けながら、新しく聴こえる音楽を作り出した。ベックもブルーズが大好きですけど、届けられる音楽はいつも新鮮で。私もそういうアーティストを目指しています。
空間と温度にこだわった最新作
──音楽シーンのトレンドとの距離感については?
常にアンテナを張っています。新譜もチェックしているし、素敵だなと思えば、「どこがいいんだろう?」と分析もして。ただ、トレンドを気にし過ぎたり、リスナーをマスでイメージしすぎると、自分自身がブレてしまうので。作っているときは、「楽しい」「気持ちいい」というところを優先しています。曲に洋服を着せる段階になって、トレンドとのバランスを考えるという感じですね。
──ニュー・アルバム『HONEY』も、Reiさん本来のオリジナリティと音楽的なトレンドが絶妙に絡み合っていると思いました。
『HONEY』の音作りについては、意識していたことが2つあって。まずは”空間”の作り方。音と音の距離感、楽器の数を含めて、空間をどう感じさせるか、ということですね。歌の録り方も、近くで歌ってるような感じにするのか、遠くで歌っている雰囲気にするのかを考えていました。
もうひとつは、”温度”。夕暮れの冷えた風だったり、ストーブで部屋全体が温かくなっている感じだったり、曲のイメージに合った温度を意識しながら音を作って。
曲が欲している空間と温度を考えることで、自ずとサウンドが導かれるんです。
──楽曲を作ってる段階から、空間や温度をイメージしているんですか?
ありますね。その感覚をスタッフとシェアしながら制作を進めました。いままではリファレンス(参考にする楽曲)を示して説明することが多かったんですけど、ずっと一緒に制作しているエンジニア兼アレンジャーの方が「何かを参考にしなくても、Reiちゃんが自分の心を見つめて、もっと感覚的に表現してもいい時期に差し掛かってるんじゃない?」と言ってくれて。その言葉を聞いて、「そうか!」と思ったんです。自然に湧き出てる感覚で作っていいんじゃないかなって。『HONEY』というタイトルはローマ字読みしたら、“本音”とも読めるし、今まで隠れていた部分も表現されていると思います。
──そのスタンスは、アルバム収録曲の歌詞にも表われてますね。
そうですね。自分の弱さだったり、傷ついた姿なども赤裸々に綴っているので。辿り着きたい理想の自分とはまだまだ距離があるし、そのギャップにがっかりすることもあるけど、「現実と理想の違いに苦しんでいるのは私だけではない」という気づきもあって。きっと共鳴してくれるリスナーもいると思うんですよね。
──孤独や悲しみを含めて、パーソナルな感情を歌にする作業はどうでした?
辛いと感じることの方が多かったですね、正直。自分の陰の部分は、親しい人にも言えないところでもあるし、私は本来、とてもシャイな人間なので……。でも、前作のミニアルバム『SEVEN』(2019年)を出した直後から、「次はネイキッドなアルバムにしよう」と決めていたんです。
たとえばジェフ・バックリィの『グレイス』、ジョニ・ミッチェルの『ブルー』、アデルの『25』、レディ・ガガの『ジョアン』のイメージもありました。曲調ではなく、精神性ということですが。あとは、今年、みんながそれぞれの場所で感じていたであろう孤独を表現したいという思いもありました。いつだって“今”のムードが音楽に落とし込まれますけど、今年も例外ではなかったということだと思います。
自尊心が低いから書ける歌詞がある
──自分自身をダイレクトに表現することで、さらにオリジナリティを確立できたという手ごたえもあるのでは?
“いつも以上に”ということはないです。私は飽きっぽいし、そのときにいちばんやりたいことをやるだけなので。ただ、皮膚や骨を取り換えることができないように、逃れられないアイデンティティがありますからね。体のなかにフィックスされたものがあるので、それをパワフルに表現すれば、自然と個性につながるんじゃないかなと。それは音楽に限ったことではないですよね。たとえば「私には意見がないし、いつも周りに流されてしまう」という女子高生はたくさんいると思うけど、根拠なんかなくても、自分に自信を持っていいと思うんです。
──アルバムに入ってる「オリジナルズ」「エラー404」は、まさにそのことを歌った曲ですね。自分は自分であっていい、自信を持っていい、という。
はい。ただ、これは声を大にして言いたいんですけど、そういう歌を書くのは、私がものすごく自尊心が低い人間だからなんです。いまも自分を好きになるまでの旅をしている途中だし、「いつか自分を愛せるように、前向きにがんばれたらいいね」ということを伝えたいなって。私自身も、周りの人達の言葉に助けられてるんですよ。素敵だなと思ってる人に「Reiは素敵だよ」と認めてもらえることが何よりの喜びだし、私の歌を聴いてくれる人にも、「必ず誰かがあなたを認めている、愛している」と言いたいので。
──なるほど。ちなみに、ステージで演奏するときはどうなんですか? 自尊心を持っていないと、堂々とパフォーマンスできない気もしますが……。
いや、それは関係ないと思いますね。お祭りの射的と同じというか(笑)、自信があってもなくても「一生懸命、撃つよ!」という感じなので。音楽を生業としている以上、1番になりたいという気持ちは不可欠ですからね。
──アルバム『HONEY』リリース後の活動については、どんなビジョンを描いていますか?
ライブに関しては、これからも模索していくんだと思います。1日2回公演なのか、配信とのハイブリッドなのか、やり方はいろいろあるはずなので。ただ、ライブは矢印が双方向じゃないと成り立たないですから。私は作品作りよりもパフォーマンスするほうが先だったし、やっぱりお客さんと対面して演奏したいという気持ちは強いです。
卓越したギタープレイとボーカルをもつ、シンガー・ソングライター/ギタリスト。幼少期をニューヨークで過ごし、4歳よりクラシック・ギターをはじめ、ジャンルを超えた独自の音楽を作り始める。2015年2月、長岡亮介(ペトロールズ)を共同プロデュースに迎え、1st ミニ・アルバム『BLU』をリリース。FUJI ROCK FESTIVALをはじめとする国内外の大型フェスに出演し、話題を集めた。2017年秋、日本人ミュージシャンでは初となる「TED NYC」でライブ・パフォーマンスをおこなった。
https://guitarei.com/
リリース情報
Rei『HONEY』
■発売日:2020年11月25日
■価格:¥2,800 +税(通常盤)UCCJ-2185
¥3,600+税(初回限定盤/SHM-CD+DVD)UCCJ-9227
https://www.universal-music.co.jp/rei/honey/
https://jazz.lnk.to/Rei_HONEY
ツアー情報
2021年1月30日(土)名古屋 THE BOTTOME LINE
2021年2月7日(日)大阪 BIGCAT
Rei Release Tour 2021 “SOUNDS of HONEY” -the Band Set-
2021年2月14日(日)東京 EX THEATER ROPPONGI
※東京公演のみオンライン有料配信あり。詳細は後日発表。
https://eplus.jp/reinyrecords2021/