投稿日 : 2021.01.07 更新日 : 2021.12.03
【岩村美咲 インタビュー】アプリで開けたキャリアは驚きの連続 ー 気鋭ピアニストが語る感謝と約束
取材・文/松永尚久 写真/藤川一輝
音楽アプリで公開した邦楽ポップスのカバーが話題を呼び、2019年のモントルー・ジャズ・フェスティバルにも出演。また音楽ユニット<夜韻-Yoin->のメンバーとしても活動しているピアニスト、岩村美咲。20年には初EP『約束』をリリース。シンプルなピアノの音色のなかに希望や安らぎ、愛など、輝きのある感情を散りばめて息の長いヒットを記録している。21年1月9日には初のワンマン・ライブを控えている彼女に、これまでの軌跡、そしてピアノにこめた思いを聞いた。
思わぬ反響から新しい表現方法に気づいた
──今回は岩村さんのプロフィールを教えていただきたく思います。3歳の頃からピアノを弾き始めたそうですね?
母親の勧めで、エレクトーン教室に通い始めたのがきっかけです。最初は嫌々通っていたんですけど、小学生の時に合唱コンクールでピアノの伴奏をしたところ、魅力に気づいたというか。弾いている間はいろんなことを忘れられ、演奏にひたすら没頭できた。ずっと弾き続けたいと思うものになりましたね。そこからピアニストになることを目指すようになりました。
──当時はクラシックだったんですか?
はい。高校に入り、大学に進学するまでは。ただ、入学してみると自分よりも遥かにテクニックのある方がクラシックを専攻していることを知って、高い壁を感じたというか。挫折を味わったんです。そんな頃に、音楽アプリを通じてback numberさんなどの楽曲をカバーした動画をアップしてみたところ、思わぬ反響をいただいて、ここに自分の新しい表現方法があることに気づきました。
──その音楽アプリでは3万人以上のフォロワーがいたそうですね。
本当に嬉しかったです。自分の発信していく音楽が、どんどん広がっていくような感覚がしたので。
──岩村さんは、ポップス系のミュージシャンのサポートをたくさんこなしてきましたが、どういうきっかけで?
それもアプリを通じてですね。聴いてくださった方から、サポート演奏を依頼するメッセージが徐々に届くようになって、そこで初めて人前でライブ・パフォーマンスをしたり。新しい刺激の日々でした。
──夜韻-Yoin-(※)のメンバーとして活動することになったのも、その流れでですか?
はい。ボーカルを担当するあれくん(※)のソロ・アルバムでサポート演奏の依頼が届きまして、そこでギタリストとして涼真くん(※)とも出会い、意気投合してユニットが結成された感じです。
(※)夜韻-Yoin-=シンガーソングライター/アコースティックイメージのあれくんと、若手ロックバンドのギタリスト涼真、音大出身のピアニスト岩村美咲による音楽ユニット。
──ユニットを結成することを想像をされていましたか?
全然(笑)。1年前(2019年)に結成されたばかりなんですけど、あっという間にメジャーに進出して20年12月には初ミニ・アルバム『青く冷たく』をリリースしたり、無観客でしたがライブを敢行するなど、想像もしていなかったことの連続で。とても嬉しいですし、この状況をありがたいと思っています。
──ユニットではどういう役割を?
基本的にあれくんがソングライティングをするのですが、それの譜面起こしをしたりとか曲のベースとなるものを作って、アレンジを手がける涼真くんに渡すという役割が多いですね。
──そういう作業を通じて、音楽に対する向き合い方に変化は?
以前は自分の好きなものしか耳にしてこなかったんですけど、洋楽とかいろんな分野も聴くようになりましたね。音楽の視野が広がったような気がしています。
──また、19年にはモントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパンにご出演されましたね?
