投稿日 : 2020.12.19
【高井息吹 インタビュー】稀代のアーティストが語った独自の音楽観と最新EP『kaléidoscope』
写真/岡野慶
MENU
色彩豊かなピアノの調べと、儚さと強さを持ち合わせた天性の歌声で、聴くものを幻想的な世界へと引き込む。高井息吹(たかいいぶき)とは、そんなシンガーソングライターだ。
2015年に「Eve」名義でのアルバム『yoruwokoeru』でデビュー以降、数々のCMや映画に楽曲を提供し、2017年には2ndアルバム『世界の秘密』を発表。そんな彼女の最新EP『kaléidoscope(カレイドスコープ)』が2020年11月にリリースされた。
同作には、彼女のバンドセット「高井息吹と眠る星座」のメンバーとしても活動するKing Gnuのベース、新井和輝(あらいかずき)と気鋭のギタリスト/シンガーの君島大空(きみしまおおぞら)が共同制作・プロデュースで参加している。同作の話とともに、彼女が辿ってきた音楽的ルーツや独特の音楽観について、本人から話を伺った。
得意じゃなくても好きなのが歌だった
ーーまず息吹さんの音楽的ルーツから聞かせてください。
クラシックピアノを5歳から始めたんですが、正直、初めてピアノを触った時のことを覚えてなくて。母親や祖父がオルガンをやってて、楽器は身近にあったので、気づいたら弾いてたという感じです。
ーー幼い時から自分でアレンジもしていたとか?
聴いたメロディに伴奏をつけるのが割と得意だったんです。練習するより好きな曲を弾く方が全然好きで、楽しくて音が跳ねちゃったりすると「そんな弾き方してたら、ちゃんと弾けなくなるわよ!」って親に怒られてました(笑)。
「楽譜通りに」とか「決められたようにやる」ってことへの反発心もあって、中学生くらいからロックとか聴きはじめましたね。
ーークラシックとは真逆ですね。
ロックには憧れもあったんです。高校生の時には(上手くないけど)ギターも始めて、バンドではニルヴァーナとかやってましたね。私、子供の頃から大人しいと思われがちで、自分のイメージを壊したかったというか。「そんなに大人しくないんだけど!」みたいな(笑)。
ーーまさにロックですね!「ジャズからも刺激を受けた」と伺ってます。
はい、中学高校くらいから即興で弾くのが楽しくなったんです。当時から、セブンスとかナインスとか、ジャズ感のあるコードの響きがすごく好きで。
でも、ジャズをあんまりよく分かってなかったので、大学では他の学科の人たちとセッションができるジャズ研究会に入ったんです。私、理論から学ぶことが苦手で、実際に弾いて感覚を掴めないとモノにできないタイプで。自分なりにインプットして、自分の音楽に繋げているという感じで、まだまだ本当に勉強不足なのですが…。
ビル・エヴァンスみたいなピアノの和声感がすごく好きなので、自分が好きな響きになるボイシングの研究も進めたいなと思っているところです。
ーーお兄さんもジャズのトロンボーン奏者だとか?
はい。兄からもジャズの良さを教えてもらいましたね。兄のライブを観に行った時、身体もめちゃくちゃ乗って、ジャズの熱い感じがすごく伝わって来たんです!
ーー色んな影響を受けてるんですね。歌を歌い始めたのはいつ頃から?
中学生の時、家でよくカラオケごっこをしてて、一人で何時間も歌ってたんです。学校行く前も放課後も歌ってたし、すごい近所迷惑だったと思うんですけど(笑)。それまで自分の特技ってピアノしかなくて「得意じゃなくても好き」って思えるものが歌だったんです。
作曲はワンピースからでも着想
ーー大学は国立音楽大学ですよね。ここではクラシックやジャズの勉強を?
