投稿日 : 2021.04.13
【レビュー】チャールス・ロイド『トーン・ポエム』─いまだ“最高傑作”を更新し続ける名匠の気骨
文/土佐有明
重鎮、大御所、御大、大物、英雄。等々書き出したらきりがないほどまあとにかく大仰な形容で語られる人ではある。昨年80歳になったサックス奏者、チャールス・ロイドのことである。一般的には若き日のキース・ジャレットやジャック・ディジョネットを登用した『フォレスト・フラワー』(66年)が代表作、という認識が強いだろうか。行間から香り立つスモーキーな空気は、フラワー・ムーヴメントを通過したジャズ、と巷間言われたのも納得だった。
だが、現役バリバリで傑作を量産し続けるチャールスのプレイを見るにつけ、常に現時点が最高峰と呼ぶしかない、と。そんな思いを今手元にある最新作の『トーン・ポエム』を延々とリピートしながら強くしたのであった。本作はチャールスがザ・マーヴェルズなるユニットを従えるプロジェクトの3作目。ビル・フリゼール(ギター)、グレッグ・レイズ(ペダル・スティール)、ルーベン・ロジャース(ベース)、エリック・ハーランド(ドラム)が一堂に会する。
彼らの流儀は、ビル・フリゼールの作品群がしばしばそうであるように、アメリカーナの系譜を継ぎ、ルーツ・ミュージックを探訪し、その精髄をわしずかみにする、という光景が目に浮かぶものだ。いや、チャールスがそのような概略を述べたことはないだろうが、そうとしか形容できない世界が音楽の内奥に鎮座し、待ち受けているのである。
そもそも当プロジェクトの第一作目『アイ・ロング・トゥ・シー・ユー』ではノラ・ジョーンズとウィリー・ネルソンをゲストに迎え、極めて鮮度が高いサウンドを展開。2作目の『ヴァニッシュト・ガーデン』には、カントリーやフォークを主戦場とするルシンダ・ウィリアムスを大々的にフィーチャーし、これは完全に本気だな、と感服した。つまり伏線は周到に張られており、布石はちらばっていたのではないか。このシリーズの最高傑作である本作への。そう言いたくなる。
あらためて示すと本作は、ジャズ、ブルース、カントリー、ロックといったジャンルを自在に往還しながらも、懐古趣味ではない刺激やスリルを与えてくれる作品だ。様々なジャンルのハイブリットであり、コラージュ風でもある。懐かしいような新しいような、というありきたりな表現しか持ち出せない自分が歯がゆいのだが、実際そうなのである。
選曲の妙についても触れずにはいられない。オーネット・コールマン、セロニアス・モンク、レナード・コーエン、ガボール・サボらのカヴァーを含み、チャールスの手による新曲も収録されている。特にハマっている、というかナチュラルにハマりすぎて別人の曲であることを忘れてしまうのが、オーネット・コールマンの2曲。これには事情がある。チャールスは18歳の時にLAのジャズ・クラブで働いており、そこでオーネットの演奏を見て惚れ込んでしまったのだという。
あらためて顔面どアップのジャケットに剋目せよ。傘寿を迎えた彼の皺や年輪がそのキャリアを物語っている。こんなにいい按排の歳のとり方をしているミュージシャンがどれだけいることか。枯れるでもなく、衰えるのでもなく、いい具合に年輪を重ねている。一方で、今のおれを見てくれ、と言うさりげないアピールとも取れる顔面。うかつに目を合わせようとすると、耳目を射抜かれそうで恐ろしかったのは私だけではないはずだ。
文/土佐有明
ユニバーサル・ミュージック・ジャパン公式サイト
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