レストランでお客さんに食事をしていただきながら楽しんでいただくスタイルだったんですけど、そういうシチュエーションでピアノを奏でることが、小さい頃からの夢だったので、とても思い出深かったです。ステージ上ではほぼ緊張しっぱなしでしたけど(苦笑)。あまり主張せず、シチュエーションに寄り添えるような演奏を心がけました。最後には、お客さんから暖かい拍手もいただいて、ちゃんと耳を傾けてくださっていたんだなと感動しましたね。
EP『約束』で両親との“約束”が少しだけ叶った
──そして20年7月には初のソロEP『約束』をリリースされました。
自分にとって大きな一歩となった作品です。そこに踏み出すことができたのは、サポートしてくださったさまざまな方々のおかげです。特に両親に関しては、私は必ずプロのピアニストになるという「約束」をして、これまで何も言わずにサポートし、背中を押し続けてくれた。結果、EPとして「約束」を少しだけ叶えることができたのかなという思いを、ここに表現できたと思います。
──ずっとサポートしてくださったご両親も、この作品をお喜びになったことでしょう。
だと思います。本当に感謝で胸がいっぱいになって、泣きそうになりますね……。
──収録の全5曲は、ピアノのシンプルな音色をメインにしたシンプルな構成。夜韻-Yoin-などとの制作との違いがあったのではないですか?
ソロではボーカルがなく、ピアノが主旋律になるので、そこでどう楽曲の持つ美しさを表現するかを考えて制作しました。またクラシックを学んできたからこそ表現できるメロディも描くことができたらと思いました。
──さまざまなシチュエーションにあう楽曲構成ですが、ラストの「Be Brave」は背中を押すような力強いメッセージの伝わる仕上がりですね。
勇気を持ってほしいというメッセージが伝わる応援歌を作りたいと思って完成させた楽曲です。最初は、その思いが伝わるのか不安で何度も書き直したんですけど、結局どう思うかはリスナーの方々にお任せして、自分が思うことをストレートに表現しました。
──この楽曲のミュージック・ビデオは、楽曲の魅力をさらに広げるストーリー性のある仕上がりですね。
楽曲の世界とフィットした仕上がりになっていて、とても感動しています。
──冒頭に顔半分だけ登場されるのは、岩村さんですか?
はい(笑)。「約束」のミュージック・ビデオと同じ衣装と髪型にして登場しています。今回は私が主役の内容ではないので、あまり主張しない登場の仕方がいいのかなと思って、こうなりました。
──このEPを制作してみて、新しい刺激はありましたか?
今回はシンプルなサウンドだったので、次はもっと攻めた楽曲もあっていいのかなというか。ライブで盛り上がるようなものも制作してみたいですね。
──ライブといえば、1月9日(※)には東京・六本木CLAPSにて初のソロライブが決定しています。
※同公演は新型コロナウイルスの影響で延期に。
初めて『約束』の収録曲をお客さんの前で演奏できる機会。とても緊張していますが、楽しみでもあります。またゲスト・ボーカルの方も登場する予定なので、みなさんも楽しみにしていただけたら。
──今後はどんなピアニストになりたいですか?
クラシックというルーツを大切にしながらも、新しいことに挑戦したいですね。また、演奏するだけで泣けてしまうような、人の心を動かせる旋律を届けられたらと思います。
取材・文/松永尚久
撮影/藤川一輝
3歳からピアノを始め、福岡女学院中学校・福岡女学院高校音楽科を経て、国立音楽大学演奏・創作学科ピアノ専修卒業。「第23回全日本ジュニアクラシック音楽コンクール ピアノ部門全国大会」入賞。大学進学後、クラシックを学びながらサポート演奏活動も行う中、独自のピアノアレンジに支持を集めSNS音楽アプリ『nana』でフォロワー3万人を突破。現在はポップス中心に様々なアーティストのサポート演奏、レコーディングなどを行う。2019年からソロ活動にも踏み切り、ピアノソロアルバム「約束」をリリース。
岩村美咲 EP『約束』
2020年7月7日発売