投稿日 : 2021.04.23 更新日 : 2021.06.05
【インタビュー】SOIL&”PIMP”SESSIONS が見た「世界のジャズフェス」─30か国のステージを踏んだソイルの知られざる勇姿
取材・文/小池直也
世界中のジャズフェスティバルを沸かせている日本人バンド。その筆頭に挙げられるのが、SOIL&”PIMP”SESSIONS である。彼らが2005年に2度目の海外ツアーを成功させた折、とあるインタビューでこんな旨のことを語っている。
――自分たちの音楽に国境の壁はない。2度の海外ツアーでそれが分かった。これからも日本や世界中のまだ行ったことのない街に行って、「ジャズは堅苦しくなく楽しめる」ということを広めていく。その気持ちはこれからも変わらない――
この発言の主は、同バンドで“アジテーター”を務める社長。15年前のこの発言をどう思うか? と彼に問うと、こう即答した。
「今も変わってないです」
すでに30か国以上を巡り、毎年のように世界中のビッグフェスを転戦している彼らだが、慢心はない。
SOIL&”PIMP”SESSIONS(以下、ソイル)が初めて海外の “ジャズ・フェスティバル” に出演したのは2006年。スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルだった。世界三大ジャズフェスに数えられるモントルーで、彼らが抜擢されたステージは「ジャイルス・ピーターソン・ワールドワイド」。現在もロンドンで多大な影響力を持つDJのジャイルスがオーガナイズする枠だ。そこにソイルが招聘された決め手は何だったのか? 社長は続けてこう語る。
「『パンクのスピリットを感じた』と言ってくれました。僕らを “トーキョー・ジャズ・パンクス” と紹介してくれて。あろうことかセックス・ピストルズのジャズ版だと評してくれた。…未だにその真意は分かりませんが」
オーガナイザーのジャイルス・ピーターソンは、ソイルの音楽にパンク的なエネルギーや新しさを見たのだろう。彼らがパフォーマンスをおこなったのが「マイルス・デイヴィス・ホール」であったことも象徴的だ。ロックやファンク、ヒップホップなど、各時代の音楽を生涯取り込んだ “ジャズの帝王”マイルスの名を冠したこのホールは、モントルーフェスのメインステージのひとつだ。
「やはりモントルーは歴史もあるし、格も高い。特別なものがありました。でもジャイルスのキュレーションだから、ある意味でホーム。お客さんもこちら寄りというか、ジャズのなかでもクラブ寄りでリアクションもすごかったです」
そのときの様子を収めた作品がライブDVD『U WANT MORE?』。このタイトルは、外国でパフォーマンスする際 “どう英語でアジテーションするか” に悩んでいた社長の見出したアンサーだった。
「ステージ上で『You want more xxxxx?』と言おうとしたのですが、何を言うか忘れて(笑)『You want more?』で止まってしまった。ところが、それで盛り上がったんです。偶然に正解が出た。僕にとって象徴的なワードなんですよ」
アフリカで体験した感動ステージ
そんな欧州ジャズフェスのデビュー戦を経て、翌日にはオランダのノース・シー・ジャズ・フェスティバルに出演。ともにヨーロッパ最大級のジャズフェスである。その後も彼らは、フランスの「ナンシー・ジャズ・パリュセッション」や「ヴィエンヌ・ジャズ・フェスティバル」、ベルギーの「ゲントジャズフェスティバル」など、欧州の主要なジャズフェスティバルに出演し続けている。もちろん、欧州以外の国々でも幾多のステージに立ち、世界中のオーディエンスを沸かせてきた。
なかでも特に印象に残るのは、南アフリカの「ケープ・タウン・ジャズ・フェスティバル」(2010年に出演)だという。
「南アフリカは貧富の差が大きい国で。このフェスに入場できる(チケットを買える)のは白人か、一部の裕福な黒人なんですね。そのかわりに、有料ステージの出演者たちが街中で無料ライブを行うんです」
これが楽しかった。
「得体の知れない僕らの音楽を、地元の子供たちが大喜びで聴いてくれる。純粋に音を楽しんでくれているんです。その状況が嬉しかったし “すべての人が楽しめる”というジャズフェスの在り方に感銘を受けました」
もうひとつ、インドネシアでの体験も忘れられない。アジア最大級のジャズフェスとして知られる「ジャワ・ジャズ・インターナショナル・フェスティバル」(2012年)に出演した彼らは、2日連続でヘッドライナーを務めた。そこで驚きの光景を目にする。
「基本的に、どの国のジャズフェスも客層は似ているんです。ところが、ジャワ・ジャズの観客は圧倒的に若い。ロックフェスみたいな雰囲気なんです。若い子もジャズを聴くし、ジャズフェスが若者文化のなかにしっかり根付いている雰囲気でしたね」
