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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、有名DJなどもお忍びでやってくる居心地の良い珈琲と音楽のお店『梅丘QUINTET(クインテット)』を訪問。地元の人たちに愛される隠れ家的な空間は、文化が交差する不思議なコミュニティ・スポットでもありました。
大きな音も出せて、24時間好きなタイミングで営業できる
下北沢駅から小田原方面に各駅停車で2つめの小田急線・梅ヶ丘駅(東京都世田谷区)は、ファミリー層にも人気の住宅街。のんびりとした雰囲気がありつつも必要なものがしっかりと揃い、住みやすいスポットといえる。2013年12月にオープンした『梅丘QUINTET(クインテット)』は、駅から徒歩約2分の商店街の一角にある。
「物件を探しているときに、なんとなく世田谷がいいなと思ったんです。渋谷からタクシーに乗っても2000円程度なので、4人いればひとり500円。梅丘に馴染みはなかったですが、元々はカラオケ店だったので大きな音が出せて、24時間いつでも営業していいというのが魅力でした」。そのほか、商店街の雰囲気も気に入ったと語るのはオーナーの浜中聡さん。
クインテットにちなみ5個くらい要素があるお店にしたかった
1980年生まれの浜中さんは、大学卒業後に渋谷のクラブ・ハーレムで働き、30歳を前に独立を決意。それから2年間焼鳥屋さんで働いた。そのため、ヒップホップを中心としたクラブ系の人脈が広い。
「店名はマイルス・デイヴィス・クインテットなど、大好きなジャズから発想して名付けたんです。当初から変わらないテーマは”音楽”と”珈琲”。クインテットにちなんで5個くらいの要素があるお店にしたかったんです。珈琲、お酒、サッカーバー、レコード販売、アーティストの作品展示など、面白いことをしている人たちが集まるコミュニティ・スペースみたいな感じですかね」
オープン当初はソファもなく、カウンターのみの小バコ・クラブのような雰囲気だったという。それでも日中は近所の人たちが喫茶店として利用。夜になればハコ貸し的にジャズライブやDJパーティが頻繁におこなわれていた。そんなこともあり、「梅ヶ丘にクラブができた」と話題になったほどだ。
「何もない状態からスタートして、お客さんや仲間がこのお店を作ってくれたようなものなんです。ソファなど、ここにあるものは貰いものばかり(笑)。狙わずに自然とこうなっていったんです」
店内はカウンターに4席と、一度座ったらつい長居をしてしまいそうなソファが10席。友人宅にいるような雰囲気で、お店にいることを忘れてしまう。
「コロナになって、珈琲と音楽という僕が当初からやりたかったことがやっと理解された感じはあります。でも、来てくれる人は昔と変わらないですね。夜に来ていたお客さんたちも昼間に来てくれますし」
珈琲は直火・手回しによる自家焙煎
『梅丘QUINTET』の雰囲気を表現するのは難しい。お店とお客さんがダイレクトにつながっている様子はローカル店の趣きといえる。一方、場所柄もあり近くに住むDJのMUROさんやKENSEIさんもやってくるなど、集まってくる人たちの文化的背景は濃い目。かと思うと、ただの近所のおじちゃんおばちゃんも顔を出す。さまざまなものをウェルカムで受け入れた結果、不思議なコミュニティスポットとして愛され続けている。それらをつなぐものは、やはり珈琲と音楽なのだ。
「20代後半から喫茶店が好きになって、とくに表参道にあった大坊珈琲店には憧れがありました。直火・手回しによる自家焙煎を続けているのはその影響です。それと並行してジャズ喫茶にもよく行っていました」
2019年初頭には珈琲やスパイス、レコードの買い付けのためにインドへも渡った。そこで見つけたアラク地方の豆を直接買い付けて焙煎。さらには、「TRIO COFFEE」というブランドを仲間と立ち上げて珈琲焼酎の生産もスタートさせている。
ちなみにアラク地方の珈琲豆は、シュタイナー教育で知られるルドルフ・シュタイナーが理論構築をした「バイオダイナミック農法」により生産されている。オーガニックを用いた伝統農法のひとつではあるが、神秘思想なども入っていたり何かと興味深い。
「サードウェーブの次はもうないと言われているんですけど、僕らは珈琲の概念を超えるものを作れないかと模索しているんです。珈琲豆を使ったクラフトビールも開発中で、その後はスパイスをふんだんに使った新しい珈琲のお酒など試作を重ねています」
店内ではグアテマラやマンデリンなど一般的な珈琲も提供。珈琲豆は通販もおこなっている。それら従来の味わいはそのままに、新しい角度での楽しみ方を探求しながら、常にチャレンジを続けている。
あまり気にせず、いつも好きな曲をかけている
音楽に関してはレコードを中心に、常連のDJたちが制作したMIX CDなどがかかる。レコードも販売しており、中古盤や仲の良いアーティストの新譜が並ぶ。
「ジャズ喫茶やジャズバーではないので、基本的には好きな曲しかかけないです。その日の天気を意識することはありますが、それ以外はあまり気にしていないですね」
浜中さんがジャズを聴くようになったのは24歳の頃。ヒップホップの影響が強かったという。
「最初はドラム・ブレイクスを探す感じで集め始めて、ジャズとして好きになったのはマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーン、エリック・ドルフィーあたり。ハード・バップも好きですけど、ヒップホップ寄りのソウルやジャズ、あとはフリージャズもよく聴きます。レゲエも聴くので、大雑把に言えば黒人音楽が好きなんだと思います(笑)」
スピーカーはイタリアのRCFを設置するなど、音響面はクラブ寄りなサウンドとなっている。
「レコードでかけることが多いので柔らかい音は意識しています。内装がウッドなので、木に跳ね返って柔らかい音になるんですよ」
最近は昼間の営業になっていることもありランチも充実。カレーやナポリタン、チキンオーバーライスが単品500円とリーズナブルに食べられるのも魅力だ。
「最近、表通りに看板を取り付けたので、地下まで降りて来られる方が増えてきたんです。勇気を持って足を運んでくれたお客さんは大事にしていきたい。空間をうまくデザインして、その人たちをおもてなすのが僕らの仕事かなと思っています」
知れば知るほど奥行きを感じる不思議なお店。ぶらりと足を運んでみるだけで、意外な出会いやアイデアの源泉が見つかるかもしれない。そんなワクワク感のある場所はそう多くないはずだ。
取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥
・店舗名 梅丘クインテット
・住所 東京都世田谷区梅丘1-15-9 スペース88 B1
・営業時間 10:00-17:00 (L.O.16:30)
※コロナ禍は営業時間が変わりやすいため下記HPやSNSでご確認ください。
・定休日 水曜、木曜
・電話番号 03-6804-4167
・HP https://www.quintet2013.com/
・Facebook https://www.facebook.com/quintet.2013
・Instagram https://www.instagram.com/quintet.2013/