大学では、幼児教育学科だったんです。厳しい先生のレッスンを受けていた時に、大学では「ガツっとクラシックを学ぶより、自分の音楽を広げたい」と思って。
自分はずっと、どこか子どものままな気がしてて、子どもの見る世界や子どもが感じるものにすごく興味があったんです。それをより深く知れたら自分の感性も深まるような気がして。
この学科では美術のゼミがあったり、課題でオリジナルの絵本を作ったりしたんですが、それが自分の色彩感を改めて見つめ直すきっかけになったりもしました。
ーー独特の世界観はそういうところからも生まれてるんですね。曲を作る際はどんなことを意識していますか?
イメージはすごく大事にしてます。色とか風景とか「パッ」て浮かぶと、それに沿って曲がどんどん作れるんです。イメージと音楽を繋げてるっていうのかな。
例えば、お気に入りの緑のワンピースを着てたら「森っぽい曲が書けそうだな」と感化されて「パー」っと書けたのが 1st アルバムに入ってる「ゆらゆら」って曲なんです。イントロは、深い森の中で木々がざわめいてるイメージから来ていて、そこから曲や詩が広がっていったのを覚えています。
ーーイメージ先行で作曲するんですね?
色んな作り方があって、何かに感化されてイメージが先行する時もあれば、歌詞先行の時もあります。メロディと歌詞とイメージが同時に出てくることもあって、それが自分的には一番しっくり来ますね。
EPの曲「幻のように」とかは、割とそういう感じで書けて「通り雨を待ってる(※曲中の歌詞)」というフレーズも「フッ」っと浮かんできたんです。
ライブでは音楽を超えて「魂ひとつになれる」
ーー息吹さんは歌い方もすごく特徴的です。歌う際に意識していることなどありますか?
私は自然に歌っているつもりなんですけどね。身体の構造的に、滑舌が悪いタイプだと思うんですよ…(笑)。録音を聴くと、発音も喋り方も歌い方も、自分が思ってるのと違くて。
音源では自分の声の良いところを潰さないように歌ってます。ライブは少し違って、自分の中で全部外れちゃう瞬間があるんですよね。制御が効かなくて「わ~」って溢れちゃうみたいな。
ーー息吹さんのライブは、音楽と一体になったかのようなパフォーマンスが印象的です。
ライブは私にとって本当に特別な場所なんです。ライブの時って、ときどき音楽を超えちゃう感じがあって。壁とか天井とか無くなる感じがするんですよね。
自分の性別も年齢も、何も関係なくなって。あの感覚はすごく不思議なんです。余計なものが何も要らなくなる瞬間で、魂ひとつになれるような感覚になって。「今歌を歌っているこの場所も、“宇宙の一部”なんだな」っていう感覚になる。
ーー11/20に配信されたヌーミレパーク(※)での無観客ライブは、まさにそういう印象でした。
そうですね。無観客でしたけど、あの時はカメラマンさんとか照明さんとか音響さんとか、そういう人たちに向けてやってました。その場で聴いてくれる人がお客さんじゃなくても「良い時間であってほしいな」って。
画面の向こうにいる人にも、シンプルに歌と音楽を届けたいのはもちろんだけど、その空気や温度が伝わったら嬉しいなと思って歌っていました。
※:2020年10月21日から2021年1月31日まで、東京・銀座の「Ginza Sony Park」で開催中のKing Gnu × millennium paradeの世界を詰め込んだ「PERIMETRON」ディレクションによる展覧会。
でき上がったら「万華鏡」みたいな作品だった
ーー11/4 に発売されたEP『kaléidoscope』についても聞かせてください。
今回はアルバムじゃなくて、もうちょっとコンパクトに聴けるシングル集みたいな作品なんです。EPにすることや、どんな届け方が一番アピールしやすいかっていうのは、新井さんと君島が一緒に考えてくれたんです。
ーー“シングル集みたいな作品”とのことですが、何か一貫したテーマがあるようにも感じました。
2nd アルバムを出した後、「幻」ということについて考えることが多くて、「次の作品はそういうものになるかな?」って思ってたんです。でも、テーマを決めてたわけじゃなくて、自然と作ったものが「一貫したラインナップになってた」って感じなんです。
私、そういうことが多くて、でき上がってみると全部繋がってたっていう。この作品もでき上がってから、まさに「kaléidoscope(万華鏡)みたいな作品だな」って。
ーー息吹さんの歌詞にも、よく「夢」とか「幻」というワードが出てきますね。これらは息吹さんにとってどんな意味が?