イギリスのジャズフェスが日本に
では国内はどうだろう。2000年頃からロックフェスが台頭し、以降は音楽フェスの主流をなしている。が、80〜90年代は “ジャズフェスの時代” だった。日本各地で大小さまざまなジャズフェスが開催され、巨大資本がスポンサードするイベントも多数。幅広い年齢層を動員しながら、ユースカルチャーの一角も担っていた。
「昔は規模が大きかったですよね。『ニューポート・ジャズ・フェスティバル・イン・斑尾』はタブゾンビと旧メンバーの元晴の別バンドが出演していて、観に行ったことがあります。その時はたしかボーダフォンが協賛で」
確かに、かつての「マウント・フジ・ジャズ・フェスティバル」はJT、「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」はハイネケンやスバルが協賛に付いていた。現在も「東京ジャズ」にはKDDIなどが協賛しているが、30年前と比較すると、その規模は縮小傾向にある。さらに今はコロナ禍とも向き合わなくてはいけない。
そんな時代の境い目に、ヨーロッパ最大規模の野外ジャズフェス「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」が日本に上陸。このステージにSOIL&”PIMP”SESSIONSも立つ。イギリスで初めてこのフェスが開催されたのは2013年。社長も当時のことをよく覚えてる。
「ラインナップがカッコ良かったんですよ。レジェンドだけでなく、DJや新しい才能もブッキングされバランスが取れていた。まさに自分の聴いていた音楽がそこにあったんです」
まさに、ユースカルチャーと接点を持つジャズフェス。その遺伝子は、今回日本で開催される「Love Supreme Jazz Festival 2021」(5月15日、16日)にも受け継がれている。出演者はDREAMS COME TRUEをはじめ、OvallやNulbarichといった実力派、iriらの新世代と幅広い。なかでも社長が注目するのは現役大学生マルチアーティストのVaundyだそうだ。
2日目のヘッドライナーを務めるSOIL&”PIMP”SESSIONSのパフォーマンスは、AwichやSKY-HIをフィーチャー。一体どんな内容になるのだろう。
「前半は僕らだけ、後半はゲストを交えて、という2部構成をイメージしています。後のことは何とも言えません」
と、多くは語らず。ただし手の内は明かさずとも、このイベントを「コロナ禍以降のフェスとして連続させていく」という想いは隠さない。
「大それたことは言えませんが、日本人がこの看板でやるなら、名前に恥じないようにヘッドライナーを務めなければ。またいつか海外のアーティストが来て一緒にできる日まで繋げていきたいです」
この言葉をいつか振り返ったとき、何を思うのか。15年後の彼に質問するのが楽しみだ。
取材・文/小池直也
Love Supreme Jazz Festival 2021
日時:2021年5月15日(土)、5月16日(日)
11:00 開場 / 12:00 開演 / 20:00終演予定
会場:埼玉県・秩父ミューズパーク(https://www.muse-park.com/guide/facility03)
出演:
【5月15日(土)】
Live Stage:DREAMS COME TRUE / Ovall – Guest : 佐藤竹善, さかいゆう and more!/ 黒田卓也 aTak Band / SIRUP / iri
DJ Stage:松浦俊夫 / 大塚広子 / YonYon / 矢部ユウナ / 柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
【5月16日(日)】
Live Stage:SOIL&“PIMP”SESSIONS – Guest : Awich, SKY-HI and more! / Nulbarich / WONK / Vaundy /
Answer to Remember Guest : KID FRESINO, ermhoi, Jua, 黒田卓也
DJ Stage:沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE/KYOTO JAZZ SEXTET) / DJ Mitsu the Beats / Licaxxx/ MIZUHARA YUKA
公式サイト:https://lovesupremefestival.jp/
SOIL&”PIMP”SESSIONS公式サイト
https://www.jvcmusic.co.jp/soilpimp/top.html
SOIL&”PIMP”SESSIONS 最新作
『THE ESSENCE OF SOIL』(ビクターエンタテインメント)