今も昔も“なんでもアリ”
かつてジャズはポピュラー音楽の「主役」として、さまざまなカルチャーに影響を与えてきた。同様に「ジャズ」もまた、他ジャンルの音楽を巧みに取り込み、変化を繰り返し、いまもスタイルを拡張し続けている。
ジャズ関連の著作で知られる批評家の村井康司は言う。
「ジャズって、そもそも形がないんですよ」
たとえば、ブルースには型がある。ポピュラーミュージックとして存立する音楽には、一定のフォームがあるのが常だ。
「ジャズにはそのフォームがなかった。あるとすると、いろんな音楽を取り入れて、いくつかの管楽器とピアノと、まあ、そこらにある楽器で、即興演奏を含んだ演奏をする、という方法論ですね。どっちかというと“やり方”の音楽で、素材はなんでも良い」
こうした生まれ持った性質が、ジャズを変化させ続け「現代のジャズ」を面白いものにしている。ジャズはこれまでどんな変化を遂げ、現在どんな様相を呈しているのだろうか─。
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注目すべきUKのジャズ動向
さらに村井氏はこうも語る。
「ジャズのはじまりがカリブ音楽の強い影響下にあったことを思うと、きわめて真っ当で自然なこと」
これは “イギリスの新世代ジャズ”についての言及である。昨今、イギリスでユニークなジャズ・ムーブメントが起こっている。この現象と、90年代の「アシッドジャズ」や、件のカリブ音楽との関係を探ると、興味深い事実が次々に判明する。
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もちろん、ジャズ発祥の地アメリカでも注視すべき現象は起きている。その動向は前出、村井氏のインタビューに詳しいが、こうしたジャズのスタイル変化は、その時々のポップミュージックや他ジャンルの音楽はもちろん、“過去のジャズ”とも強く結びついている。
同じく、政治や経済などの社会情勢、科学技術などもジャズの変化や進化に大きく作用してきた。もちろんこれは他の音楽ジャンルにも言えることだ。とりわけ近年、レコード産業の構造が激変したことも、ひとつのファクターとして挙げられる。
「現代のジャズ」が生んだ意外な産物
そんななか、ユニークな制作手法で快進撃を続けるジャズレーベルがある。グラミー受賞作を数多くリリースしている「アーティストシェア」だ。じつはこのレーベル、世界で最初のクラウドファンディング実行者としても知られている。
「どうすれば良質なジャズ作品を制作できるか」を考え抜いた同レーベルCEOが、2001年にクラウドファンディングというシステムを立ち上げ、この手法はあっという間に世界中に波及したのである。
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同レーベルから作品を発表するマリア・シュナイダーは、現代のジャズを語る上できわめて重要な存在だ。彼女は大編成のオーケストラを基盤にした作品づくりで、21世紀のジャズ界における “ラージ・アンサンブルの流行”をリードしてきた。こうした近年のラージアンサンブルは、往年のジャズオーケストラやビッグバンドジャズの歴史を踏まえると、漸進的でおもしろい進化を遂げていることがわかる。
その一方で、少数編成のユニットやソロ演奏作品においても(この2〜3年だけでも)驚くべき表現が後を絶たない。そんな“21世紀のジャズ”にスポットを当て、現代ジャズを理解するための作品を選出した。
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また、2021年上半期(1〜6月)にリリースされたジャズ作品に中から、傑出した30作をセレクト(6/29公開)。さらに昨年(2020年)リリースのおすすめ作品(上半期/下半期)も併せて俯瞰すると、昨今のジャズ情勢が見えてくるはずだ。
特集「現代のジャズ」記事ラインナップ