それ、ちょうど考えてたんです。言葉にするなら「夢」は“現実の先”にあって、「幻」は“現実の隣”にある気がするんです。
私にとって、自分の見てる世界って現実なんですけど「幻」に近いっていうのかな? 昔から、直感とか偶然性とかを信じちゃうタイプなんですけど、自分の信じてるものって多面的に見たら必ずしも絶対では無いから、もしかしたら「その裏側もある」っていうか。
自分の知っていることや目に映るものだけが全てではないけど、それを分かっているからこそ信じたいものがあって。そこから生まれる“虚しさ”も含めて、自分にとって「幻」は“すべてを肯定する一言”でもあるんです。
ーー「夢」にも同様の意味が?
「夢」っていうのは、それよりもっと空想的っていうか。「今そこにはないけど…」っていう感じかな? わたしにとっては「幻」より掴めないもののようなイメージです。
みんなとつくり上げた『kaléidoscope』
ーー共同制作・プロデュースの新井和輝さんや君島大空さんとは長い付き合いだそうですね?
新井さんは、大学のビックバンドでベースを弾いていて、ジャズ研にもたまに顔を出していたんです。あと兄ともよく一緒にライブをしていて。高校生の時にも地元のライブハウスで観たことはあったんですけど、初めて新井さんのジャズのアドリブを観た時、射抜かれましたね!
君島とは、私が活動を始めた19歳くらいの時に地元のライブハウスで知り合ったんです。君島との出会いは衝撃的で、自分の音楽観もすごく広がりました。
二人とは地元が近くて同じ空気を吸って来てたからか、すごく安心感があって。頼りになる兄弟みたいに思っています。
ーー今作には、石若駿さんとKing gnuの勢喜遊さんもドラマーとして参加してますね。
そうですね。二人のドラムに対するイメージが強くあって。
(石若)駿さんは、曲の風景や景色を何を言わずとも感じとって、空間を広げてくれるドラマーなんです。“空間をつくってくれる”という方が合ってるかも。収録曲の「万華鏡」をセッションしながら録った時は、どこか別の次元にいるみたいでした。
EPのタイトルにもなった曲を、こうやって駿さんと一緒に録れたのは、自分にとっても心が救われるような感覚がありました。
(勢喜)遊さんと初めて会ったのは、もう7年くらい前なのかな。初めて遊さんのドラムを見た時から、「その名の通りのドラムを叩く人だなあ…」と思って。“真っ黄色のギラギラした太陽”みたいなイメージが強くあるんです。遊さんがこのEPに参加してくれたことで、そういう明るい色がすごく増したんです。
それが必要な色だったから、遊さんに参加してもらうことは楽曲的にも意味のあることでした。君島のギターを録る時も、自然と一緒にディレクションしてくれたりして、「ハローグッバイ」と「in a dream」は遊さんも一緒に作ってくれた感じがしてすごく嬉しかった。
二人を含め、メンバーとは人としての繋がりもあるし、すごくあったかい気持ちで制作できて。「みんなとつくり上げたなあ」という実感が深く残る作品になりました。
1993年生まれ。5歳からクラシックピアノを始める。幼い頃から自分で聴いた音楽をピアノでアレンジして弾いていた。その後、吹奏楽やバンド等様々なスタイルの音楽に触れる。ポップス、ロック、クラシック、ジャズ、オルタナティヴミュージック等に音楽的な刺激を受け、本格的に作詞作曲・弾き語りを始めたのは19歳の頃。クラシカルな魅力とその天性の歌声に、溢れる“衝動”が共鳴する、唯一無二の存在感は必見。
【リリース概要】
高井息吹『kaléidoscope』
2020年11月4日リリース
価格:1,818円(税抜)
APLS200